第160話「勘違いだと!……いや……問題はそこじゃない!」

僕は去り際に手に持っていた『逆鱗の破片』をテイラーに渡す……『奥さん』の件でコレがあればチャラに……してくれるのでは無いだろうか?



「こ…コレは?」



「あんだけ有るんで差し上げます。皆の分のタリスマンを作る素材に使って下さい。それになんて言うか……『奥さん』を救う為とは言え……目の前であんな風に高級ポーションを飲ませる真似してすいません。ああするしかあの時方法が……」



「ん?妻?何のことだ?妻はここには来てないぞ?救うってことは……ポーションの件か?シャインの事ならアイツは『妹』だぞ?」



 僕とロズがビックリして目を合わせる……ロズは勘違いしていた様だ。


 ロズは彼等が大概2人で居るしとびきり仲が良いので『いつも言う自慢の奥さん』だと思って居たらしい……周りの冒険者もびっくりして声が出ない様なのでおなじってことだ。



「テイラー!ここに居たのね!私が第二連合騎士団の陣営で救護している間に居なくなるんですもの……一言くらいは言ってよ!?彼は私の命を救ってくれた方なんだから………」



「おお!すまんなシャイン!そうだ聞いてくれ!ヒロがなお前の事を『俺の奥さん』だと勘違いしてたんだ!笑えるだろう?妹だと言ったら『凄いびっくり』してたぞ!」



「いや!だってロズさんが『奥さん』と言ったんですよ!だからてっきり!ポーションの件を謝ったほうがいいと思って!」



「ち…違いますって!俺が言ったのは『旦那さん』ですよ!」



「ロズさん!それって同じ意味ですよ。言葉が違うだけじゃ無いですか!」



 若干僕とロズのコントになっていた。



 しかしテイラーは子供の様にはしゃぎながらある物を見せる。



「あのな!シャイン!お前のおかげでな………『逆鱗の破片(特大)』を3個も貰ったんだ!」



「ちょっと!兄様!それは、お返しした方が!助けて貰って更に逆鱗貰うって……ダメです!それは!」



「いえいえ!『奥さん』と言ったのは勘違いですが、僕もそのそのなんと言うか……ゴニョゴニョ……」



 シャインの口から直接兄である説明を聞いた冒険者も、勘違いが確信に変わり更にビックリしていた。



 僕はこの後の予定もあるので、ここでロズとコントを繰り広げているわけにも行かないし、何よりシャインさんの顔がまともに見れない。



 急いでダンジョンに向かうべきだ!今日の目的である昇格試験をちゃんとしてダンジョンの中でゴブリン倒して冷静になろう!と思った。


 テロルが御者をする馬車に乗り込むと、周りが何やらもめていた……今度は『モノ』を貰った銀級冒険者がダンジョンまでの護衛を買って出てくれていた。



 律儀なのは分かったが喧嘩はダメだ。



 テイラーも買って出たが今までの疲れがひどく、そもそもスキルの残りが無いことからエクシアに却下された。



 テロルは御者として、護衛にはベンにアルベイそして何故かカブラの4人が付き添ってくれた。



 テイラーとシャインの指示かもしれない……それか特大骨の効果かもしれない……



 ロズがここに残るのは僕以外の異世界組を守る役目があるからだ。



 今のところのロズのミッションは『伯爵』から『ユイナ』を守る事らしい……男爵が笑いながらそう話していた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 馬車は颯爽とジェムズマインと鉱山を繋ぐ貴族専用直通路を走る。



 皆が言っていた様に昇格試験の会場である、トレント(溝)のダンジョンまではあっという間だった……行きは湾曲した山道を通っていたので遠かったが余計に曲がらない分早かった、ダンジョン自体が鉱山に近い距離な事もあるが何にせよ助かった。



 馬車の中では『魔力を帯びた骨(特大)』を見てはずっとにやけるカブラがいた。



 彼女は時折頬擦りを骨にするもんだから、それを見ていたベンとアルベイは苦笑いしていた。



「嬢ちゃん本当に嬉しい様だな!」



「そりゃそうでしょ!こんだけ有れば装備全部を「魔力持ち装備」に変えられるんだよ?夢にまで見たフル装備!このサイズの魔力素材……金貨250枚でも買えないよ!それがなんと!『タダ』まじで神様だよ!」



「そうじゃな!それだけデカければ帝都のオークションでなら金貨500枚でも飛ぶように売れるじゃろう!それで?この坊主にもらったんか?」



「そうなんだよぉ〜隠してたら見て見ぬふりしてくれたんだよ〜」



「それは…………貰ったんじゃなくかっぱらったって言わねぇか?」



「見ても『見てないふり』したんだから!くれた事になるんだよ〜ねーひろー?」



「まぁあんなににあっても使いませんしね……多分ですけど……僕駆け出しだし。まぁ伯爵様と男爵様に渡した素材から必要分切り出したら多分分配するんでしょうから……『後で話そう』言われましたからね」



「話さなくてもあげるんですがね……加工も考えれば大変だし……あのサイズ切り出すだけでも幾らかかるんですかね?僕くらいの底辺だったら必要になったらちょこっと使わせてくれれば良いだけな気がするんですよ。」



「あんな大きい素材全部使うことはできないと思うんです。装備にしたって加工するのに『お金』かかるし!!」



「「「「アンタみたいなのが底辺ならアタイ(俺・儂・私)等はそれ以下ですよ………」」」」



 なぜか声がハモっていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「すいませーーーん!銅級昇格試験を受ける予定の方いらしたら、一緒にパーティー組みませんかーーー!最低2名最大5名の2パーティ連合組みまーす!」



 僕が大声でダンジョン前で叫ぶと周りから視線を集める。



 銅級冒険者や昇格試験を受けに来た駆け出しからだ……



 僕が貴族専用直通路から姿を表した時、それを見た冒険者は皆距離を置いていた。



 理由は簡単で勝手に侵入した冒険者として衛兵に捕まると思ったからだ。



 しかし、背後から騎士のテロルが来たことで状況は一変する。



「ではヒロ殿必要に応じてこの衛兵に声をかけてください。私共は馬車で待機していますので。」



 そう言うとテロルは馬車へ戻っていく。



 周りは貴族と思っているのだろうか?それからは一定の距離を保って様子を見ている。



 周りは銅級冒険者であれば自分のパーティーに足らないクラスを募集したり、ソロであれば自分のクラスを明かしてパーティーに入れないかを相談している。



 ギルドでパーティーを組めなかった冒険者はソロ(単独)で潜るか、現場で探す以外ないのだ。



 それに比べて経験の浅い昇格試験を受けに来た冒険者は、分かりやすく端で様子を伺ってる。



 そこで1人ずつ声をかけるのがめんどくさい僕は大声で募集をかけて見た。



 全6人で2つパーティーにはなるが戦闘が目的でない。



 要所でのチェックが必要なのだが1フロアで最高4個チェックが受けられる。だから3人1組のパーティーならば地下2階まで降りればクリアなのだ。



 因みにダンジョンからちょっと離れるが入り口付近にはテントが張ってあり、一般用と昇格試験用の二つに別れている。



 行商人が傷薬などダンジョンで使う物をメインで売っているが、ダンジョン前もあり街より少し高い印象だ。



 そこで傷薬を買っていた冒険者が声をかけてきた。



「条件は?前衛募集何人?私…ア…アタイはこんなナリだけどタンク希望なんだ。もしアタイで良いなら前衛は任せときな!……あ!自己紹介まだだったね、私は……ア…アタイは………スゥって言うんだ。よろしくね………な!」


 僕とその女性冒険者が話していると、様子見をしていた周りがソワソワし始めコレまた女の子二人組が小走りで近寄って来た。人数的に見ればコレで既に4人になるので慌ててフードを深く被った男もこっちに向かってくる。



「すいませんお兄さん……私達2人一緒でも平気かしら?」


「その……一緒にいつも私達行動してるので、あの……誰か前衛の人が1人いないか探してたんです。」


 僕は頭数だけ欲しかったので軽く許可を出すと凄く2人とも喜んでる。


 なんでも彼女等は2人セットの時点で昇格試験枠の空きが1人なので出来れば前衛が欲しかったらしい。



 ちなみに活発そうな方がモアで大人しい感じの子がユイだった。



 そんな話をしていると男がフードを取り話しかけてくる。話し方からして若干胡散臭そうだ。



「にぃさん…シーフ枠に空きはないか?一応前衛も出来なくはないが遠距離の方が得意だ!スリングは持参してるから後ろでも平気だ。此処はダンジョンだから居た方が万が一の時は楽だぜ?宝箱だって出る可能性あるだろう?C迄だったら開けられるぜそれなりに修羅場潜ってるんだぜ!」



 かなりフランクに話すので直前の女の子2人は若干引いてるが、試験を受けるための頭数合わせが目的なので人数さえ集まれば平気だから僕は気にせず仲間にする事にする。


 何せロズの様な前例がある……この人だっていい人かもしれない……因みに名前はチャックだ。

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