第159話「物欲万歳!僕の秘密は安泰そうだ!」
直通路からでも行ける事を聞いた僕は森を突っ切る必要があるにでは?と思ったが、ダンジョン前は樹々が切り開かれているので直通路からでも向かえるらしく、通常は兵士が待機しているので通れないが貴族が一緒なら通してくれるらしい。
ひとまずユイナ達が救護しているので僕たちは手持ち無沙汰だし、カブラの言う通り向かってみると、小さな破片やら大きな破片を持った冒険者が僕ににじり寄って来る。
テイラーが一緒に来て伯爵とギルマスに確認を取る。
勿論今彼等が持っているのは、ほぼ僕の物らしい。
伯爵は巨大な尻尾をそばでマジマジと見て触ってと繰り返している。
男爵は剛腕をウロウロしながら見て回っている。
もともとが一戸建ての大きさ話ある身体なので腕も尻尾もかなり大きい。
「尻尾は伯爵様に贈呈します。先程のユイナの件もあるのでそちらでご容赦を……大切な仲間なので。後男爵様にはその剛腕を差し上げます。今回無理なお願いを聞いてここまで来た上に騎士のテロル様までお借りするのです。お納めください。両方とも僕の部位破壊である事はテイラーさんに聞けば確認していただけるはずです。」
「なんだと!それは誠か!この巨大な尻尾を!……でも流石に全部は貰えん!貰っても全部などとての消費できん。後で『ちゃんと話そう』貴族専用通路の使用の件は気にするな!あの程度で……貰うのは例え一部だとしても何もしていない私は寧ろ貰いすぎだ」
「なんと!『今回も』戴けるのか!前回のソードマンティスだけでも素晴らしい素材だったのに!あ、『アイアン・ソード・マンティス』だったな!すまんすまん『特別個体』なのに間違えてしまった!」
「私も流石にコレ全部は……爪の一本と僅かな骨など貰えればと思ってたんだ。私もザム同様後で『ちゃんと話そう』テロルの事は気にするな!娘の件もあるのだから。それにしてもコレでまた借りができたしな!流石にコレは返せる気がしないがな!はっはっは!!」
魔法契約が切れているのに気がついた男爵は意味ありげにそう言う……因みに魔物の名前も間違っている。
冒険者の取り分を貴族が欲するのは禁止されているので、すごく気を使うようだ。
それにテイラーの奥さんを救うためにこの状況を僕は作ったのだ、それは人命優先だから仕方ないとして、この状況はもう隠しようがないのだ。
周りの冒険者も欲しくてたまらないのだろう、手に持った『僕が破壊した素材』を各々が持っている。
僕は手に持つ破片のこれが全部僕の持ち物とテイラーとギルマスに確認を取った上で皆に言う。
「今日の僕の事は『絶対に他言しないで』下さい。討伐は『テイラーさんの指示の元』行われました!これは揺るぎようのない事実です!僕も攻撃はしましたが……『決して目立ちたくない』んです!なので守れる方には私が破壊し『皆さんが今手に持っている』素材を差し上げます。」
「その素材は『自分達で攻撃して切り落とした』または『削り落とした』ということです。『守れる人』はお持ち帰りください。」
「「「「「「まじかーーーーーーーーーーーー」」」」」」」
「絶対他言しない!絶対だ!」
「俺も今日のことは言わない!」
ダメ元で皆そばにいたのだろう。
1人ずつ聞いてくるつもりだったのだろうか?皆同じ大きさの素材を持っていた。
全部デビルイーターの『魔力を帯びた骨』だった。
目の前にいた冒険者に、何故皆がほぼ同じ大きさの同じ素材を持っているのか聞いてみたらこの素材で、魔力を帯びた武器が生成できるらしい。
骨を擦り潰してそれを元に武器を加工すると魔力を帯びるのだとか……。
サイズに関してはデカ過ぎると貰えないかもしれないということで……大きすぎず、小さすぎずのサイズを皆で話したそうだ。
腕の付け根の骨や破壊した拳の骨、そして尾骨などが主だそうだ。
ダメージを与えるためにウォーターバレットを沢山撃ち込んだので、腕などに当たった場合かなり破片が飛び散っているようだ。
皆が本当にもらって良いのか確認のために見せにくる。
「太っ腹だな!あれ一個で金貨5枚はするんだぞ?銅級冒険者など本当に欲しい素材だからな……戦闘が相当楽になるはずだ!」
後ろから声をかけられたのはテイラーだった。
僕は足元に落ちていた拳ほどもある鱗の数枚を手に取ると『逆鱗の破片』だった。
「君の持っている『逆鱗の破片』はタリスマンに加工すると良い。まぁまだ沢山あるから何個でも出来るか……羨ましい限りだ。」
僕はそう言われて不思議に思った。
デビルイーターの胸にはまだ逆鱗が残っているのだ。
あれは全員で分配なはずだ。
「あの巨体にはまだ逆鱗くっついてるじゃないですか?テイラーさんも作れるはずですよね?大きさが必要なのですか?」
僕の質問にビックリした顔でいたが、『駆け出し冒険者』と言う事を思い出したテイラーは『ふむ』と言って説明してくれた。
部位破壊した場所の素材は全部自分の物になるらしい。
要は撃ち抜いて破壊された逆鱗は特殊素材なので、剥がれた物から体についたままの物まで全て『僕の物』らしい。
僕が撃ち抜かなかったら皆が貰えたと言う事じゃ無いか?と言ったら、結局それはランダム配給になるので誰か1人の総取りになる様だ。
逆鱗は加工が大変で全員分に細かくするには手間と労力がかかり過ぎるらしい。
解体担当も暇じゃ無いし、そもそも本体はお金を貰って解体するらしい。
部位払いで差っ引かれる場合が殆どなので、実費は掛からないが……
なので大概この様な場合は1人が貰い、有力者に売り付けるか…上級冒険者が人数集めて共同で買い取るか、のどちらかの様だ。
しかし魔物本体の『通常素材』は討伐者全員の物になり、分配対象になるらしい。
この場合外骨格や皮、魔力を帯びた骨等らしい素材を切り分けて行く上でより分けるらしい。
その上で分配で貰えるのは1種類までで何が貰えるかはランダムなのだそうだ。
素材の中でも今回皆が欲しかったのは『魔力を帯びた骨』に意見が統一され、貰えないか相談するつもりだった様だ。
何故それが解ったのか……
すごく不思議に思ったので鑑定使える人がいるのかと思ったら、凄く簡単な話で数人かかりで鑑定スクロールを使った様だ。
共有物である本体の担当場所を決めて鑑定して回った結果、銀級冒険者が一番最初に手に持ったのが砕けて落ちた『骨』だったそうだ。
そしてその中の1人が一言『コレ欲しいな……コレがあれば武器の精度が飛躍的に上がって、一つ上のダンジョンに行けるな……間違いなく……』と言ったせいで、それを聞いた銅級冒険者が素材の重要性と貴重性に価値を質問して皆にどんどん広がった様だ。
その結果誰が大きいとか、大き過ぎるのは持ち主である僕の気分を害し皆が貰える可能性をゼロにするとか……で揉めて喧嘩になる寸前だったらしい。
最低でも金貨5枚の価値があり、それをかなりの数の冒険者が持っているのだ。
冒険者がここに100人以上はいるので、金貨にすればゆうに500枚以上だ。
総額を考えれば貰えるはずも無い。
数名が貰えればラッキー程度だったが、しかし蓋を開けてみれば意味の分からない条件で全プレだったので皆がビックリした……と言うわけだ。
ほぼ無条件『寧ろ今日の事を他言しない事』で銅級とすればこんな貴重な物が貰えるなら、街に戻り次第魔法契約を結んでも良い……という銅級冒険者が続出したが、それをすると1週間は潰されるので普通に黙ってもらうことにした。
因みに街でその事を言っても僕は『絶対にとぼける』と皆に念を押して言ったら、伯爵と男爵は自分達はもっと良いものを貰っているせいか『絶対他言無用』と大きな声で言ったので貴族の言いつけである以上は全員守る様だ。
カブラはちゃっかりさっき見せた大きな骨の破片を自分のクロークに包み、『見えない!知らない!何の事かわかんない!』をしていたが、しまう時に目があい僕は見て見ぬ振りをしたら、ニタニタして誤魔化していた。
「ヒロ殿!そ…そろそろダンジョンに向かった方がいいのでは?テロル!馬車の準備は?」
男爵は貰えるものを貰ったせいか声が上擦りながらも僕の予定を気にし始めた。
万が一にも間に合わなかったら貰えなくなる恐れが……と心配した様だ。
それに呼応する様にザムド伯爵も「う……うむ!そ…そうだな!途中何があるか分からん!ゴブリンなども出るかもしれん!早めに行くに越した事はない!」
と半分追い出しにかかっていた。
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