第152話「やってくれたぜ……水っ子」
「構え盾!!攻撃がくるぞ!堪えろぉぉぉ」
止めることが出来たのは盾スキルを使った結果だが、練撃されると決壊してしまう技なので、スキルを使えば使うほど知識レベルの高い魔物だと対応されてしまう恐れがあった。
凄い衝突音がするも盾役のタンクが見事に攻撃を受け止める……スキルの効果だが既に3回目だ。
なので一番最初から数えるとデビルイーターが氷の餌食になるのは4回目になる。
「水魔法一斉射撃開始!生活魔法の水生成でも撃てそうなら使って!もっと撃って!魔獣の足元を水浸しに!射撃中止まで3!2!1!射撃中止!」
「唱えます!アイスフィールドォ!!!」
実に4回目にしてアイスフィールドの使用時間のコツを掴んだ……要は慣れだ……
試した1回目は普通効果で2度目も同じ、3度目でやっと中級を出し周りが騒めき始める。
アイスフィールドは発動時間により周囲に及ぼす効果が変わるのだが、消費MPは変わらないコスパの良い魔法だった。
唱える時にどの程度の時間かをしっかり集中して意識する必要があり、効果を長時間にするほど集中力がゴッソリ減る感じで疲弊感が半端ない。
少しでも気を抜き集中が乱れると効果(小)になる様だ。
小効果の場合は敵に恐怖を与えてフィールド効果の氷結が発生する。これは水分のみを氷らせる感じの魔法だ。
中効果の場合は状態変化氷結を敵に与えてからフィールド効果の凍結が発生する。これは水分を強固に固める効果もあった……標高が高いせいかも知れないが調べる術は今はない。
そして棚ぼた効果だが、あらゆるものを凍らせる効果が付加されるのでデビルイーターの傷口が凍傷になった。
ここで共に戦う仲間を見る限りは、凍傷になった感じはないので敵だけなのだろうか?それとも皆痩せ我慢なのだろうか?
大効果の場合は敵を凍結の異常状態にする上、フィールド効果は中効果と同じ凍結だった。
唯一違うのはアイシクルフィールドと呼ばれるだけあって周囲に氷柱(大)を一定時間降らせるのだが………
氷結異常状態のデビルイーターに大きな氷柱が当たり見事にすっ転んだ……その上甲羅が重いので転ぶ時は間違いなくひっくり返るのだ、うつ伏せで倒れる事が無いので柔らかい腹が上に向く。
今まで3回は凍らせて顔面狙いでバランスを崩していたが、4回目にして友好打の範囲ダメージを与えている。
硬い氷柱が降り注ぎガシャンガシャン音を立ててぶち当たるが、魔法で出来た氷柱なのでダメージを与えたり、何かの対象にぶつかるとダメージを与えて壊れて消えてしまう。
味方への誤射を心配したが、当たってもダメージはないらしくフレンドリーファイアの心配はなかった。
ただし精神的ダメージは大きい様だ。
「ちょっと!正気なの!?仲間を殺す気?ワテクシが居なかったら皆死んでるよ!」
ビックリした事に水っ子が話しかけて来た。
極小サイズだが周りの水を使い化現した様で、プンスコしながら肩に載っている。
「私が水魔法で皆にシールド張ってるから良かったけど、皆こんな氷受けてたら多分死んでる人多いよ!?ちゃんと考えないと。私の未来の信奉者を減らさないで!水魔法使うってことは私の信者になる方々ですから!!」
戦闘中にめっちゃ怒られた。
「じゃあ!アレってば水っ子が皆にシールド張ってくれてたのか!なんかごめん!使ったことのない魔法だったから効果がね!」
びっくりした僕はつい水っ子に対して言葉を出して喋っていた。
周りには僕が支持するために水魔法の使い手が居るのにだ……その言葉を聞いた数人の魔法使いが運悪く僕の肩に乗っている水っ子を発見してしまう。
「なぁ!えっ!?水の………水の精霊様!?」
「ウソ!本当に!水の精霊様はまだ世界にいらっしゃるの?居なくなられたと師匠が!」
「この人は!だから……水魔法を!今まで水魔法を使い続けて本当によかった………ううううう…………」
見つかってしまった水っ子は、周りの水を集めて勝手に化現し始める。
周りの魔法使いに解るように、そして水魔法の使い手に分かる様に念話をする水っ子。
「水の使い手達よ!我が信奉者達よ!今からあなた方に私からとっておきを授けましょう!『私が作った魔法』です」
僕は嫌な気しかしなかった……水っ子は自分だけでやればいいのに……まさかの僕の手を取って……
「我が契約する主の真の力を示す!」
「ウォーーーーーーーターーーーーーーーーー!!スピアーーーーーーーーーーーーー!!!」
片手では僕の手を取りながらも、水っ子の手に最大サイズ(3倍)の水の槍が生成されると、デビルイーターに思いっきり投げつけた。
投擲した巨大な水槍は目にも止まらぬ凄い速さで、デビルイーターの尻尾の付け根あたりに着弾すると紫色の血飛沫と共に千切れたクラッシャーテイルがぐるんぐるんと風を切りながら空高く宙を舞う。
物凄い轟音と共に地面に落下する。
「水の魔法使い達は一斉に歓声をあげる………しかし対照的に突然の有様で言葉を失う周囲……」
精霊で性別不明だが……大馬鹿野郎だ……今まで隠してたのに脳みそお花畑の水っ子は目立ちたがり屋なので、見つかった勢いでやってくれやがった。
「いいですか……人の子よ!私はこの者に『懇願され』貴方達を助けに来ました!」
「この者がする様に!コレから貴方達は水の精霊を無闇に語ってはなりません。今日、目に見た存在を心に水魔法の精進をしてください。運命があれば私たちは彼の地でまた会うでしょう!」
「くれぐれも水精霊の名を忘れてはなりません!しかし…必要以上に今日の事を無闇に語っることはなさらぬ様に」
おい!依存しないのが精霊じゃなかったのか!水っ子!と言いたいが……水っ子は僕のお小言を回避すべく化現を解除したのかその場に大きな水溜りを残して消える。
水で体躯を作らないので精霊と絆が無い他の者からすれば消えたかの様だが……透明な小さい女の子の姿で現在僕の横にいる。
水っ子は僕が話しかけない事を理解している……話せばそこにいるのが分かってしまう。
僕の視線だって何も無い部分を注視する姿を見れば、感が良ければ気がつくだろう。
水の上級精霊が言ってたが、精霊との絆が重要で頭が認識してしまえば姿を確認できてしまう。ホラー映画で言う幽霊のようなものだ…気がつかなければ存在しないのも同じ的な……精霊と絆を持てば祭壇を介して来た場合即座に確認できてしまう。
周りの魔法使いの視線は僕に集まる一方で心が痛い……ガッツポーズしてるのだ……『悪い魔獣を懲らしめたぞー!』と……
「皆さん!いいですか?街で冒険者や知り合いに僕の事は言わないでください!僕はこの街にまだ居たいので!お願いします!」
「あと、水の精霊は『目立つのが嫌い』です!精霊はあるがままを受け入れます!何にも依存しないのが精霊なのです。必要以上に風潮すれば悪い結果になりかねません!いいですね!」
「「「「「「「ハイ!」」」」」」」
物凄くいい返事だった。
『目立つのが』嫌いの言葉に、水っ子は激しく首を横に振っていたが見ないで話を続けたのは言うまでも無い。
今日は銅級昇格試験だったので装備はダンジョン産で統一していた……万が一があっても対応するためだが、鉱山にくるとわかっていたら祭壇付きの装備は置いてきたんだが……
後悔は今更だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
エクシア達はひたすらに馬車を飛ばし鉱山に向かう。
馬車の先をいくのは勿論テロルだ。
稀にゴブリンの斥候が森から出てくるが前を走るエクシア達の馬車からベロニカが箱乗りして器用にヘッドショットする。
後ろの馬車ではウィンディア男爵が入れ込む理由を知りたい伯爵がこれでもかとばかりに畳み掛けるが当然魔法契約しているので言えない。
その事を伯爵は知らないのに「ふむ……魔法契約か何かで制限されていると見た。なら……本人達に聞いてみよう。」そう言って今度はソウマが質問の嵐だったが、ユイナの一言で落ち着くことになる。
「多分鉱山に着けばわかります。エクシアさんは純粋に心配してますが、私的には違う意味で心配です。」
「ほう!聴くより見たほうが早いと申すか!ならばジュエルイーターが既に瀕死だったりな!はっっはっはっはっ!」
男爵には予知能力のスキルがあったのかもしれない。
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