第151話「鉱山への道のり…望む伯爵と譲らぬ男爵」

「どうしたウィン……お前が声を荒げる等は過去にもそうそう無いぞ!?」



「すまないザム……いやザムド伯爵ヒロと言う冒険者は娘達とテロルの命の恩人なのだ……どうかこの者達に専用路の使用許可を出してはくれないだろうか?」



「なんと!?娘達はわからないでも無いが……テロルもか?テロルを助けるだけの冒険者と言うことか?亡くすには惜しい逸材でもあるな。」



「ウィン……すまんな悪く捉えないでくれ、今俺も王都で色々大変なんだ特に鉱山絡みは……な。お前たちファイアフォックスというギルドだったな?噂は聞いておる。理由は後で聞くとするか……うむ!ジェムズマインの領主として今ここに使用を許可する。」



「コレで良いか?ウィン?」



「すまない!ザム!恩にきる。これからもお前が治めるこの街のため今まで以上に尽くそう!!」



「エク姉さん用意できたぜ!コレで何時でも鉱山にいける!旋風の6人も連れてきた!馬車の用意はど…う……………男爵様!?うげぇ!!………伯爵様まで!なんで…………」



 うげぇとは失礼だロズ……と言いたいが仕方ない。



 このタイミングで爵位クラスが二人も此処にいるとは夢にも思わない……その上伯爵でこの街の領主もいたらそれは『うげぇ』も当然なのだろう。



 ウィンディア男爵はまだ怒りが収まらないらしく、伯爵と男爵は2人とも来た時とは正反対の感情になっていた。



 ザムド伯爵の前ともあり酷い言葉遣いは避けている様だが、ウィンディア男爵の目つきがヤバかった…エクシアの様に『憤怒』でも覚えたのだろうか



「馬車の問題か?ロズ?ならば私の乗って来た馬車を使うと良い…乗れる人数は限られるが無いよりは良いだろう。」



「私の乗って来た馬車も使うがいい。ウィン……お前の大切な恩人のためなら喜んで貸そう。」



「すまんなザム……伯爵になったって言うのに男爵である俺なんかの為に……」




「エクシア!ギルドには鉱山へ行く為の馬は今用意している。6頭までならすぐに用意できる……幌馬車で良ければ馬はそっちに繋ぐ……御者台2名で内部は4人乗り2頭引き馬車が合計3台用意できる。」




 テカーリンの言った事で、『ならばワシらがそっちの幌馬車の御者をするぞ!』と輝きの旋風パーティーが御者に買って出る。


 御者台が2人ようなので彼等が御者になれば最大6人が連れていける。




「テロルお前はすぐにこの街の別邸まで行き馬で来るんだ。行きに魔物が出ないとも限らない……だから念の為お前は馬で先行として行き彼等の安全と道の安全を確保せよ。」



「マッジスは帰り用の馬車2台を用意して、時間差になるが遅れても必ず鉱山に来い。先行するギルド用馬車分の御者を追加して連れておけ」




 テロルがジェムズマンの別邸に急いで向かうと、気が逸るエクシアを宥めるロズ。



 まだメンバー全員が集まっていないのだから勝手に出発できる訳もなく、到着後は当然戦闘も覚悟せねばならない。



 向かったら最後、何があるかもわからない……予備の装備は最悪1セットは無いといけないし、大型魔獣と戦う場合は盾役は攻撃を受ける度に耐久が減るので予備の盾もそれなりに多く必要だ。



 何より目的が済んでも周りが戦闘中なのだから自分だけすぐに帰れる訳もなく、本来の荷物が届く迄の間の食料だって数日分は必要だ。



 その上、全ての予定が変更され万が一帰る場合は、馬車で移動してかなりの時間がかかる遠回りの順路になるのだ。



 直通路を万が一ジュエルイーターが利用した場合、ジェムズマインの街に甚大な被害が出るのだからとてもでは無いが基本的には使用を禁じている。



 魔獣発生時は本来は帰路どころかこの道自体行きにも使えないのだ……なので、この迂回しない貴族用通路でもあり街への宝石搬入の直通路は基本的に使用できない。



 そこを曲げて伯爵自らが許可を出したのは、少しでも早く鉱山の魔獣を討伐しなければならない状況に伯爵は追いやられていた。



 政治的な問題ではあるが、既に王都の内部貴族は腐りきっていて自分の私腹を肥すためにこの宝石都市を誰もが狙っているのだ。



 国民の事を謳っている腐敗貴族は何かというと国民というが、実は自分だけ超え太る事しか興味のない輩の集まりだった。



 その腐敗貴族に群がり利用しようとする商団や有力者が、事情を何も知らない国民をかき回していた……それが今のこの国だ。



 王権派のバラス伯爵がこの都市周辺の領地を与えられているのは、埋蔵されている貴金属や特殊鉱石を効率的に産出し続けていたからだ。



 この国の腐った貴族を廃したいと考える王の為であり、腐敗した貴族を牽制出来ればこの国の未来にもつながるのだ。



 その国民を大切に思う考え方に賛成したバラスは、持てる限りの手段を講じていた結果『伯爵』と言う爵位を与えて貰っている。



 だからこそ結果を出してすぐに王への報告せねばならない。



 そこへファイアフォックスと言うギルドが、仲間を探しに鉱山に向かう……となれば伯爵としては利用しない手はない。




 貸しを作れば今回はすぐに引き上げても、次の討伐戦募集参加をファイアフォックスへ促せるからだ。



 テロルを救った冒険者にも興味が出てきた伯爵は、次の連合討伐戦に期待さえ出てきた。



 準備は念には念を入れておいて間違いはない……エクシアたちも伯爵も。



 ギルドマスターは職員に対してすぐに馬車の準備をする様に指示を出す。



 その準備をしている間に今朝起きた正門襲撃事件を伯爵へ伝えると、伯爵はそもそもの用事を忘れていた様で今後の街の警備を男爵と話し合っていた。



 エクシアのギルドメンバーが鉱山へ向かう準備をしているその間に、伯爵と男爵は今後魔の森でゴブリンが増えた際の街への被害を抑える為の対策としてどの貴族に協力を打診するべきか話し合っていた。



 腐敗貴族に断られる事を踏まえた代理案もざっくりだが決め、ギルドマスターとサブマスターにこの街の防衛指示を出す。



 基本的には魔の森と領地が接している領主になると思われるが、細かい内容は共にこの街を護って戦う貴族が決まったのちとした。



 ギルドマスターは領主が決めたことを軸に、サブマスターへ解決策及び防衛手段をひとまず模索する様に支持をする。



 伯爵が居る以上、自分も一緒に鉱山に向かう為である。



 そうこうしていると、ベンとベロニカにゲオルが到着する。



 伯爵の馬車にはエクシアパーティー6人とエクシアの『新しいスキルの件』でカナミは心配していたのでユイナ達に説明をして自らそっちの馬車へ乗り込む準備をする。



 ちなみに男爵の馬車には寝坊組とタバサの合計4人が何時でも出発できる様に先に乗り込んだ。



 男爵の馬車の方には4人乗車で内部に余裕があったのだが、何故かバラス伯爵とウィンディア男爵が乗り込んで来て、ギルドマスターは御者席に相席で座る。



 ギルマスがわざわざ御者台に相席したのは、進行中に万が一何かがあったら御者へすぐ指示を出すためだ。



「すまんな君達、ウィンは恩人がどうなったのか心配でならん様でな……私もこの街の領主だ。状況を確認せねばならない理由があってな君達冒険者が居れば『行きは安心』だろうからな」



「ウィンが居れば、『万が一』鉱山から帰るときも帰りやすいだろう?ひとまず『護衛』と言うことにできるからな。そして『私』が居ればエクシア達・・・・・も護衛として帰れるだろうからな。」



 そう説明しているとエクシアが男爵の馬車へお礼を言いに来る。



「ザムド伯爵……ウィンディア男爵有難うございます。これで鉱山まで行くことができます!」



「礼は今度ジュエルイーターの討伐で返してくれると信じてる。」




 その言葉でお互い笑う。



 尚、テロルは既に馬に乗って出発待機していた。



 準備を整えたエクシア達は伯爵の馬車に飛び乗る。



 命がかかっている場合彼らはたとえ伯爵の持ち物であっても遠慮が無いところは冒険者だった。



 その様を見た伯爵は彼らを見てニヤリと笑う。



「ザム……アイツ達はやらんぞ?」



「なんだと?アイツ達も既に唾つけてるのか?……お前はヒロって方が気になるんじゃないのか?見た感じちょと見ない間に山程の銀級冒険者を抱えて!持ち駒が増えてお前だけずるいぞ!」



 5台の馬車は貴族専用路をひた走る鉱山へ向かって………。

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