第132話「街の安全とサブマスター」
突然族長とスパイダーそしてゴブリンの先行部隊の群れが吹き飛ばされたので、指揮系統を突然失ってしまった群れの残りのゴブリン達は慌てて森の奥に逃げ帰っていく。
その様を見た皆が口々に…
「バ…バラスさん…ひとまず私は逃げるゴブリンを弓で撃ちますね!」
「お…おう!君はヒーナと言ったな。すまないが届く範囲のゴブリンに撃ち込んでくれ」
「こんなんだったら俺たちも衛兵初期装備じゃ無く弓を持ってくるべきだったな…接近戦のみ考えてた」
「衛兵さん…普通はそうですよ…僕は彼と同じ駆け出し冒険者のはずですが…今日は彼の戦う姿を見せられて冒険者として自信がなくなりました…闘争意欲が凄すぎます。」
「ちょっとヒロ!な…何やってるんですか!突然周りのゴブリンを殲滅するなんて正気ですか?」
「ワシは理解が追いつかんのじゃ…お前さん魔法適性持ちか?まさかユニークスキル持ちなんか?」
僕は皆のセリフに我に帰ってどうしようかと思ったが、以前宝箱で手に入れた杖のことを思い出したので僕はそそくさとクロークから小波のワンドを取り出して見せてみる。
ちなみにこの杖は詳しく鑑定もしてないので、どんな効果があるか分からないけど誤魔化すには十分だ。
「こ…このワンドの魔法です。込められてた魔法全部使い切っちゃいましたが!ほら安全に対処するためには仕方ないですから。」
「命には変えられないですからね!バラスさんも衛兵の方達も危険だって言ってたじゃ無いですか!あの蜘蛛は危ないって…言ってましたよね?」
「確かに言ったことは言ったんじゃが…あそこまでチーフテンを肉片に変えんでものぉ…あそこまで粉々になると敵とは言え突然の有様に見てるこっちが不憫になっちまった…」
「でもバラスさん助かったのは事実ですよ…私たち衛兵でも4匹のジャイアントスパイダー相手にした後のゴブリンウォーリアーと斥候の連戦そしてゴブリンチーフテンのボス戦では大怪我どころか死ぬかもと覚悟してましたしね。」
「そうですよ…それに森の中には弓持ちもいましたしね…取り巻き含めるとチーフテンとの闘いは一筋縄ではいかなかったはずですよ。」
「そうじゃな…しかし当のチーフテンたる証拠がなくなっちまった。あの周辺に魔石の欠片ぐらいは落ちてるじゃろう…落ちてると良いんじゃが…」
そこから衛兵とバラスは肉片となったゴブリンチーフテンの周辺に魔石が無いか皆で探してまわった…駆け出しの僕達は当然だが森に近寄らせてはもらえず、水路に吹き飛ばされて落ちてないか注意して見るだけだったが…スライムが取り込んでいる可能性もある。
そういえば僕が面倒見ていたスライムは発見時に魔石を捕食(溶解)中だったがあの後どうなったのだろう…容姿が変わった様子もないので気にしなかったが…と思っているとバラスが歓声を上げる。
「おー!木の根元にあったぞ!良かったなぁ中魔石ぐらいはあるかの…この魔石は。あれだけの魔法撃ったから砕けててもおかしく無いが、運が良かったのぉ」
バラスはジャイアントスパイダーと騎乗してたゴブリンそして魔法でヘッドショットされたゴブリンを次々にマジックバッグにしまうと僕達に街に帰るように促して来たので一緒に帰ることにした。
因みに蜘蛛嫌いの僕がジャイアントスパイダーは目玉とギチギチしている牙と口周りの毛がキモイと言う理由から顔周辺を中心に吹き飛ばしてしまった。
それ以外は素材になるようだ…僕は誰に何を言われても絶対に辞退するが…
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「バラスさんどうでしたか?他に森周辺で異変はありましたか?」
「そうじゃな…今集めてきたゴブリンの遺体を調べてから詳しくは話すが…駆け出し冒険者は魔の森外縁のスライム駆除依頼は当分無し…じゃな。アレと遭遇すれば100%怪我ですまないからの…」
ギルドに帰るとミオからの質問で始まったが、バラスはあの状況を駆け出し冒険者に聴かれ無いようにしたのか、回収した遺体を解体後にサブマスターの前で話すと言ってからすぐに解体部屋へ行ってしまった。
「何かあったのですか?…と言うより…あったのですね。皆さんは今日の事をバラスさんに口止めされてるんですね?」
ミオは状況判断が鋭く、街に帰ってくる前にバラスに言われた事を感じ取っていたようだ。
バラスが言ったことは2つ
1つ目は当然のことだが遭遇討伐したゴブリンキャプテンとゴブリンチーフテンの事を無闇に自慢しない事…冒険者にしてみれば群れを倒したことは勲章だが一般市民にすれば遭遇する可能性があり恐怖でしかない。
バラスの説明ではチーフテンとは眷属からなる部族単位の称号らしく、何かの理由で部族単位で森の奥から出て来たのだろうと言うことだった。
そしてもう片方のキャプテンの称号は、チーフテンより遥かに脅威であるゴブリンキングが収める大きな群れに繋がる個体になるらしい。
群れの個体が独自に進化する場合にもキャプテン個体は現れるらしいので、倒したのがゴブリンキングの統治下の個体とは言い切れないらしい。
この街周辺の森にゴブリンキングがいる事には特別触れてなかったが、本来はゴブリンが治める村の族長の筈であるチーフテンが街の側に居る事は異常事態の前触れでもあり、もしかしたらより強い個体による部族統合がされているかもしれないとの事だ。
これ以上の危険に晒されない様になるべく危険地帯を避け戦い、そして日が高いうちに街に帰れとの事だった。
今回討伐したゴブリンの遺体から特殊個体がいるか調べた上で結論を出すので、詳しくはギルドの説明を待つようにと言われた。
そして2つ目は当然僕が手当たり次第に葬った状況の事だ。
威力のあるマジックアイテムは周りに知られる事で、心ない冒険者の略奪の対象になるので全員黙っている様に…と言う事と他のパーティーが居る前で無闇にマジックアイテムを使わないようにと僕への注意を含めたものだった。
今回の事は衛兵とバラスさんだけではどうしようも無い状況だっただけに感謝はされてもお叱りはなかった…しかし本当の事を知る異世界組の全員からはこっぴどく怒られた。
周りの冒険者や衛兵とバラスさんからして見れば『大切なマジックアイテムを蜘蛛相手に見境無く使った』的に捉えてくれてたので助かった。
そんな事が帰ってくるまでに行われていた。
「ひとまず…ヒロさんそしてレガントさん、解体預かりの魔物を数えたらすぐに今日の結果報告を受け付けますので、しばらくお待ちくださいね。それぞれお呼びするまでそちらのテーブルでお待ちください。」
同じタイミングで僕達はギルド窓口にいたので、ミオさんが倒したゴブリンの数を数えに解体部屋まで小走りで向かっていく…どうやら気を利かせてくれた様だ。
僕達はそう言われてミオさん待ちで長椅子に腰掛けてレガント達と駄弁っていると一人の男に声をかけられた。
「君達はこれから駆除依頼を受けるのかな?魔の森に通じる用水路周辺は危険だからあそこは避けるようにしたほうがいいぞ。畑周辺の用水路であれば城壁も近いから危険があっても衛兵にすぐ伝わる。選ぶならそこが良いだろう。」
その男はこの街の外における現在の危険度について知っていて、まるで僕達が危険な状態に合わないように説明していた。
「有難う御座います。でも僕達は今その魔の森に外縁の用水路で『スライム等』を駆除して戻ったところです。確かにあの周辺は『危険度が高かった』ので今は行かない方が無難ですね。…ところで何でその事を知っているのですか?」
僕はその物知りな男に率直に尋ねる事にした。
「ほう…と言う事は…君達が『例のゴブリン達』を倒したと言う駆け出し冒険者達か…いやはや言葉の選び方と言い…成程どうにも肝が据わった冒険者だね。」
「私はこの街営ギルドのサブマスターをやっている。外縁の『違和感』について聴きに解体担当のバラス君を待っていたんだが、待てどもミオ君から報告がないのでね。あそこに居た君たちが今ココにいると言う事は、もうすでに解体部屋に移動していると言う事だね?」
そう言うと解体部屋の方を見るサブマスター…丁度その話を聴いていたかの如くタイミングよく部屋から出てくるミオさん。
「あ!サブマスター。すいませんバラスさん到着の連絡が遅れまして…彼が直接説明に行くと言っていたので、私は彼等が討伐した個体の数を数えに行ったのですが、ちょっと状況が状況だけに…解体部屋まで来ていただけますか?」
「それと、ヒロさんとレガントさん…討伐した魔物を数えたところ51体になりそうです。お互いの魔石分配について話し合いはおすみですか?魔石の引取は報酬に関係する事なので今のうちにお願いしますね。今からちょっとばかりサブマスターと話があるので解体部屋に戻りますので、帰って来るまでに決めておいて下さい。」
ミオさんがそう言ってサブマスターにはバラスさんの状況説明のために解体部屋に行くように促し、僕達へは討伐個体の魔石の割り振りをお願いしていた。
レガントさん達は自分の力量不足もあったと感じたらしく、クエスト報告に必要な個数以外は全ての魔石と討伐部位の権利放棄を言ってきたが、僕達は山分けで良いと言い切ったため決着がつかなかった。
最終的には僕が行ったあの状況の口止め料という事で納得して貰い、レガント達には山分けで受け取って貰う事で纏まった。
正直討伐部位と言われても蜘蛛に関しては鑑定さえしていないので何が手に入るかわからない上、あの場の状況を周りに話されるよりは山分けで落ち着いたほうが僕達全員の身の安全に繋がるからだ
魔法の事に回復薬や傷薬の事は誰にも話さない事で纏まった。
ジャイアントスパイダーの討伐部位はなかなかの物が手に入るようで、レガント達は凄く喜んでいた。
特にヒーナが喜んでいて、理由はこの個体から取れる糸素材が弓の弦に最適らしく今の持ち物より上位の武器が造れるらしい。
ジャイアントスパイダーの甲殻含めて素材は駆け出しの冒険者にはもってこいの素材だった。
僕達異世界組は蜘蛛素材は誰一人喜ばなかった。寧ろ全部レガント達に引き取って欲しいとさえ思った程だ。
因みに僕自身の取り分にあたる蜘蛛素材は、触るどころか見るのさえも絶対断固拒否したのは言うまでもない…。
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