第131話「暴走からの殲滅……本当に危険なのは……誰?」


 ミオがサブマスターに報告したところ、ゴブリンキャプテンの首が決め手になり別働隊を指揮してジェムズマインの街周辺を警備してみまわる事が即決された。


 

 鉱山で魔物が暴れている現状は、後手を踏むと街周辺の治安維持に手が回らなくなり状況を悪化させると言う判断に至ったらしい。



 それからは早かった…ソウマがバラスと言う解体担当の人と衛兵数人を引き連れて、僕たちの倒した片っ端からゴブリンの遺体を魔法の収納袋へ放り込んでいた。



 ゴブリンの遺体を袋へ放り込む際に何かを見定めているのか、かなり難しい顔をしていたが…ゴブリンの数が多いからかそれとも状況が不味い事なのかが想像の範疇外だ。



「お前達…この遺体は素材含めて解体部署で預かりになるから、後で臨時の討伐報酬と魔石の代金を受け取りに来い。これだけの案件だから討伐報酬は多分ギルドの方で色をつけてくれる筈だ。」



「それと、この森周辺にまだこんな群れがいる可能性は大いにあるからな…危険を感じたらすぐに引き返すんじゃぞ!できる限り逃げ込める門の近くで戦うことじゃ!決して功を焦って森の際で戦うことがないようにな!」



「じゃあワシはギルドに帰るからな!決して無理はしてくれるなよ?じゃあ衛兵達帰るぞ…ある程度は結果が出てるとは言え…これで仕事が山積みだ。うぬぬぬぬ…」



 そう言ってバラスと言う解体担当は、ギルドの自分の持ち場へと帰っていった。



「ひとまずは必要な魔石は確保が終えたので、素材と魔石の受け取りもありますしこのまま街に帰る手もあるんですが…どうしましょう?」



 と僕が言うと、既に皆の見る目が可哀想な人を見る目になっていた。



 皆を代表してなのだろうか…レガントが口を開く。



「ヒロって…欲望に忠実だよな…ゴブリンキャプテンではなくてゴブリンキングと闘いたいってのが顔に出てるんだけど?」



 皆がその言葉に激しく首を縦に振る…その様は一様に赤ベコ人形だった。



「いや!流石に捜そうとはしてないよ!出てきたら自己防衛のために戦うけど態々戦う為に探さないよ!」



「「「戦う選択肢があるんかい!」」」



 レガントのパーティー男性陣から総ツッコミだった。



「だ…大丈夫ですよ!僕は帰る気満々ですから街へ!やだなぁ皆さん…」



ひとまずこれ以上の被害を出さないためにも一路街へ帰ることで決定したが、ついウッカリ僕は要らぬことを言ってしまう。



「そう言えば皆さんフラグってしってます?」



 僕の問いかけにすぐさま聞き返すレガント



「話の流れからフラグの言葉の意味はわからんではないが…その言葉自体は冒険者になる前を含めて初耳だ…それで何が言いたいんだ?」



「そうなんですか!僕らの育った村ではそう言う言葉があるんですよ…だから皆さんが襲われてて、それを助けた形じゃないですか?そのあとギルドの人が衛兵連れてきて先に帰った…この場合…今度はこの先でその…」



「先に帰った衛兵と解体窓口のバラスさんが違うゴブリン達に襲われてて…と言いたいんですね?」



「既にアレだけ倒したのにアイツ等がまだウジャウジャ森から来るなんて…ハッキリ言ってこれ以上の連戦は私は嫌よ?」




ヒーナとミーナが頭を押さえながら僕に答えたので、流石乙女二人は内容把握が早くて助かる…



「そんな事が頻繁に…」



 歩きながらそう言おうとしたレガントの言葉を遮る様に、リーバスが言葉を制してから前方に指を刺す。



 起きていました…衛兵数人と解体担当のバラスさんが今まさに戦闘中でした。



 ゴブリンの中規模部隊のようで、先行のゴブリン斥候を衛兵が切り捨てる所だった。



 街の衛兵だけあって戦闘には慣れていて、バラスさんも元は冒険者だったのだろうか?大きなナタのような武器でゴブリンウォリアーと切り結んでいる。



 衛兵とバラスの存在に気がついて森から出てきているゴブリンの数は9匹も居る。



 既に衛兵とバラスに既に切り倒されたゴブリン斥候を含めると、森の外だけで13匹にもなり僕の空間感知の敵性反応には森の中のに潜む敵も映し出している。


 僕らの存在に気がついたバラスがすぐに声をかけてくる。


「オイ!お前ら早く街に逃げろ!この群れにはゴブリンキャプテン以上が潜んでるはずじゃ!お前らの安全までは確保できん。」



 その言葉を無視する訳では無いのだが怖いもの見たさの…と言うべきか興味には勝てなかった…


 その個体は森の中で数匹のゴブリンを従え、群れ全体に指示を出す一番大きな反応を示していたゴブリンで、僕の位置からはかろうじて目視して確認できるゴブリンの個体だったが他の個体より遥かに大きかった。


 僕はその個体を咄嗟に鑑定する。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


ゴブリン・チーフテン (部族指揮個体)


(通常種・小鬼妖精系統・小型種)


(別名: 悪戯小鬼)

  

『使役可能個体』 第一次系統進化個体 


・ステータスには個体差、系統差あり。

  

LV.18 HP.110/110 MP.30/30

STR.38 ATK.84 VIT.46 DEF.87

INT.26 REG.33 DEX.27 AGI.51 LUK.35


 スキル


群れの統率(中級)

 下級ゴブリンを統率し指示を出す。

群れ個体5%確率で従わない個体が出る。


長の威厳

『群れが自身の眷属で統一されている時

のみ取得できるユニークスキル。』


特殊効果:

 効果中は群れに伝播する恐怖無効。


    条件により使役可能

 捕縛の魔物罠、使役強制スクロール、

 従魔契約スクロール、使役の絆…etc

 

 ・必要条未達成により開示不可。


  無骨な武器で攻撃する。

 森で拾った錆びた武具や、木材を加

 工した棍棒が基本の武器。

  稀に人を襲った際に手に入れた装

 備を使っている。


  系統種では、ゴブリンの呪術師や

 戦士、シーフ、アーチャー等武器に

 よって系統が変化する。

  知識レベルはゴブリンに比べると

 飛躍的に向上している。

  常に下位個体に指示を出し獲物を

 群れで狩る。


  進化種には様々有るが一番有名な

 進化先はホブ・ゴブリンであり、寿

 命や知識レベルが大きく変化する。


  オークの知識レベルが高い種に命

 令されて共に行動することも多い。

 

 ゴブリン棍棒、錆びた武器、錆びた鎧、

 錆びた盾、木製盾、スリング、ゴブ茸

 各貨幣、ゴブリンの指、ゴブリンの耳、

 ゴブリンの心臓、小魔石、中魔石…etc


  上記部位は武器、防具、etcは素材に

 使用可能。


 攻撃・防御:


  斬撃、殴打、薙ぎ払い、強打、連打

 蹴り飛ばし、噛み付き、引っ掻き

 

 系統変化先(進化先)

 ・ホブ・ゴブリン

 ・小鬼

 LV、経験値不足で鑑定不可。


 稀に宝箱を落とす。(ダンジョン個体のみ)


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇



 さっき倒したゴブリンキャプテンは群れにおける統率役階級のようだったが、今鑑定したゴブリンについては族長と呼ばれる存在のようで、これまたゴブリンキングとは別の存在だった。


 名前から察するにこの群れ自体がゴブリンの一つの部族にあたるのだろうか?…ゴブリンの生態が分からない以上推測するくらいしか出来ない。


 先に倒したのはゴブリンキャプテンと言うぐらいだから軍隊階級的に考えれば役職なのだろうが…今度はチーフテン(族長もしくは酋長)なので前に倒した個体と同じ括りにするには難しい。



 そもそも僕の知っている知識がこの異世界と同じだとは誰も言ってくれてはないので、それが魔物の名前と言われればそれまでだ。



 バラスが言っていたように、確かに体格が先程のゴブリンキャプテンより良いので他個体より実力があるのだろう。



 レガント達はバラスの言う通り東門に向けて走り出すが、ゴブリンチーフテンの知識レベルは他のゴブリンとは違うようだ。



 ゴブリンチーフテンが叫びを上げると森の中から大きな蜘蛛に乗ったゴブリンが4匹も現れる…僕達を逃す気は無い様だ。



 森から飛び出してきた蜘蛛は姿からして、ミオさんが言っていた飛びつき蜘蛛とは異なると思われた…飛び付きそうな名前の蜘蛛に見えないからだ。



「くそ!なんて事じゃ…この群れはチーフテンの群れじゃったか!さっきのゴブリンキャプテンとは全く別の系統種じゃ!」



「オイ!駆け出し共。そいつらはジャイアントスパイダーだ!蜘蛛には絶対に噛まれるなよ!そいつらには麻痺毒があるからな!」



「仕方ない…ワシらがそいつらの相手をする間こっちのゴブリンを一時的に相手せい…ソイツ等をワシらが倒した後…」



 駆け出し冒険者には荷が重いと思われた蜘蛛の相手を、バラス達がする事を伝えようとするが…僕は既にプチパニックだった。



「うぉぉぉぉ!最悪だ!デケェ蜘蛛だ!1匹残らず全部この世から消えろーーーーーーー!!ウォーターバレット!!!」



 僕は昆虫の中でも一番蜘蛛が嫌いだ…子供の時に頭に落ちて来た女郎蜘蛛を鷲掴みしたのが原因だが…それ以来蜘蛛全般が大嫌いだ…見るのも嫌だ…。



 巨大蜘蛛を見た僕はプチパニックになってしまい、バラスと衛兵の説明も聞かず鑑定もせず条件反射で辺り一面にウォーターバレットをぶちまけていく。



 ちなみに蜘蛛は柑橘系やミント系が苦手らしい…この街の外壁に沿って柑橘系の植物を植えるべきだ!絶対に!



 と言うか森の中にも植樹するべきだ!この異世界から1匹残らず蜘蛛を駆除するべきだ!



「ヒロ!ちょっと待て!冷静になれ!」



「落ち着けるかソウマさん!僕は蜘蛛が世界一嫌いなんだよ!大小関係なく…こんな巨大な蜘蛛なんて絶対無理だ!」



「それにアイツ!僕に蜘蛛をけしかけやがった!アイツが居る限りまたけしかけるかもしれない!奴を追い払って…いや!2度と蜘蛛に指示出来ないようにこの世界から抹消してやる!」




 僕だけにけしかけた訳では無いのだが、大嫌いな蜘蛛をけしかけて来たゴブリンチーフテンだけは許せない。



 ウォータージャベリンの有効射程範囲に近づく為に、目の前にいるゴブリンウォーリアー達を素早く歩きながらウォーターバレットでヘッドショットして片っ端から吹っ飛ばしていく。



 その様を見たゴブリンチーフテンは慌てて森の奥に逃げようとするが、確実に当てられる射程距離までは近づけたので今更逃げてももう遅い…僕はウォータージャベリンを両手でマックスの6本まで生成して振り被って一斉に投げ付ける。



 周りの樹々を盛大に破壊しながらゴブリンチーフテンにトドメを刺す。



 放った魔法の威力があり過ぎたのか、魔法を打ち込んだ周辺様子が少し変わってしまったが、無事ゴブリンチーフテンは肉片に代わり僕が感知していた存在を示す敵性反応を消滅させた。

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