第126話「暇!やんちゃなクルッポー現る!」

 翌日は朝から緊張マックスのタバサが重い足取りで東門に向かっていった。



 タバサの余りのビビりっぷりに、僕達も今日ばかりはいつもより時間的には早いがタバサの出発に合わせてギルドに顔を出して東門に向かう。



 まだ完全に日が上らない時間だが、ギルドはかなり活気があった。



 割の良い依頼を探す為に早く冒険者は行動している様だ…タバサはミオに昇級試験に行く旨を伝えて東門まで付き添いそれを見送る。



 このダンジョンは、昇級試験の権利を貰った者以上でないと入場出来ないらしく入場許可がない以上手伝いは不可だそうだ。



 東門付近に乗り合い馬車がとまってる事を聞いた僕達は、自分たちの時の為に場所を一緒に確認しに行く。



 既に何組もの冒険者が馬車に向かって歩いていた。全部が昇格テストではないだろうが、緊張している顔つきのソロの冒険者は間違いなくタバサと同じ境遇だろう。




「皆さん有難うございます。此処からは1人で平気です…なんとか頑張って合格して来ます。」



「僕達も追いつけるように頑張りますね。」



「ソロで入らない様にね…最悪エクシアさんみたいに大声で募集すれば誰かしら見つかる筈だよ!」



 そんな風に言って彼女が気負いしない様に軽く声をかけて送り出した。



 そして馬車が小さくなるまで見送り僕たちはその場を離れた。



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 僕達はタバサに追い付くためにも今できることを全力でこなすしか無い。



 その為朝早いが、初心者窓口で依頼を受けることにした。



 さりとて出来ることは、薬草採集にスライム討伐くらいしか無い。



 貯水池にはスライムは尋常じゃ無い数がいつも湧く…と言うか鼠算式に分裂する。



 魔力が濃い貯水池の水質を浄化する際にどんどん増殖するとミオさんに前聞いたが、スライムがこの世界の浄化作用に一役買っているのは言葉から推測できた。



 まるで某漫画の様だ…腐った樹々が海の様に…ゴニョゴニョ…



 貯水池周辺は魔力溜まりになっているらしくそのままだと水質が悪い方に変化してしまうらしい…そして最悪の場合ダンジョンになるとの事で、魔力を糧にしつつ力の弱いスライムを放つ事でその場を凌いでいる様だ。



 水に含まれた魔力は樹々に浸透して魔の森の苗床にもなる様で、水質変化を防ぐ為にスライムを投入して不要な魔力を除去し水質を保っているのだが、その増殖しまくる様を見る限り到底水質を保っている為とは思えない光景なのだが…。



 どう考えても周辺に常時300匹近くのスライムは異常だったが、この魔力の濃い地域からスライムが離れて街を襲うことはないのでこの構図が成り立っているらしい。



 僕達がそんな雑談を交えながらスライム狩りをしていると、クルッポーが暇を持て余して飛んできた。



「クルッポーーーーー!ポ!ポ!ポーーー!」



 空中でホバリングしながらの衝撃波でどんどんスライムを駆逐していくので、その様に新米冒険者達はちょっとしたパニック状態になっていた。



 僕達からすれば見るからに飼い主のお手伝いでしか無いが、周りの冒険者にして見れば緊急事態としか感じられなかった様で鳩の魔物に大慌てだが、ミクがクルッポーは生まれた時から一緒に育って最近テイムした魔物という事で皆を落ち着かせた。



 周りの冒険者がこうならない様に、ミクはクルッポーに説明はしていたようだが最近は夜以外は相手をされていないのでコッソリついて来てしまった様だ。


 クルッポーは鳩型の魔物で、そこそこ経験を積んだ冒険者にとっては群れで来ない限りはそれほど脅威では無いが、駆け出し冒険者にしてみればそうはいかない。



 スライム相手に戦闘経験を積んでいる駆け出しなのだから仕方はないが、スライム数匹を相手にして苦戦する冒険者の元に急に飛来して周囲で衝撃波を撃てば恐れるのも当然だ。



 周りの冒険者の邪魔になるので僕達はひとまずギルドまで戻ることに意見が纏まった。



「あれ?皆さんどうしました?…ってミクさんなんで肩に魔物乗せてるんですか!!」



「あ!ミオさん大丈夫です。この鳩は良い魔物なので周りへの危害はありません。」



 急に帰ってきた僕達が急に魔物を連れて帰ってきたので、先ほどに続きギルドでもひと騒ぎになりそうだったところを僕はなんとか収める。



「ヒロさんがそう仰るなら…ですが魔物の使役は駆け出し冒険者には前例がないので私一人の判断では…」



「すいません…普段は私が宿で待っている様に言ってるんですが…今日は何故かついて来てしまったのです。この街に来る前に森のあたりで飛行系の魔物に襲われているところを助けてから餌をあげてたら懐いてしまって。」



「ああ…成程…貯水池外縁でスライム駆除中に飼い主の元へ来てしまったわけですね。それで周りの冒険者達が騒ぎ始めたので、戻ってきたという事でしょうか?」



「流石ミオさんですね!その通りです説明いらずで話が早い。それで出来れば場所を変えて依頼を継続したいのですが大丈夫ですか?」



「そうですね…確かに今の状況で貯水池外縁で狩りを続けると周りに影響がありそうですし…かと言って前例がない事だらけなので私に一存では…今すぐサブマスターに相談して来ますので少しお待ちください。」



 そう言ってミオさんはギルドの2階へ足速に向かっていく…時間にして10分程度だろうかサブマスターと思われる人を引き連れてミオさんが降りて来る。



「…実際に目にするまでは信じられなかったが…まさかこんな日が来るとはな。犬と間違えて育てたフォレストウルフの話はたまに聴くが…まさか駆け出し冒険者が飛行系魔物を手懐けるとは…」



「…まぁ危害が無い以上は駆除する訳にもいかない…このまま彼女が一流冒険者になり使役魔物が知れ渡れば我が街のギルドの知名度も上がるしな…今すぐ処分する事も無かろう。」



「一応、ここを利用する駆け出し冒険者達には窓口から注意を促す様にするが、決して魔物をけしかける様な事はするなよ?もしそんな事があれば魔物の駆除だけでなく、飼い主の君もただでは済まん…くれぐれも注意する様に!」



「依頼の件はスライム駆除が目的で、貯水池外縁に紐付けている訳では無いので何処で魔石を集めて来ても問題はないぞ!冒険者としての実力アップが目的だからな。」



「じゃあ、そのまま他の場所で狩りを続けて魔石を納品すればペナルティ無しで済みますか?」



「まぁそう言う事になるな…そもそも魔石には何処産など表記も無いからな調べようが無いのだよ。まぁ場所が場所だけに騒ぎになって怪我人が出ない様にしてくれたのは助かる。」



「お気遣い有難う御座います。」



 僕はミクが使役しているクルッポーの事だけでなく、今ここで自分のスライムの事も話すべきでは無いかと思った…そうすれば一辺に問題事が片付くと思ったのだ。




「実は…ミクさんが使役しているクルッポーだけで無く、僕もスライムを使役してまして報告させて頂きます。問題になる前に…。」



 そう言ってリュックに匿っていたスライムを出す。



「ちょ…スライム使役って…先に言ってくださいよ!私ミクさんの鳩の魔物の件しか報告してませんし!」



「登録数日でレッドキャップとゴブリン2匹駆除するわ…毎日30束も薬草を持ち込むわ…変な冒険者が登録したと思ったが…此処に来てテイマー候補が2人とはな…エクシアやテイラー以来の常識知らずだな…」



 しかし問題のスライムは長机の上で気ままにコロコロ転がっている…多分無害であると自己主張しているのだろう。



「所で聴きたいんだが…スライムを使役して何か得があるのか?」



「そうですね…ゴミとかの処分を進んでしてくれますし…懐くのでペットと同じ感じですね…」



「そ…そうか…ペットならもっと良い魔物もいるだろうが…まぁ本人がそれで良いと言うのであれば…うん…冒険者は変わっていると言われるが君も大概だな…」



「では君達はこのまま依頼を継続と言う感じでいいんだな?それであればペナルティについては無しだ。必要個数の魔石を集める時間が惜しいだろう?早く現地に向かったほうがいいのでは無いか?」



「ミオ…君はこれからこの新人窓口を訪れる冒険者達に魔物を使役している冒険者がいる旨を知らせる様に。あと他の窓口担当にも情報共有を行って置くように。」



「あと、ギルマスには私から報告しておく。では私も暇では無いからな…君達は冒険者としての本分を果たしたまえ。」



 僕達は街営ギルドのサブマスターにそう言われて、急かされる様に次の現場へ向かう…人が少なく周りに害を与えない場所として選んだのは魔の森外縁水路だ。



 此処であれば、スライムの他に稀にゴブリンやホーンラビットも出てくるので、戦闘経験にはもってこいだしクルッポーのストレス発散に暴れさせても被害はないだろう。


 僕達は東門から出た後寄り道をせず一路、魔の森外縁水路に向かったが到着して間も無く状況が当初の予定と変わった事を把握する事になる。

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