第125話「タバサの昇格試験」

「タバサさん…今日行なった薬草納品で3日間連続30束の完了とパーティーリーダーにて依頼完了をもち、審査項目の2つが終了となります。」



「現在F級冒険者1位の段位なので、いよいよ銅級冒険者試験となります。」



「試験内容は、対象者3人以上でダンジョンを攻略してもらいます。ちなみに攻略といっても踏破の必要はありません…必要箇所を周り担当からチェックをもらって帰ればクリアになります。」



「ダンジョン『1Fには』その日受けるパーティーに対して、2個のチェックしか貰えません。意味はお分かりになりますね?」



「因みにダンジョンまではこの街の東門付近から定期馬車が出ています。ダンジョンを経由して鉱山に向かう馬車ですね…ダンジョンを経由せず直接鉱山に向かう馬車もありますので、ちゃんと行く前に色々と調べて向かってください。」



「この乗合馬車は無料になっています。本来は坑夫用なので東門から出る馬車は最終目的地は鉱山になりその間の乗り降りは無料です。」



「尚、試験の開始時間は、日が上り次第開始となります共に活動する冒険者はダンジョンに入る前に今回対象になる参加者を現場で集めて下さい。」



「参加者には必ず『ダンジョン入場証』を渡してあるので対象者はそれで確認してください。尚そのダンジョンは冒険者であれば入場自由の場所なので貴方達以外の銅級と呼ばれる冒険者達も出入りしています。」



「試験完了後は3人で帰ってこなくても平気です。稀にそのままダンジョンで経験を積みたい人や、今後の仲間探しの為に残る人も居ますので。」



 ミオに銅級冒険者試験の説明を受けたタバサは嬉しさと言うより、不安で押しつぶされそうになったいたのだ。



 初めてのダンジョンに、パーティー探しの強制となれば前のトラウマがある分、多少は不安でもしかたなかった。



 ミオはその様子を見て、「今のタバサさんなら全然平気ですよ!対人講習を思い出してください。ちゃんと戦える人なんですから!」と応援していた。



 ひとまず折角のチャンスなのでエクシア達に報告した後、注意点を聞こう…と言うことになり皆でファイアフォックスに向かうことにした。



 レガント達『シールド』のパーティーとはここでお別れだ。



 彼等はこの街営ギルドのタコ部屋に皆寝泊まりしているらしいので、タバサに頑張れと応援して去っていった。


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「おおー!いよいよ銅級かこれでギルドに回復師が増えて〜薬師が2名に!それもエクシアより優秀な薬師様だ!これで銀級1位も夢じゃ無いぞ〜その上の金級ギルドも夢じゃ無い!」



「おい…そのアタシより優秀のセリフは必要なのかい?アタシだってタバサに毎日鍛えて貰ってるんだぞ!」



「それにしてもエクシアの初心者テストを思い出すな…ダンジョン前で見てたら大声で『冒険者昇級試験受けてる人2名募集します〜一緒にダンジョン踏破しませんか!』だもんな。」



「アンタが抜け駆けして先にダンジョン入るから急いで相手見つけたんじゃないか…まぁ寝坊したのはアタシだけどさ!」



「朝からってダンジョンにって話なのに、昼過ぎに来るバカがいるか?」



「エクシア…そんな事よりタバサの装備を考えた方がいいぞ。あそこのダンジョンは昇格試験で使われているが、初心者装備のナイフで回れるのは1Fの最深部手前までだ。」



「人数制限で回る以上最低限ショートソードかロングソード持っていないと厳しいしな。」



「そう言えば、私達もそれ銅級の冒険者に聴いて閉店間近の店に焦って買っていったっけね!」



「ザッハさん…それって私聞いてもいい内容なんですか?」



「あのねタバサ…普通は行ったことのない場所を巡る時は情報収集が必要なもんだよ。前もって調べておけば最低限対処はできるだろう?それもと、受付に調べてはいけませんって言われたのかい?」



「そう言われれば今までも冒険者として調べて行動する様にってミオさんに言われてました。それに昇級試験については調べてはいけないなんて言われてません…ミオさんは質問には答えてくれましたし。情報を聞く様にって言ってました。」



「だからミオさんから聞ける事は聞いたつもりでしたが…そうか…経験者に聴きなさいって事なんですね!」



「タバサさん。あのダンジョンは10Fが最下層で、5階層にはダンジョン主に次ぐ強力な魔物がいます。なので初心者が潜れて4階層までがやっとです。」



「初心者の力量では5Fの階層主には敵わないでしょう。そもそも5F層に降りて出会った魔物と戦って逃げ帰る冒険者が殆どです」



「チェックポイントは各階層2つなので行けるのは階層全部で8箇所です。ダンジョン踏破の為であればすぐに下に降りるべきですが、目的は昇級なのでチェックポイントをクリアせねばいけません。ポイントは1階層に2個なのでチェックは「両方」です。」



「一層目でも二層目でもポイントは2箇所という意味なので、どの階層でも良いので2箇所通って来いという意味です。しかし3人以上で潜るので地下3Fまでは潜って来るように…と言うテストですね。」



「因みに5F層にもチェックポイントは有るって話ですが、確かめた冒険者は聞きませんね。5Fのチェックポイント通過した嘘を言う冒険者はいますがね…大概5Fの魔物の討伐部位を持っていないのですぐバレます。」



「だから『ダンジョン『1Fには』その日受けるパーティーに対して、2個のチェックしか貰えません。』って、ミオさんが言われたんですね…注意して聞くべきでした…。」



「ミオって子はちゃんとアンタの事を考えてくれているって事だね、タバサはちゃんとその情報を聞き流さない努力をしていかないとならない訳だが、まぁ初心者なんて皆そんなもんだ。今はゆっくりでも着実に身につける努力をする事だね!」



 エクシアとザッハはタバサに入れ込んでいる節もあるので、色々面倒を見ている。



 本来冒険者と言うのは先輩が後輩を面倒見る時期があるのかもしれない。



 この街のギルドの初心者窓口と銅級以上の窓口が分かれている理由は、自分から先輩となる冒険者の繋がりを探す為なのかもしれない。



 そもそも依頼で他の村に行けば自分のみを担当する担当ギルド員など居ないのだから、情報収集も仲間集めも自分でやらなければならないからだ。



 ザッハはタバサにファイアフォックスの武器庫から手頃な武器と装備を渡して装備して見るように促す。



 馬子にも衣装という言葉の通り、タバサはオーク呼ばわりされているとは思えない程しっかりした冒険者に見えた。



 明日は日の出からタバサが忙しくなるのでダンジョンを回るための準備を終わらせてから、残りの時間は皆で薬草をすり潰し薬作り備える事になった。



 ユイナとミクは宿でも薬草をすり潰しては薬を作り込んでいたので手早くやっている…彼女達はタバサの指導と経験の積み重ねで現在中級ならほぼ間違いなく作れる様になった様だ。



 僕はユイナとミクの擦り潰した後に出るゴミ捨てと容器洗浄だけを数回手伝った事があるが、今日は本格的に磨り潰す部分からタバサに教えて貰った。



 因みにソウマは脳筋組らしくギルド裏の空き地でロズと盾の訓練していた。


 そっちに混ざろうとしたら、エクシアが『特別なスキルの為にもこっちをやって見たらどうだ?』と耳打ちしたのでコッチの薬草組になった訳だ。



 タバサは勘違いしたが、エクシアが言ったのは多分錬金術のスキルのことだろう…僕も活躍しないスキルなので忘れていた。



 すり潰す時の注意点は力と勢いを込めすぎると、すり潰し流れ出た薬液に余計な熱と魔力が入ってしまうそうなので、焦らずゆっくりすり潰す事が重要だそうだ。



 この世界で人は大なり小なり魔力を持っていて、それを使いこなす事でより良い薬液を抽出できるらしい。



 とは言ってもどの位魔力を使えば良いかは説明出来ないらしい…タバサは勘でやっているからだそうだ。



 中級と高級の薬品類を作るにはその他にも言葉では説明し辛いコツがあるそうだが、タバサは今まであまり頼られた事がないので嬉しかったらしく、しどろもどろだが皆に説明してくれた。



 ユイナとミクは必死にタバサの真似しようと頑張るが、小さい時から母親の手伝いで頑張って来たタバサとの埋まらない経験の差があるのだ。



 彼女達がすぐにそれが出来るとは思えなかったが…僕自身も人の事は言えず、頑張って擦り潰して薬効成分入りの液体を取り出すのに必死だった。



 僕は薬効混じりの薬液を僅かには抽出できたが、傷薬や軟膏に生成できる様な上質薬液には仕上がらなかった…これを繰り返せばそのうち適性があれば薬師の能力に目覚めるらしい。



 ちなみに適性が出ない間はこの微妙な薬液を毎日飲むことになるのだ…素材を無駄にしないこの世界特有の約束事だった。



 薬液を飲んだ分僕は少しはマシだが、その日は皆腕が痛くなりながら宿に帰った…ユイナとミクは帰ってもまだやるらしくエクシアのギルドから大量に薬草を貰っていた。

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