第114話「スライムの食性は……聖樹の葉時々生姜焼き弁当」
ミオさんは僕が支配人と話している間、目をキラキラさせながら新商品の話を聞いていた。
「すいませんミオさん!今日のお詫びに新商品の味見に付き合ってもらえますか?」
「よ…喜んで!今からでも大丈夫です!ギルドは休みますので…いやサボります!」
「あ、すいません今からは用事があるので…これ良ければ食べてください。」
「依頼報酬では食べれない料理長考案の『大盛り弁当』です。」
そう言って2個貰ったお弁当の片方をミオに渡すと彼女は震えた手で受け取っていた…ここまでブルブルしたら落とさないか心配だ。
まぁ、1日頑張った彼女には良いボーナスだろう…片手に持った小さいパンと干し肉に比べれば。
「踊るラビット欲張り弁当…大盛り?お…大盛り?こんなに肉がはみ出てて…ふわっふわのパンが…それに凄い肉厚!!」
「あ!ありがとう御座います!担当はミオから絶っ対に!何があっても変えませんので!何かあったらミオに言ってくださいね!すぐ対処しますから!」
「あ!そうだ…ミオさん。」
「ハイ!なんでしょう!」
「店に行く前にギルドに行きますね…待ち合わせはギルドで良いですか?って…そもそもギルドは何時までですか?」
「はい!もしアレだったら私が指定の場所まで行きますが…?ちなみにですが、ギルドは24時進無休ですよ?どこも共通のはずですが…?」
「あーーー!」
「ギルドの無い村からお越しだったのですね!すいません。本当に態度とか…今日は…その…本当にその出身地の事とか聞くのを忘れてました…すいません。」
「いえいえ用事があるので多分迎えに行ったほうが確実なので、質問があった場合その時にまた聞きますね。一応夕暮れにメンバーと集まりますのでそれ以降だと考えてください。」
「夕暮れ以降ですね?ずいぶん遅い時間ですね?あ、新製品だから目につかない様になのですね!…そうか…確かにそうですよね…分かりました!ギルドの初心者窓口で待ってますので、絶対来てくださいね?置いていかないでくださいね?」
「大丈夫ですよ!ポイント稼ぎしないと、ミオさんの!」
「このお弁当で充分高得点です!では待ってますね。」
そう言うと大切そうに抱えて彼女はギルドに帰っていった。
彼女が怒っていたお陰で変な嘘をつかずに済んだのが今分かった…皆はどう答えたのだろうか…後で聞いておこう。
ミオさんと少し話し込んでしまったので、宿に戻るのが遅れてしまった…
スライムにもお弁当あげねば!お腹空いてるはずだ。
僕は宿屋の入り口ドアを開け食堂に移動してからスライムをバックから出すと、貰ったお弁当を開けてスライムと一緒に食べることにした…メインで食べるのはスライムの方だが。
冷蔵庫も電子レンジもないので傷みやすいし、温められないならば冷めて硬くなる前に早く食べたほうが肉類は絶対に良い。
ユイナの作った物ではないが、この味が好きなのかスライムも小刻みに震えていて大喜びで食べている。
味がわかるのだろうか?だとすればかなりグルメだ。
スライムに食事を与えていると、ビラッツが出来立ての弁当を届けにきた。
夜の部の営業が開始した様で、先程の大盛りお弁当箱よりはるかに大きいサイズのお弁当箱でサンド用のパンは厚切りでなんと10枚だ。
貴族からの依頼に対応した企画作り中らしい。
持ってきたのは子供に持たせる特注のお弁当だそうで、先程の僕の発案を進化させ豪勢さを追求した一品で、肉厚も増す事でより高級感を持たせたらしい。
確かに今までの弁当の容器では貴族は満足しないだろうし、特別感が無いと気がついたそうで豪勢且つ他の貴族の子供達にも目を引く様にするべきだとした結果だそうだ。
かなり量が多い理由は貴族の繋がりの為だそうで、子供達も貴族だけに上下関係があるらしく皆に振る舞える量にしたらしい。
その分金額も多く取れるので赤字には決してならないそうだ。
このお弁当の宣伝をより強いものにする為に、提供先としてウィンディア男爵の3令嬢を企画しているらしく、その橋渡しをして欲しいのだろう…商魂たくましいビラッツなので男爵亭で食事会があることを教えておこう。
3令嬢が好きな肉料理も作れるので、その日のコックには持ってこいじゃ無いだろうか?明日にでも執事に話に行こう。
お弁当を受け取った僕は、流石にもうこれ以上食べられないのでどうしようか悩んでいたが、買いそびれたミオさんの事を思い出したので、食事の場を部屋に移してスライムにはお弁当を食べながらお留守番をお願いしてからギルドへ向かう。
聖樹の苗木も置いて行き仲良くやっててもらおう…彼女に渡すだけなのでそんなに時間はかからない筈だ。
……
ギルドに着くと、ミオさんが何やら同じ格好の受付員の2人と何やら言い合いをしていた。
その周りにもミオ達を止めるような感じに受付担当が数人集まっていた。
例の自慢していたと言う人だろう…お弁当一つで冒険者に依頼を斡旋して貰うことでこんな事になると予想していなかった。
僕は2組の様子を窺っていたが、なかなかクセのある2人の窓口担当員でミオさんを目の敵にしている節がある。
何故ここまでやり合っているのかは不明だが、冒険者の好意のお弁当を嫌がらせに使ったり売り付けようとする行為は冗談でも許せない。
小銭を稼がせたり、嫌がらせを助長させる為にビラッツさんに入れ知恵した訳ではないのだ。
僕はこれからの事を考え、冒険者と窓口事務員の関係性を少しでも良くしたかっただけだ。
だからこそ、ビラッツから貰ったお弁当をミオとその友人に差し入れた上で、方向修正をさせて戴こう!
折角なのでビラッツの考えていた事もスパイスにして伝えて宣伝しておく。
「それは『貴族様用に考えたお弁当』なので、数人で食べる仕様になっていますよ〜『ミオさん、お友達と分けて食べる』といいみたいです。『友達の皆さんと仲良く』食べてくださいね!」
そう言った後ダムが決壊したかの様にミオは職員達にもみくちゃにされていた。
これで彼女に付く仲間が1人くらいは増えるだろう…さぁ今度こそ宿へ帰って目的を果たそう。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
僕は厄介ごとに巻き込まれない様に、来た道を引き返しそそくさと自室へ帰った。
「ちょっと聞きたいんだけど、モンブランも水っ子も人の街に居て穢れとか大丈夫なのかな?ダンジョンで上級精霊が大変な状況だったから、万が一何があっても困るんじゃ無いかと…」
「あたしは大丈夫よ…寧ろ人が側に居た方がより多く森の精霊への祈りも聴きやすいし〜自分自身は守れるしね!水っ子は?」
忘れてた…モンブランは聖樹で自分自身も加護対象だった…そして水っ子は遊びに来ているだけらしい…。
部屋に化現出来る様に桶に水を貰ってわざわざ部屋まで持ってきたのに…何故か水っ子はモンブランにあげている最中の僕のスポーツドリンクから化現した…サイズはかなり小さめだ。
「全然平気よ?人の街は穢れが確かにあるけど、この街は『私達の住み処』じゃ無いもの?私たちの家に流れ込む穢れは直接影響受けるけど遊びに来ている時は影響はないわよ?」
僕は宿の自室で他にも、モンブランと水っ子に人のいる街で精霊に対して注意する事等をアレコレ聞いたが問題になる様な事は見当たらなかった。
2人も差し当たって危険な事はコレと言って特別ないらしく、逆に水の精霊のアピールをこの街にしてくれと水っ子からの要望と、モンブランからは早く聖樹の苗木が植えられる豪邸を手に入れてくれとお願いが来たくらいだ。
因みに化現しない状態で街で姿が判る者は稀にいる位で、その点は心配する程でも無いらしい。
僕は聞きたいことも終えスライムとモンブランの食事も終わったので、これから何処に行こうかと外を見たらもう既に辺りは薄暗くなりはじめ窓から見える街ゆく人も少なくなってきたので、このままファイアフォックスに魔法契約をしに行く事にした。
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