第95話「ちょろい宿屋の主人に似た者男爵」

翌朝は結局お昼まで寝るはずが早く目が覚めてしまったので、折畳式のソーラー充電器で携帯のバッテリーを充電しながら窓から外を見ていた。


 この部屋は朝食が付いていた様で宿の主人が呼びにきた…ご飯付きで銀貨5枚なので安いのでは無いかと思いながら下に降りると若い女性冒険者が2人既に食堂で食べていた。



「おはよう御座います!朝食と言われましたがこっちで良いのですか?」


「はいよ!おはようさん!昨日すごい遅くに入ってきたから強盗かと思ったが普通の冒険者で安心したよ。今飯持って行くから好きな席で待ってな!」



「すいません!ありがとう御座います支配人さん。ちょっと聞いても良いですか?」



「は?支配人さん?…はっはははは!俺の事をそんな風に言ってくれる冒険者なんて今まで見たこともない!朝から気持ちのいい事言ってくれるじゃ無いか!パン一個おまけしとくぜ!んで!なんか聞きたいのかい?」



 僕が宿屋の亭主に支配人と言ったのが相当嬉しかった様で、パンをおまけしてくれた…そのあとその様子を見ていた冒険者の女性達が、「ずるい!支配人さん!私達もパンが欲しい!」って言ってパンを分けて貰っていた。



 パンを貰った女性冒険者2人にそれからも話しかけられて、宿屋の主人は朝から機嫌が良くなった様だ。



「実はファイアフォックスのギルドの受付が開くのはいつかを知りたいのです。」



「は!ギルドは風の刻に決まってるじゃ無いか!朝正門が開く風の6刻にギルドが閉まってたら誰も冒険に行けないじゃ無いか!」



「はははは!お兄さんてば、冒険者でも駆け出しなんだね〜ファイアフォックス行ってもあそこは個人経営ギルドでエクシアさんは面会出来ないから!ちゃんと冒険して力つけないと逢えないからダメよ!もしかしてまだ冒険者の登録もしてないとか…?流石に無いよね?」



「そうね!私たちもエクシアさんに憧れて冒険者になったんだもの!せめてギルドの開始がいつか位は知ってから行かないと…エクシアさんに怒られちゃうよ!」



「いやいや!オネェちゃん達、もしかしたら依頼者かもしれないじゃ無いか!ファイアフォックスの依頼は幾らからか聴きに行くとかもあるだろう?」



「あ!たしかに!でも格好が冒険者風だったから…てっきり…じゃあ村の依頼か何かで来たのかな?」



「そうね…難しく無い依頼だったら街営冒険者ギルドの方が安いから、そっちの方がいいわよ?もしかして山間の村営ギルドも無い村から来たの?フォレストウルフ位なら私達も倒せるからそれ位なら依頼受けられるわよ?金額次第だけど?」



「あ!いやそのですね…何と言いますか、今日ギルドに行く約束したのですが何時から開いているのか聞き忘れてしまって。」



「成程な!約束済みか…なら既に待ってるかもな…余り待たせないうちに行った方がいいぞ。何のために行くかは知らないし聞くつもりは無いがあの時間に泊まった事は俺が口利きしてやるから!安心して飯食ったら行こうや。」




 昨日の嫌そうな顔からは伺えない程、良いおじさんだった…後でこの街はどれくらいの宿代が平均なのかちゃんとエクシアさんに聴いて金額が見合えばここに延泊も良いかもしれないと思ったら…入り口が開いて聞き慣れた声がする。




「おーい!オッチャン!邪魔するよ!マッコリーニにウチの知り合いが宿泊中でいるって聞いたんだけど?昨日4人組ここに真夜中に来なかったかい?…」



「って!ひろ!起きてたか!いやー悪い!帰って寝たら寝坊しちまって今さっきギルド行ったらロズに…『エクシアさん…ここが開くのいつか教えましたか』って言われてさ〜ヤベェ〜って思ってマッコリーニのとこまで飛んでいったよ!」



「あ!おはよう御座います!僕も今さっき起きました…今から宿の主人がご飯くれるそうで…実は皆はまだ寝てます。皆起きたら向かおうって事になっていてすいません。」



「おお!エクシア嬢ちゃん!知り合いって本当に知り合いで依頼主じゃ無いのか!」



「「エ…エクシアさん!」」



「んっ?依頼人?よく分からんけど、知り合いだよ?あ!ちょっとスマン…ソイツに会いたい人がいるから今連れてくるわ!」



「宿の主人すまんな…ちょっとだけ中で話をさせて頂いて構わんかな?今から急ぎ戻らねばならんのでな!」



「「「だ!男爵様⁉︎」」」



「あ!昨日はどうも!」



「おお!清々しい良い朝だな!他の4人はまだ寝ているのか?」



「すいません!今起こしてきますね!」



「構わん!構わん!流石に疲れただろう!世話になったのは私達家族の方だ…帰りがけにエクシア殿とマッコリーニの店前で会ってな…所で、何でも身分証を作りたいとか?小耳に聞いたんだが、この国のこの領土身分証で間違いは無いのか?」



「そうですね。僕達身分証がないのでこの街の身分証を作りたいのです。後程エクシアさんにお願いしてその作れる場所を聞こうとしたところで、今宿のご主人に聞いていたところだったんです。だから今日ファイアフォックスのギルドに行く予定なんですよ。」



 僕は昨日の宴会でたくさん話したせいで、つい敬語を忘れて話していた…周りが僕をビックリした顔で見つめている。



「そうかそうか!ひろ殿がこの街の身分証を!では、執事に命じて君達5人の身分証は我が男爵家で責任を持って造らせよう!男爵爵位までが閲覧利用できる施設まで許可を出しておくからな!光の15刻迄には絶対に届けさせよう!」



「これ位しか今は礼が出来んので、また何か必要な事があれば男爵邸まで言いにくるかこの街の我の別邸に言いにくると良い。」



「其方には本当に感謝しておる!たまに本邸宅に遊びに来るといい…娘達も妻も会いたがるでな!茶位は振る舞わせてくれ。」



 そう言うと、後ろで手を振っている3人娘と軽く会釈をしている夫人が見えた。



「あ!少しだけ待てますか?今クロークが上なので…ちょっとだけ!」



 そう言って男爵を街の宿屋の食堂で待たせる僕に、驚きが隠せない宿屋の主人と女性冒険者2人は「待たせちゃヤバいって!」と僕の後をついて階段を登ってくる。



 クロークを掴んでまた下に降りて、飴ちゃんを取り出して20個近くを鷲掴みにして夫人に渡す。



「帰ったら…」



「はい!虫歯にならない様に歯磨きですね!ちゃんとさせますね。前歯が虫歯になったらお嫁に行けませんからね!」



「「「はーーーーーーい!」」」



 そう言うと、男爵は僕に頭を下げて本邸宅に帰っていった。



「「「頭下げてた…男爵が…」」」



「ふーーーー。じゃあ…エクシア嬢ちゃんも朝飯食って行くか?どうせまた食ってないんだろう?」



「わかってるじゃないかー!爺さん!」



「爺さんだと!私はこの宿の支配人だぞ⁉︎支配人と呼べ!!」



「爺さん…頭でも打ったか?」



 エクシアが貰ったパンは僕らより2個少なかった…。



 エクシアがご飯を食べ終わった後『宿屋の支配人』からお茶を貰い飲んでいると、ギルマスの仕事をする様に言いに来たサブマスターに首根っこを抑えられて連れて行かれた。



 僕は皆がご飯食べてから向かうと言ったが、サブマスターに怒られていたので聴こえているかは謎だ。



 宿屋の主人が宿には共用の風呂があると教えてくれたので、使える時間を聞くと僕らの世界で言う正午までは使えるらしいので使わせてもらうことにした。


 主人が薪で温めてくるので、お仲間が来るかも知れないこの時間だけ此処にいてくれと言われたので、僕はお茶を飲みながらスライムに貰ったパンをあげようと思い二階から連れてくると、女性冒険者達はマジマジとスライムを見て…。




「何でスライムが攻撃しないでパン食べてるの…」



「夢でも見てるの…スライムが…パン食べてる」



 と言うもんだから、スライムは雑食だと教えたらひどく可哀想な人を見る目で見られた…せっかく教えたのに納得がいきません…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る