第96話「宿屋であった冒険者はモンブランの貴重な信奉者」

それからその女性たちがスライムに餌をあげてみたいと言うので、持っていたパンを千切り2人に渡すと、細かく切ってスライムにあげては喜んで感動していた。



 そこに宿の主人が風呂を温め途中で戻って来て、20分で温かくなると教えてくれたので風呂の用意をしに上に戻る…スライムは2人が餌をあげていたのでそのままにしてロックバード村で買ったこの世界の着替えだけを取りに行く。



 1階に戻るとき美香が起きて下に降りようか悩んでいた様なので、僕が連れて降りるとさっきの僕と同じ様にご飯を聞かれていたので実は全く怖くない良い主人だよ!と教えてあげるとちゃんと朝食の注文をしていた。



 お風呂のことを美香に告げて僕は先に入るか聞いたら、女性2人が「此処は親切な宿で男女別だよ」と教えてくれた…若干赤っ恥だった。



 美香がご飯を食べながら『宿屋の支配人』に使役した生き物を連れて来て、頂いたご飯を分けてもいいか?と聞くと喜んでパンと御菜を多めに皿に載せてくれた。



 女性達はスライムだけでも驚いたのに今度はクルッポーが食堂に入って来たものだから若干戸惑いを隠せない感じだが、『宿屋の支配人』は気分が良かったせいか自分が食べていたパンの半分を細かくちぎりながらクルッポーにあげると肩乗り鳩の様になって食べていた。



 スライムは女性冒険者2人から僕が渡したパンの他に干し肉を貰い、クルッポーは宿の亭主からパンと御菜を貰ってお腹がいっぱいの様だ…やはりこの鳩とスライムはちゃっかりしていて頭が良い…。


 スライムは冒険者2人と美香に任せて、僕は一足先に風呂に行かせて貰った。


 風呂から出ると、他のメンバーも起きて来ていて皆ご飯を食べていた。


 先に居た皆から貰ったと言うのに新たに合流した全員から少しずつ食べ物を貰うスライムとクルッポーの胃袋は底なしだと思うしかない。


 クルッポーはあれだけ食べて飛べるのかちょっと心配になる…さっきから机の上を歩きはするも一行に飛ばないからだ。


 僕はスライムをくりくり弄りながら仲間外れ気味のモンブランを思い出していた…なんか可哀想なので2階に行って苗木を持って降りてくると、宿の主人に水を少し貰うことにした。



 水を苗木にあげると、モンブランはいつの間にか食堂の片隅に座りご機嫌な様だった。


 此処にいる人間のは見えないので僕とは今は話せはしないが、この場に一緒にいるのが楽しいのだろう…さっきまで若干仲間外れな感じだったので尚のこと嬉しいのかもしれない。



 「「せーの!聖樹様!緑の木々の神様!世界の神木様!今日も一日無事であります様に!」」



 突然の冒険者2人の言葉にビックリした僕だが、もっとビックリしたのはモンブランであった…どうして急に苗木に御祈りしたのか聴いたら、自分達の出身の村が神木と森の精霊を祀る村だったと教えてくれた。



 2人ともその森が、やがて魔の森に飲み込まれるんじゃないかと危惧して、解決法を探りに冒険を始めたとまで教えてくれた。



 それを聴いたモンブランとしては黙っていられなかったのだろう…枝を揺らして2枚葉を落とす。



「え?コレって…聖樹の葉の話に似てない?村に伝わる話にそっくりよ!」



「清く輝く聖樹の精霊は、清き森の願いに耳を傾ける…心優しき願いがあれば葉を恵み、心悪しき者達のそばからは立ち去るであろう。それが森の精霊の定めなり。だったよね?」



「コレ薄く光ってる…加護の力だけど、あの村の神木の加護よりはるかに強い力だよ!」



 2人して僕を見るが僕は理由が上手く言えない…モンブランが見えない2人にはどう説明して良いかもわからないからだ。



「えっと…なんて言うかですね…」



「「だ!大丈夫!」」



「説明は平気だから!」



「精霊を祀る森の村に伝わる掟に、『如何なる事があっても人の願望で精霊の願いを穢すべからず…人の穢れは森を飲み込み恵みは消える』とあるので私達には説明は要らないわよ。」



「この葉が一枚有れば大丈夫!私達に遥かに希望が出来たから。」



「いずれ旅の最中にでも、私たちの故郷に遊びに来て貰えればその時は歓迎するわ。」





 それを聴いたモンブランは凄く嬉しそうだった…多分今の言葉であの魔の森でした事の少しは報われたのだろう。


 あの場所にいる限り今の話は聞けなかったし、そもそも森の精霊や神々や聖樹達を崇拝する民がいた事は何より救いだった筈だ…それを全て含めてあの場所から出た事は良かったと言うことになる…心なしか聖樹が緩やかに揺れている気もした。



 僕達は順番にお風呂に入り、どう見ても時間外の入浴だったので宿屋の主人にお礼を言う。



「あんた男爵にあんなことを言わせる人だったんだな…昨日はすまなかった。」


「いえいえ!朝に理由を教えて貰ったじゃないですか!強盗じゃないと分かって貰えてそれだけで充分です。」


「おお〜?俺たち強盗だと思われてたのか?」



「女3人に少年1人あの時間の連れて人目を忍んで宿に来れば奇しくも思うさ…この街は治安は良い方だが、宿屋は割と危険なんだ…でもすまんかったな。」



「確かにそうですね!そうまの人相だったら盗賊か!それとも山賊か!もしくはゴブリンだと思っても良いくらいですね!」



「はっはっは!確かに。ゴブリンが来たといえば良かったのか!結菜さんとやら。有難うよ!」




 この世界は安全とは程遠いのだから念には念を入れるくらいが丁度いいのだろう…宿屋の主人が言うには僕達のグループは特にそうまが怪しかったそうだ…美香と雛美は同じ位の年齢に見えるし僕も同年代だ。


 確かにそんな3人を連れて深夜に泊まる場所を探していれば、長年此処で宿をする立場とすれば気になってもおかしくは無い。





「もしかしたらまた部屋を借りるかもしれないのですが、その場合は遅くても平気ですかね?」




 僕はそれとなく時間的なことを聞いてみる。




「大丈夫じゃと思うよ…この周辺は宿がなくてな、飲み屋のある西区画側の方が店がいっぱいあるからなどうしても通り挟んで向こうの方が人気があるんじゃよ!」



「お兄さん達また泊まるなら此処にした方が絶対良いよ!向こうは高いのに風呂がないとか相部屋とか、たまに寝ている間に置き引きされるとか変な宿が多いからね!」



「それと向こうは1泊銀貨4枚からで高い店は8枚もするよ!この宿の宿泊場所より汚いのに…アタイ達は飲んで食ってした後でも少し歩いてこっち戻るくらいさ。」



「まぁ向こうは踊るホーンラビット亭があるから朝から噂のショウガヤキ食べるなら向こうじゃないと買えないかもだけどね?」



「他にも注意することは沢山あるわよ………………」





 冒険者のコミュニケーションは必要なのが良く分かった、この周辺の宿泊代平均がひょんな事で分かったので大助かりだった。

その上に大部屋や個室の違いで風呂有無に飯の回数何度かこの辺りを利用している冒険者の情報は非常にありがたかった。



 彼女達のいまの有益な一番情報は、朝から人気の踊るラビット欲張り弁当の事だった。




「安くて綺麗でお風呂があるならこっちで良いよね?美香ちゃんも雛美ちゃんもお風呂入りたいよね?あ!生姜焼きの件は別に平気よ?私が作れるから皆の分を自分で作った方が早いもの。」




 結菜が生姜焼きの調理説明をすると、冒険者の2人と宿屋の主人は聞き漏らさず聴いていた。

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