第81話「運の尽きる日……過去の過ち…その後に起こる惨劇」

門まで下がっていくゲルゲとその仲間、しかしそこには新たに4人の冒険者が居た…しかし装備がゲルゲ達とは異なり、佇まいも何やらゲルゲとは全然比べ物にならない。



 見るからに出来る冒険者だった…ゲルゲは実は名前だけのギルドマスターだったのかもしれない!後から合流するためにこの時間だったのであれば今までの時間のずれは納得がいく…僕はそう思いながらゲルゲの仲間3人に魔法を撃ち込んだのは失敗したと思った。



 その傷をマジマジと見たリーダーらしい男は僕のことを見ている…何故僕がやったと分かったのだろう…冒険者特有の何か伝える方法があるのだろうか?



 そう思っていると、前に居た3人がゲルゲと会話を始めた。



「ゲルゲ!久しいな!正門の衛兵が多分ここに居ると言ったんで飛んできたぞ!」



「お前達なんで!」



「何でも何もあるかよ!あの街は俺らの育った街だぜ?帰ってくるのは当然だろ?」



「ちょっと小国郡で依頼をこなしちょってな〜随分向こうにいたけど、この国の鉱山で魔物が出たと旅の露天商に聞いたからここの街を思い出したんよぉ〜。」



「相変わらず緊張のない喋り方なお前!元気そうで安心したぜ!」



「そうなんじゃ!じゃあ古巣に戻るかってことで戻ってきたんじゃ!『古巣』になっ!」



「そうか!丁度よかった!今仲間が怪我してな!手が欲しかったんだ!」



 そう言って怪我した仲間を見るゲルゲだが、前にいる3人は既にその事は把握して知っていると言う顔ぶりだ…それはそうだろう、3人の中の1人は一番初めに傷の具合を見て僕を見ていたんだから…。



 僕のそばにいたテロルは盾を構えて腰を落としている…先程とは雰囲気が全く違う。



 これが本来の騎士の戦い方なのだろう。そしてロズも緊張した感じで無駄口を挟む様子はなく、武器を正面に構えながら盾をテロルと同じ様にしっかりと構えている。



 そしてエクシアがロズそして僕達に聞こえる声量で話かける。




「いいかい…あいつ等は、ゲルゲとは全く次元が違うよ!アタシ寄りだ…佇まいからして『まともにやって来た』銀級冒険者の匂いがするよ…ひろと美香はアタシ等が戦闘に入ったら迷わず!すぐに後ろに行きな。特に美香は男爵の事など構わずに一番後ろの壁までだ!そして終わるまで頭を上げずにしゃがんでな!いいね!」



 その言葉を聞いたテロルがエクシアとロズに戦略を言う。



「エクシア殿!私が正面の壁になります…ロズ殿も我の横に…私には対象の攻撃を盾の幅より広く弾くスキルがあります…防具の質なら向こうより優っています…攻撃は防ぎますのでご安心を!」



「できる限り男爵夫人を助ける様にして頂けると助かります…ロズ殿は出来ればこのまま私の右側で盾を構えていただけますか…盾を扱う者が居た場合、スキルの効果範囲内であれば我と同じ効果が見込めます。」




 テロル達が打ち合わせをしていると、さらにゲルゲに質問を重ねる冒険者の3人。




「盾職のお前さんが盾も持たずに何しちょるんだ?」



「コイツ等がもっと俺に協力的なら盾を使えるんだが…リーダーの辛い所だ!」



「ちょっとこの男爵夫人を頼む!お前なら片手武器だから預かってても平気だろう!俺があいつ等の攻撃を盾でいなすから任せておけ!」



 そう言って新たに来た男に夫人を雑に渡すと男は背中に担いでいたボロい盾を装備する。



 新たに来た4人組は1人が槍を持ち、2人はゲルゲと同じ様に盾と剣を持つがリーダーの様な男はグレートソードと呼ばれたゲームで見かけた事がある大振りの剣を持っていた。



 ゲルゲは何故あの武器を片手武器と言ったのだろう…あの大きさの剣を片手で扱うのだろうか…。



 因みに戦法的には盾2人で攻撃を防ぎ槍が距離を稼ぎ攻撃、リーダーがグレートソードで両断する戦い方なのだろう。



 ゲルゲを入れると3人が盾持ちだが、ゲルゲの装備は2人に比べると…とてもお粗末に思える。



「ゲルゲ!お前!大切にしていたあの親父さんの形見のタワーシールドはどうしたんじゃ!」



「あれは…今…修理中だ!そう!修理してる最中だ!すぐに帰ってくるから心配すんな!」



「そうか!そうか!ならもう一つ質問じゃ!」



「質問なら後でいくらでも答えてやるからこっちを優先しろ!コイツらは良い金になるんだ、だから今はこっちに集中しろ!…オイ!お前等!金と宝はどうした!早くもってこい!」



「大丈夫じゃ!な〜に…すぐに済む質問じゃ!…何故お前は…タンバを殺した…」



「なぁ!…な…何を言ってるんだ!俺はタンバを殺してなんかいない!『アイツは俺のところまで来ては』いない!」



 ゲルゲがそう言うと、後ろの槍を持った男が怒りに震える手で一枚の盾を放り投げた…今にもゲルゲを殺しそうな目をしている…そして酷く恨みが篭った声で…



「ある日…アイツはお前を迎えに行った。俺が止めるのを振り切って…その盾を持ってお前の元にな!」



「そこの盾は前に小国郡に来た露天商が持っていたものだ…お前から売ってもらったと話をしていたぞ!その店主は、番犬の銀級冒険者ゲルゲ自慢の大盾だとな!」



「タワーシールドはお前が命より大切にしていた親父の形見の物だから…返しに行く…そして俺等のパーティーでいちから一緒にやり直す!と言って…アイツは自分の財の大半を注ぎ込んで買い戻したんだ!そしてお前なんかの為に…お前なんかを迎えに行く為に…タンバは俺等の所から去っていった。」



「儂等は待った!ずっと待った!タンバがお前を連れてきて…また全員で冒険ができる日を待って!ギルドに縛られず!パーティーひとつからやり直せる日を祈ってな!」



「そして、帰ってこないお前のことじゃ!まだ喧嘩別れした儂等に怒ってるんじゃと儂は思った!タンバからの便りが無いのは説得しながら宥めて連れ帰る日を夢見て一緒に冒険しちょると思ったんじゃ!」



「じゃがこの間…この国の鉱山で魔物が出たと聞いたから…儂等も魔物のせいだと理由をこじつけてこっちに戻ってきたのじゃ!」



「あの『魔の森の外縁部の水路』を通ってな!」



「んっ!何!」



「意味がわかったか!この盾を儂等が持っている意味が!」



「タンバはもうあの森から出られない!永遠に浮かばれない…魔の森の住人になった!死霊じゃ!儂等が通った水路を…タンバはゾンビになって歩いておった!盾を持って彷徨いていた!」



「俺等がお前に渡した…この短剣が胸に刺さってな!」




 そう言って男がゲルゲの足元に投げたのは小さいながらも綺麗な宝石がはまった短剣だった…その短剣の持ち手は酷く血と泥に汚れていた。



「これは儂等がお前の誕生日に護身用で選んだ物じゃ!これに目を付けたのは!あのタンバじゃ!お前が気にいると言って!お前の弟の様に接していた!あのタンバじゃ!」



「タンバは!肉体が滅びた後も!浮かばれぬ魂となって彷徨うのじゃ!あの森を!ゾンビの後はゴーストになり!彷徨うんじゃ!貴様のせいで!」



 そう言った次の瞬間、男は夫人をこっちに向けて突き飛ばす…びっくりしながらも、すぐさま夫人を受け止めるテロル…。




「馬鹿が!何してんだ!てめぇ等の痴話喧嘩でこっち巻き込むな!金ヅル手放すんじゃねぇよ!素人が!」


「貴様何しやがる!せっかくの金ヅルを!」


「くそが!お前達が金払えよ!俺等のもらえる分の!」



 ゲルゲの手下3人の最後の言葉だった…。



 今の話を聞いても金のことしか考えられないゲルゲの部下に勘弁がならなかったと見られる3人の一撃は、騎士テロルでさえも動けないくらい研ぎ澄まされたものだった。




 グレートソードを持つリーダーは振り向きざまにその大剣をゲルゲの部下の1人に振り下ろす…肩口から入った剣は斜めに振り下ろされてその身体が両断される。



 右側にいた盾と剣を持った男は器用にその場で剣を構え洗練された動きでくるっと回りながら一切の無駄もなく振り抜く…横に居た男の腹からその身体を上と下に両断する。



 そして左側の男は持っていた盾を放り投げ両手で剣を持ち振り上げると頭上から男の頭めがけて淀みなく一刀を振り下ろす。



 ものの数秒だった…ゲルゲ以外の男達はその場で動かぬ塊になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る