第82話「ギルド番犬の消滅と罪の対価」
3人の実力は相当なものだった様だ。
エクシアでさえグレートソードの斬撃に備えた動きしか出来なかったのだ。
あの3人の連携がエクシアに向いていたら無傷ではいられなかっただろう。
槍を持っていた男は素早い動きで前に出るとその槍を手放し、一本の薄汚れた剣を抜き放ちゲルゲの武器を弾き落とし両手を素早く拘束する。
「男爵夫妻殿……邸宅の目前で刃傷沙汰などおこし申し訳ございませぬ。このお咎めは後程お受け致します。今は何卒ご容赦を!」
「そして、ギルドファイアフォックスのギルドマスター・エクシア殿。其方の依頼と思われる件を横取りして申し訳ありません。報酬はちゃんと受け取れる様に我等はあらゆる権利を辞退致します故……この者だけは我等にお譲り頂きたい!」
「今より、この者が殺めた我らが友のところに連れて行きます。そこで我等が友の使っていた此方の剣にてこの者に瀕死の傷を与えます…」
「我らが信仰する闘神に誓い、あの森で息絶える手傷を必ず与えます。男爵殿は奥様と御令嬢殿の一件もあり許せないとは思いますが、その怒りは我々の身をもって受けます故……此奴の死は我々に頂戴したいと思います。」
「いえ……コイツの命だけは如何に男爵様とて……決して譲ることなどできません!我が弟の無念の為!」
4人は其々に許可を嘆願する…槍を持つ男は今まで会話に出てきたタンバと言う冒険者の兄だった様だ。
ゲルゲに対する今までの殺気は当然と言えば当然だ。
「やめろ…やめろぉぉぉ!死にたくない。死んでまで!彷徨いたくない!仲間だったよしみだと思い頼む〜辞めてくれ!男爵……いや男爵様!せめて!今すぐ打首にしてくれ!」
身勝手なものだ。理由は何かはわからないが、殺して魔の森に遺棄したのは間違い無い。
その上で自分は罪を償いたく無い……そして、同じ目には合いたくないとくれば男爵はどう思うだろうか?
自分の娘達の命が脅かされその後身勝手な理由で妻にも危険が及び、命と引き換えに宝と金を寄越せと言われれば…僕だったら速攻首を刎ねそうだ。
「我!クリスタルレイク家、ウィンディアが其方等、旅の冒険者に命ずる!最愛の我が娘達、そして妻に危害を及ぼしたその者を魔の森外縁部水路にて磔にし!息の根が止まるのをその目で見たのち我男爵家まで戻る事を命ずる!」
「我兵を共に差し向け、その者が死んだことを確認したのち其方等の今迄の行為は不問と致す!」
「テロル!我が最愛の娘達があの者に害されただけでなく、娘達の愛する妻までもが害された!必ず死ぬ様をその目で見届けるのだ!此方の者達と行け!」
「はい、我が主人よ!クリスタルレイク家に害をなしたゲルゲの処刑!我が確認して参ります故ご安心ください!」
「なんだと……男爵!!テロル!お前達に人の心があるのか!」
「よく言うよ!アンタは仲間を殺して魔の森に放置したんだろ?その時点でソイツがどうなるかは冒険者であれば分かるし、そもそも冒険者を纏めるギルドの長がやる事じゃないね!魔物以下さ!」
「相手にした事を自分がされるんだ!彼らの話ではそもそも仲間だったんだろう?弟みたいにあんたを慕ってたんだろう?殺した奴は……だったらアンタは尚の事、我慢するんだね!化けて出て他の冒険者に迷惑掛けんじゃないよ?黙ってずっと森の奥でおとなしく死んで彷徨ってるんだね!ゲルゲ!」
「う……うるさいぞ!エクシア!お前等がいなければこうならなかったんだ!成功して今頃!他の国にいたはずなんだ!」
ゲルゲの最後は元仲間の4人に連行され魔の森に連れていかれる事になる。
彼の企みは既に捕まった3人の供述を元に全てが明らかになるだろう…貴族に危害を及ぼしたのだから嘘を言って誤魔化す事もできない。
ゲルゲの死に様を聴いたら間違い無く自供するだろう…彼らはゲルゲの様に死んだ後も自由になれない呪われた身体と魂などにはなりたくないだろうから。
こうしてゲルゲの作った番犬という名のギルドは彼と共に無くなった…一時は銀級冒険者6人も居る冒険者の憧れにもなったギルドだったが…彼は仲間であり一番の理解者を殺めた同じ場所で自分も生涯を終えた。
しかしゲルゲの魂は救われることはない…彼が友人にやった様に自分も未来永劫、魔の森を彷徨う死霊としてこの地に縛られる。しかし彼の場合は悪霊になっても苦痛は今迄より増すばかりで幽体になっても休まる日は永遠に来ない。
魔の森に縛られた哀れな友の供養をしに来る4人の冒険者は、憤怒の怒りと友人の無念を込めて悪霊となったゲルゲを叩き潰して帰るのだ…彼がまた誰かに危害を加えない様に念入りに叩き潰すのだ…ゲルゲは永遠にこの森を彷徨うがその度に彼等に叩き潰されることになった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
事が終わった僕等はクリスタルレイク家のウィンディア男爵とフロウティア夫人に招かれていた。
騎士テロルが4人の冒険者について行くにあたり、魔の森だけに何があってもいい様に兵士2名とロズが共についていった…その間僕らはお茶を振る舞われる事になったのだ。
エクシアが居ることは男爵家にとっても刑執行で兵士達を派遣するので身の回りの護衛的にはちょうど良かったはずだ。
彼ら4人は、魔の森の外縁に沿う用水路に向かう前に自分の冒険者証を男爵とエクシアに見せていった。
エクシアにも見せたのはロズを共に行かせるので身元の照会としてギルドマスターのエクシアに見せた様だ。
彼等のパーティー名は『輝きの旋風』で全員銀3級冒険者だった…どうりでエクシア達が警戒した筈だ。
彼等の名前はリーダーがアルベイ(ソードマン)でラバル(戦士/タンク)、ドーイ(戦士/タンク)は幼馴染らしい、トンバ(バーバリアン)はゲルゲに殺されたタンバの兄でゲルゲを合わせて元々は6人パーティだったそうだ。
ギルドについてと自分たちの詳細については戻り次第話す事になった。
エクシアが何故番犬を辞めたのか?だけは確認したが、ゲルゲの金を得る為の方針について行けなくなり随分前に小国郡に行きそこで冒険者を5人でやっていたらしい…小国郡といえば雛美の居たところだが彼等曰く、あそこも中々いけ好かない場所らしい…特に貴族が腐りまくっているとの事。
因みに話をしている最中ゲルゲの身柄は、村人と衛兵が見張っていた。
僕が村人に村が魔物と彼等に襲われている事を話したのだが、衛兵が所持品を漁ったところ各村で手に入れたであろう金目の物がいっぱい出てきた。
自分達の村を荒らした奴なのだ…村人は絶対に逃すはずも無い。
男爵のいる広間で彼らを混ぜて話していた時に、荷馬車に乗ったマッコリーニと馬に乗ったベロニカがジェムズマインの街の衛兵同伴で男爵邸の前迄到着した。
「遅くなってすいません!いやはや…中々エクシアさんもお忙しいですね!街に帰ってきたその日に男爵邸とは…それにしても私等がまさか男爵邸に来れる日が来るとは思いもしませんでした!」
「はじめまして、クリスタルレイク家ウィンディア男爵様。私はジェムズマインの街にて商会を営んでいるマッコリーニと申します。この度は男爵邸宅へ入る許可を頂き誠に有難う御座います。」
…マッコリーニの挨拶は男爵を目の前にして臆する事もなく手慣れた物だった。
マッコリーニが来たので男爵の計らいで人払いを行い、そこからちょっとした話し合いになった…内容は僕等の事だ。
テロルは魔法契約が必要になった一部始終を申し訳なさそうに男爵と男爵夫人に話すと、『娘の命の恩人だから何も問題ない!』という事になった…
男爵と夫人は一言…
「水魔法を『魔法詠唱もなく』行使する魔導士様の時点で、今で無くてもいずれそんな事になると思っていた。」
「長い詠唱を唱える事もなく一瞬で私の後ろの3人が水魔法で吹き飛んだ時点で、私は水精霊の御使がお越しになられた!と思いました…他言する筈もございません!」
と言っていた…水精霊ならいつでも呼べるので見せた方がいいのだろうか…これからの冒険の助けになるなら見せても良いのだが…但し…すごい残念感しかない精霊だけど。
マッコリーニはファイアフォックスのギルドメンバーとそこにいた人全員のサインを既に貰っていたらしく、娘達のサインを見た男爵夫妻はその時の様をマッコリーニに聴いて一安心していた。
エクシアは、話し合いの最中も結局娘の安否が気になって仕方ない男爵夫妻に気を利かせて、話し合いの場に一度休憩を設けた。
既にサインをしたベロニカをギルドまで戻して、男爵家兵士3人とゲオルとベンそしてベロニカの3人の追加護衛と異世界組3名付きで男爵邸まで無事に御令嬢3名を連れ帰る様に指示を出す。
その行動に男爵夫妻はえらくエクシアを気に入ったらしく、男爵家の依頼は今後エクシアのギルドに一任する運びとなった。
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