第34話「故郷にダンジョン?焦るエクシア」


「取り敢えず、ここで話をしててもラチが開かない…奥に進むとしよう。」



「今までの行程でどの道にもヒロが居なかった事を考えると、間違いなくあのバカはこの先に進んでる。」



「ここから先は、この村で育った私も知らない場所だから気を抜かないで気張っていくよ!いいね!」



「ハイ!エク姉さん!ちゃっちゃとヒロを連れ帰りましょう!俺をここ迄連れて来た礼にあの「飴」ってもんをまた貰わないとですよ!」



「そ、そうだね!え、あーっと、そう言えばあんた達の自己紹介まだだったね!」



 唐突に、ロズが以前貰った異世界産の「飴」の話をしたもんだからエクシアは思わずびっくりするも、平静を装い一緒に洞窟内に来た3組のパーティに即座に話を振る。




「と…ところであんた達のパーティーの名前聴いてなかったね。」



 ロズとエクシアの話に、なんら不思議な感じを覚えていない三組の冒険者はそれぞれに自己紹介をする。



 彼らにとって、ロズの言ってた「飴」なる名前の知らない物より、エクシアがギルドマスターをしている「ファイアフォックス」の方が重要なのだ。



 名前を覚えてもらって、少しでも名が通っているギルドにいつか自分の名を連ねる事…それが冒険者としての目標なのだ。



「自分たちは、北部の村、ワイルド・ウィーン出身 スノウ・ベアーというパーティーです。いつかファイアフォックスみたいな名の知れたギルドに入りたくて4人で頑張ってます!」



「戦士、タンク、シーフ、レンジャーの四人で、一応これでも全員銅級冒険者です…銅級でも青銅なんで3位ですけど…」



「良いじゃないか!銅級3位って言ったらロズと一緒さ〜階級なんて魔物の前だと役にも立たないよ。所詮上のもんが決めた目印なんだからね、如何に村や街に住む奴を助けるかが冒険者だ。ちゃんと気張んな!」



 そんな感じで、3組共に自己紹介をする。



 スノウ・ベアー4人組冒険者、戦士、タンク、シーフ、レンジャーのむさ苦しい男4人標準パーティー

 レッド・アイズ5人組冒険者、戦士、タンク、魔法使い、回復師、薬師の男3人、女性2人の回復特化パーティー

 アイアン・タンク4人組冒険者、タンク、タンク、回復師、シーフの男2、女性2の重装型パーティー



 殆どが銅級3位でアイアン・タンクの回復師だけが銅級2位だった。



 レッド・アイズとアイアン・タンクのメンバーは旅先で出会ってそれぞれパーティーを組んで1年ちょいらしく、スノウ・ベアーのパーティーは全員が幼馴染という事で、回復師が居ない分連携で上手く敵をたそしている様だった。



 少なくとも、この洞窟にはスライム以外今までは出会っていないので今まで問題は無かったが、奥が見つかった以上それももう安全とは言い切れないので、エクシアはとっさの判断で指示を出す。



「メインはアタシ達のギルドで探索するが、分岐路があった場合この先はアタシの指示に従ってもらいたい。」



「悪いが、スノウ・ベアーと、アイアン・タンクは一緒に行動をしてくれるかい?大した敵が出るとは思えないが一応念のためだ。この先はこの村のものも行ったことが無い場所だからね、万が一崩落事故とか、足元が抜けるなんて事も考えた方がいいからね。」



「レッドアイズは予備戦力で、さらに分岐する道が出た場合頼むことになる。アンタの所は回復師に薬師が居るから万が一他のパーティーが怪我した時に補佐もできるからね。」



「言わば命綱の役目だ。頼んだよ!」



エクシアの説明に頷く3組のパーティー。



 自己紹介をしながら歩くエクシアと3組のパーティーだが、そこに斥候としてゲオルとベロニカとベンが先行していたが戻って来た。



「この先に3箇所の分岐路がある、真ん中の通路がでかいが…言い難いがここは洞窟じゃ無いダンジョンだよエクシアさん。」



 突然のベロニカの説明に緊張が走る…



「左右の通路は右が下の階層へ通じてた…真ん中が階層主の部屋だ。もう片方の左の通路は通常個体より強い魔物が居ると思われる。」



 ゲオルの感知魔法で調べた結果だった。



「ほ…本当に…ここがダンジョンだって言うのかい?私が育った村なんだ!ここは!」



 そう言うエクシアに、ベロニカとゲオルは顔を見合わせながら荷物袋を差し出す。



「こ!コレは?なんだい!なんでこんな物が!」



「ここがダンジョンの証だ…エクシアさん…ここのスライムは宝箱を落とすんだ。さっき細い通路で遭遇したスライムの亜種から手に入れたのは、精霊の祝福って言う宝箱だった。中身は水精霊との契約の腕輪だ。エクシアさんもわかってるだろう?洞窟では出ないもんだ宝箱は。」



「残念だけど、ここは随分前からダンジョンだったんだよ…エクシアさん。」



言葉にならないエクシアにロズが話しかける。



「エク姉さん…落胆する気はわかるが、今はそれどころじゃねぇだろ?ヒロが奥にいっちまってるんだ!どの部屋かわからねぇのか?ゲオル!」



「ロズの言う通りだ、問題は魔物が戦ってる気配がないって事だ…運が良ければ下の階層に…運が悪ければ…」



「グダグダ言ってられねぇ!ここの階層主だかなんだかしらねぇが!ぶっ倒して確認すれば済むだろう!行こうぜ姉さん!聖樹の精霊と話すバケモンですよ!ヒロは!死なねーっすよ!」



「それにダンジョンなんて、ぶっ倒せば良いじゃないですか!名声だってあがるし!最悪ヒロが下に降りてても急げば間に合いますよ!此処だってそうすれば元どおり洞窟っすよ!」



 ロズの言葉にエクシアがハッとする。



「ロズの言う通りだ、階層主だかなんだかしらないがヒロが死ぬはずないんだ!そもそも聖樹の苗木持ってるんだから!加護でやられるはず無いんだ!」



「あの規格外が死ぬタマじゃない!このダンジョンだって最下層の主ぶっ倒せば元どおりだ!いくよ!野郎ども!」



 3組のパーティーの助力もあり連戦となった1F階層の階層主戦とネームド戦は難なく終了した。



 4つのパーティーからなる連携は上空から襲い来るネームドモンスターもタンクの分厚い壁とレンジャーの速射に魔法使いの魔法を連続で浴びて、地面に落ちたところを戦士の猛攻に遭い反撃の隙も与えず撃破。



 階層主の巨大ガエルに至ってはタンクの大盾に阻まれ舌の攻撃さえ通さず、上空に跳んだところを撃ち落とされ腹を見せたところに追撃され呆気なくも討伐される。



 どちらの部屋にもエクシア達の探す僕は居なかった…それもその筈…



 すでにその時には最下層で上級精霊とちょっとヤバ目の感じになっていた。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



 話はエクシア達がこのダンジョンに足を踏み入れた時に遡る。




「上級精霊様!もう!持ちません!穢れの濃度が急に濃く!」



「耐えるのよ!此処が落ちたら水を冠する人の場所がまたひとつ無くなるから!人も私達も住めない土地になる!」



「す…水鏡に!1Fの水鏡に多くの冒険者の姿が!これでは姉様の精霊力が持ちません…此処はもう…」



「なりません!人との盟約!我が眷属の誇りにかけ!護らねば!この村を!」




 4つのパーティーからなる冒険者が、このダンジョンに侵入した事で上級精霊の力が弱まった今…ダンジョンの均衡が破られようとしていた。



 冒険者は村人より多くの穢れを発する…名声を欲し、宝物を欲し、欲に溺れたものも少なくない。



 この世界では、人間は存在する事で穢れを発する生き物で、それをこの世界の生き物全てが受け止めて自然に還す。



 魔物は人間を喰らうそしてその魔物はもっと強い魔物に喰われる…これは食物連鎖の過程であり、仕方のない事だが人間に至ってはその過程で穢れを発する生き物にいつしかなっていた。



 その過程で出た穢れは、この世界の秩序を破壊し人間にも魔物にも植物にも存在する全てに影響を及ぼす。



 今此処にその影響が現れんとしていた。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆

==登場人物・用語集==


『精霊』


モンブラン(性別不明) (聖樹の精霊)

水っ娘ノーネーム(水の精霊)


『ギルド』


ギルド・ファイアフォックス  ギルド等級 銀3級


紅蓮のエクシア R「ギルドマスター」♀ (銀級2位)

ロズ(戦士・タンク)♂銅級3

ベン(戦士)♂銅級3

ベロニカ(弓使い)♀銀級3

ゲオル(魔法使い)♂銀級3


ザッハ「サブマスター」♂

リープ(事務員)♀

フィーナ(販売員)♀

ゴップ(解体担当)♂



マッコリーニ商団


パーム(妻)♀(店長)

レイカ♀(娘)

ハンス(執事)

御付き1♀

御付き2♀


売り子A♀

売り子B♀

売り子C♂

売り子D♂


水精霊の洞窟村


レン爺 (村長)♂

バフゥ (武器屋の親父)♂


飯屋の女将 ムイムイ♀

飯屋の料理人 ドムドン♂

飯屋の娘 メイメイ♀

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