第15話「僕とエクシアと聖樹ちゃん」


 ロズはチャームを持ったまま、流れの3人を誘導して無事にキャンプに連れ帰っていた。


 エクシアは?……と言うと、森の奥へ僕の足跡を追跡中だ。



 その頃僕は、やっと手招きの女の子に逢えてその子と談笑していた。



『お兄ちゃん!私が見えたんだね!ダメ元で手招きしてよかった!』



「疲れたよ〜!走っても走っても辿り着かないわ……近づくと走っちゃうから、追い付かなくて途中から魔物か?って思ったよ!」



『助けたのに〜魔物扱いとかひどくない?じゃあ!助けたお礼にさ、私を此処から連れてってくれないかな?』



「エクシアさんが良いって言えば大丈夫かもだけど……あ、あとマッコリーニさんて言う人もだな?僕の一存で決められないんだよね……実は僕もお願いして、一緒に同行させて貰ってるんだよ。」



『その点なら平気だよ〜私多分他の人には見えないはず……って言うか……お兄さん?見えるのも、声が聴こえるのも……普通おかしいんだよ?私ってば!実はこの木の精霊なのよ!すっごいでしょう!』



「この木のって…コレ?」



『コ……コレ扱いってヒド!私これでも一応は聖樹の精霊だからね!もっと敬ってよ!聖樹くらい知ってよね?』



 走っても走っても近づく様子さえ見せない時は、魔物の類かと思ってもうダメかと思ったが……辿り着いた場所は1本の大きな木だった。



 その木は、とても清らかの感じがする場所だ。



 僕を追っかけてきた最後のフォレストウルフは、僕が居る木の幹にジリジリ近づこうとするも、ウルフの身体に刺さった木の枝に、手を伸ばせば届きそうな距離になると、後ろに跳ねる様に飛び退く様な行動をする。



 驚く事に手招きをしてたのは聖樹の精霊で魔の森で、フォレストウルフに襲われる人の子を見て咄嗟に声をかけて導いたらしい。



 本人曰く、見えるとは思わなかったそうだ……何で手招きしたんだか……



 見えるか分からないのに手招きはどうか……と突っ込みたかったが、その行動のお陰で僕は助かったので、感謝する立場であり突っ込む立場にはない。



 どうやら、この森から出たいと言う下心もあったらしいが、聖樹なのでここから出る意味が何かしらあるのだろう。


 こうしている間も、彼女はずっと一人で話し続けている……



『それでね〜!ここの若木を持ってって、人の住む地に植え替えてくれると嬉しいな!気軽に話できる、お兄さんが住む場所がいいな!』



『ずっと一人で寂しかったんだよね!昔はもっと沢山精霊と話せる種族が多かったんだけど、今はもう殆どいないかな……見かけない位に、ものすごく減ってるんだよね。だからすっごく暇……寂しくて』



『まぁ、植え替えるのは良いけど、住む場所も今はまだないから、庭付きなんて住宅なんて当分先だけど……というか僕の場合は持てるかもわからないよ?大丈夫なのかい?そんなんでも』



『聖樹ってね、長生きなんだよ〜引っこ抜かれても平気だから!ただ相手を選ぶけどね!嫌いな人には葉っぱ1枚だってあげないよ!』



『って、お兄さん何も知らないんだね〜。私たち聖樹は心を許した人以外は、葉を捥いだ側から枯れちゃう位なんだって有名なのに!植え替えなんかね、もっての他とか言われちゃってるんだよ』



『実は意外と私たちのお願いで、植え替えられてるの皆は知らないだけなんだけどね〜。じゃあ植え替えてくれるって事で良いんだよね?あ!私の名前はモンブランって言うんだよろしくね!』



 声の様に聞こえていたのは『念話』だったらしく、彼女は僕に話させる隙を与えずに延々と話をしていたが、唐突に自己紹介が始まった。



 名前が木ではなくまさかの山だった……まさかの規模の大きい名前にびっくりだ。



「助けてくれたのにお礼も自己紹介もまだだったね。ノグチ ヒロシと言います。助けてくれてありがとう。」



 それよりも問題なのは、ここから出たい理由だ。


 若木に移り変わってでも移動したいのは、話す相手がいなくて寂しかったらしい。



 とっても暇だった訳ではないそうだ。



 斬新な言い訳で残念な事に、聖樹の大切な情報が一切頭に入ってこなかった……


 その残念な聖樹の精霊は、もうコレ扱いでいい気がするが……言わずにおいた。



「ところで、あのオッカナオオカミどうするの?もう大分弱ってるから、楽にしてあげたほうが良くない?」


「楽にしてあげたくても、僕弱くて逆に食べられちゃうからね……エクシアさん早く来てくれると嬉しいんだけど。」


「でも、あの枝抜けば終わるよ?あの子」



 そう言った聖樹は、僕の割と近くまで届く身体に刺さった太めの木の枝を指差す。


 逃げる最中に何度も折ってしまった枝のうち、太いものがウルフの身体に刺さったようだ……


 この手傷で生きている魔物の生命力は、本当にすごい。


 今僕が居るのは聖樹の加護の中で、フォレスト・ウルフは手が出せない。



 3頭追っかけていた筈だが、既に最後の1頭だけになっていた。



 聖樹にそう言われた僕は、おっかなビックリ手を伸ばし枝を掴むが、最後の一頭はもう噛みつく素振りを見せる余力さえない様だ。



 加護の外で……『ヴヴヴヴヴヴヴ〜』



 と唸りはするが、もう既に動く力も無い様だ。



 よくみると、身体中に転げた時に出来た怪我があり非常に痛々しい……


 それもその筈で、今いる場所は魔の森と呼ばれた場所で、木の根からは何故かトゲの様なものが生えている木さえあり、とても普通の樹木とは言い難い形をしていた。


 こんなところを転げ回れば、身体が傷だらけになるのは道理だった。


 怖いと思いながら太い木の枝を引き抜くと、その場に伏せをして眠る様に目を瞑る。


 お座りして眠る大きな犬の様で、あれだけ恐ろしい唸り声が嘘の様だった。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 キャンプに3人を届けたロズはチャームを持ち、弓使いのベロニカを連れ立って、森の奥に居るエクシアの加勢に向かう。


 エクシアの事だから1人でもフォレストウルフなど物の数に入らないが、万が一ヒロが怪我していた場合や、最悪な場合はその遺体を持って帰る担ぎ手が必要だ。


 魔の森で死んだ人間の魂は解放されず、放置しておくと魔物になってしまう事を2人は知っているのだ。


 殺された魂や彷徨った人間が死んだ場合は、魔の森に魂が囚われ不浄なるものとして彷徨うのだ。


 飛ぶように走る2人は、銀級ギルド員にふさわしい身のこなしだった。



 その頃、エクシアの目に入ったのはフォレストウルフが伏せをする様に倒れた様だった。


「ちょ!フォレストウルフがこの体制……武器も持たずに……どうしたらこうなるんだよ!装備も無く急に走り出したかと思うと結果倒して、本人は木で受けた鞭傷だけって……規格外にも程がある」


「すいませんエクシアさん……ちなみにスコップってありません?土を掘りたいんですけど」


「へ?土を掘るって……フォレストウルフ埋めるんかい?どんだけ余裕なんだか。もう規格外すぎて笑うしかないねぇ」


 この状況だと、そう思われても仕方ないが、やりたい事は違う……


「違うんです!この木は聖樹なんですよ。で、守ってくれたこの木にお願いされまして……助けたお礼に、ここの聖樹の若木を植え替えてほしいって」


「ぶ!聖樹の若木だって!っていうか……アンタ!森の聖樹の精霊様と話ができるのかい!とんでもないなヒロは!」


 水筒から飲んでた水を盛大に聖樹に向かって、口から大噴射するエクシア……『聖樹の精霊様!と言ってた割にはやる事が酷い』と精モンブランが怒っているのは伝えないでおいた。



 エクシアは荷物を全て置き走ってきた為、スコップを持ってなかった。


 僕はフォレストウルフに突き刺さっていた太めの木の枝を、エクシアから借りたナイフで加工して、簡易スコップにして若木を掘り出す。


 そして背負ってたリュックの中から、コンビニのビニール袋と飲みかけのペットボトルを出す。



 コンビニの袋に、聖樹の若木と周りの土を入れて簡易的な移動容器にしたが、どっかでちゃんとした鉢植えを買わねば。



 僕はリュックの中に若木をしまい、ようやく落ち着いた事で、とても喉が乾いてる事に気がついた。



 結構長い時間魔の森を逃げ回っった。


 そしてエクシアが来るまでここに居て、モンブランと話していたのだ……喉も乾く。



 飲みかけのペットボトルは、まだ400ミリ近く残っていたが、すでに生暖かい。



 走ってとても喉がカラカラな僕はそれを飲んで喉を潤す。


 その様をエクシアとモンブランがまじまじと見つめてる。



「飲んでみますか?口つけてないのがまだありますけど?」


「いいのかぃ!貰えるなら、その開いてるやつでいいよ!」


『良いの!全然今持ってるそれでいい!人の飲む物飲んでみたい!』


 残念な1人と、1精霊は見事に声が被る。


 エクシアには聖霊の声は聞こえず、モンブランには目の前に吊られた人参状態で既に目線がペットボトルに向いていた……


 この二人は本当に似た物同士だ……

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