第14話「魔の森に見えた謎の少女」


 苗木を手に入れた経緯だが、エクシア達ファイアフォックスと出会い夜営をした日まで遡る。



 中級魔物までは遠ざける効果がチャームにはあったので、襲撃も無くその夜は無事に過ごせたが、翌日に罠の回収の時それは起きた。



 罠回収に出かけたメンバーは、昨日と同じメンバーだったがその日は不運が重なった。



 護衛の司令塔と前衛がキャンプに居ないのに、マッコリーニはキャンプを畳んで次の村を目指す為に準備をしていた。



 それ自体は悪いわけでは無く、寧ろ商団として次の村へ向かう為には当然だ。


 それどころか人員配置の問題は護衛側にある。



 罠の回収であれば、一緒にかけたロズと弓使いのベロニカと戦士のベンで済む問題だ。



 そうしなかったのは異世界組4人の存在で、エクシアとロズもいつもの警護に比べて気持ちが遥かに浮ついていた。



 逢う可能性が一生のうちにあるかも分からない『異世界の住人』が、今自分たちと一緒にいる……その状況が問題を呼び寄せた。



 エクシア達にしてみれば『彼らはこの世界で頼る相手もいない』この状況は、知り合うきっかけとすれば、願ってもないチャンスではあった。



 それに一緒に街に行けば、生活するために働く必要がある。


 生活する上で、当面の生活費を稼ぐのに一番手っ取り早いのは、冒険者ギルドに登録し依頼をこなす事だ。



 そうなれば、個人的にどんなに強かろうと依頼を受ける為に、所属するギルドと仲間が必要になる。



 魔物と戦うには、背中を預けられる仲間が必要で、その仲間は信頼と絆でしか成り立たない。


 それが規格外の『異世界者』であれば、仲間の生存確率もかなり変わってくる。



 その事を相手の流れも弁えていて、その相談してきたギルドが自分の所ならば、ギルドマスターであるエクシアにしてみれば、相談に乗るのも致し方ないだろう。


 本来ギルドマスターはギルドに居るものだが、中級下位であればそうは言ってられない。



 今いる街では人気のあるギルドでも、他の街に出ればどう頑張っても中級下位である事には変わりはない。



 依頼達成度を確実に稼ぐためには、ギルドの事務はその道に強い別の者がやり、自分は働くのだ。



 そして、ここに本来居ないはずのギルマスが居た理由も、不運の一つだった。



 異世界人とすれば、この世界の『基本的情報を知らない事を勘繰られれば』自分が困る訳で、聞きたい事をホイホイと周りに話せる訳もない。



 聞く場所さえ選ばなければならない『流れ』にしては『魔の森』が現時点では一番最適で、街に戻れば『より最適な場所を選ばなければ』ならない。



 皆が罠を回収するついでもあったのであれば、一緒に向かわない手はない。


 一緒に魔の森に行くのを誘ったのは『どちらでも無く』それとなく行く感じになったのは『必然』だった。



 一つ目の問題は、マッコリーニが出発準備中にチャームを誤って破損したく無いあまり、重厚な箱に入ってた『マジックバッグ』にチャームを収納した事だ。



 1つでもあれば結果は違かった……



 マッコリーニは護衛が居るので安心しきっていた事もあり、全てしまってしまった……チャームのアイテム効果は、しまった場合は効果がなされないのは鑑定結果で明白だ。



 そして、商団のチャーム守護範囲付近にフォレストウルフが待ち構えてた事。



 護衛が戦士・弓使い・魔法使い三人であれば、フォレストウルフを同時に何匹も相手にしなければ太刀打ちできる。


 しかし、今まさにその『何匹』が居る状況だった。



 夕食の芳しい香りは森に漂い、群れを2つばかり引き寄せた。



 1つはマッコリーニ商団側でもう1つは?……勿論エクシアとロズと流れ組の居る森の少し中に入り込んだ場所だ。



 いつもはエクシアが持っているチャームだが、今日はロズのワガママでチャームは彼が持っていた。


 本来はチャーム効果で、心太方式に森の奥に追いやられるフォレストウルフだが、相談にのっていたエクシア達の元に、商団の悲鳴が聞こえた。


 するとロズがその悲鳴を即座に聞き取り、颯爽と商団へ駆ける……



 向こうにマッコリーニのチャームがある以上『敵商団の襲撃で刺客が来た』と思いロズが走ったのだ。


 当然だが、森に居るロズに相手が判るはずもなく……襲撃は刺客ではなく、2つ目の群れのフォレスト・ウルフだった。



 群れの半分はファイアフォックスの護衛が危なげなく片付ける。


 その間にマッコリーニがチャームを必死に取り出し、その中心に商団員全員が身を寄せる。



 商団に襲い掛かったフォレストウルフは、マッコリーニが取り出したチャームの効果に堪らず、押し返される様に森の奥へと逃げ帰って行く。


 チャームを確認した護衛は商団の安全が確保されたので、すぐ様残ったフォレストウルフの殲滅に打って出る。


 ものの数分で弓と魔法により群れの1つは見事に狩り尽くされたが……問題はエクシアの方の群れだった。



 ロズが商団のキャンプに戻ればその分、チャーム効果範囲がキャンプ側に引っ張られる。


 罠があるのはキャンプのチャーム効果範囲の外側なのは当たり前で、エクシア達はそこにいる。



 何故ならば、内側に上位種警報罠を仕掛けても時間が稼げずに意味がないからだ。


 其処にフォレスト・ウルフの群れと出くわす僕達……


 チャーム効果範囲の外側で、異世界人を含めて数人程居る状態であれば、フォレストウルフは、人の群れの一番弱い者から襲う。


 なので当然フォレストウルフは流れの女性を一番最初に襲う……狙いは当然『美香』だ。


 理由は武装が何も無く、一番襲いやすい場所にいて、一番弱いからだ。



 そのフォレストウルフの群れが1番最初に狙う獲物は美香だったので、遠巻きからも近づく際に連携できる様にしていた様だ。



 美香が襲われそうになった時に一番近くにいた僕は、咄嗟に身を挺してフォレストウルフに組みついていた。


 運が良かった……首根っこに組みついたので噛まれずに済んだのだ。



 他のフォレストウルフが噛み付いて来なかったのは、弱い筈の僕がフォレストウルフの首に組み付いた事で、一瞬たじろいで連携が途切れたせいだろう。



 運良く首根っこに力一杯組みついたら、フォレストウルフの首が締まって苦し紛れに身体を捻ってたのが功をそうした。



 そのまま美香に襲い掛かっていたら他のウルフも美香に襲いかかり、結果的に僕は他のウルフに噛まれていただろうし、美香自体も無事では済まなかった。



 しかし、そうならなかった今の場合、こっちには『銀級冒険の紅蓮のエクシア』が居る。



 即座にエクシアが僕が組みついた状態にもかかわらず、フォレストウルフの頭を難無く落とす。



 周りを見ると、何匹かが周囲で襲う態勢を整えていて、ソレを見た美香が悲鳴をあげる。



 その悲鳴を聞いて脳筋ロズは『チャームを持って走り商団のキャンプに着いた事で、魔物の抑制効果が大幅に無くなった』事に気がつく……



 それも流れ4人を置いたままであり、エクシア一人で4人を守ってる事にも……



 ロズが急いでかけるが、フォレストウルフの襲う方が距離的に速いに決まっている。



 森の中をロズが流れる様に走る事で、チャーム効果がフォレストウルフを押し出す事ができるにしても……キャンプから皆までの距離が遠い。


 状況が改善しない中、僕はなぜか『先程から感じる違和感』を思い出していた……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 実は先程、フォレストウルフに美香が襲われそうになり首に組みついた際に、僕は森の中に手招きする『小さい女の子を見た』と、思ったのだ。


 よく目を凝らすと今も手招きしている女の子が居るのだが、方向は運良くフォレストウルフの群れの『丁度真ん中の空いた場所』で走り抜けられると感じた。



 そして何故か、あっちに行こうという気になり、次の瞬間無計画に走り出していた……



 僕が咄嗟に駆け出した事で、エクシアがびっくりして声をあげていた。



 森の更に奥へ僕は走り込むと、群れの3匹が僕に釣られて追っかけてくる。



 後々知ったが、群れは倒された1匹を含めて全部で5匹だったようで、僕を追いかけて襲おうとした1匹をエクシアが見事に仕留めたらしい。



 エクシアが追いかけようにもロズがいない今、流れの3人がいたらそう出来ないと判断して、仕方無くエクシアは、皆を一か所に集めてロズが来るまで待った様だ。



 その時僕は、3匹のフォレスト・ウルフに追いかけられながら必死に女の子が手招きをしている方へ走るが、幾ら走っても女の子は一定距離近づくと走って奥に進むので一向に近付けない。



 足が縺れつつも、大股で木の根っこを飛び越え走り抜ける。



 走り抜ける度に、木々の枝が目の前に来て邪魔だが、僕は構わず手で払い除けると勢いで押された枝は弓形になり、勢いをつけて戻り何度もフォレストウルフの身体を強かに打ちつけ、追走の邪魔をした。



 飛びかかろうと身構えると、押し出され弓形になった枝の反動でフォレストウルフは顔面を強打され『ギャイン』と声を上げて後ろに転がりながらも、また起き上がり追いかけてくる。



 大股で木の根を飛び越えた時に、払い除けた際に折れた太い枝が、落ちた時に木の根に挟まり固定槍になる。


 運悪くその場所へ突っ込むフォレストウルフの胴体からは、太い枝が生えていた。



 深々と突き刺さった枝は、まるで自然が作り出す木製の槍の様だった。



 なんとか起き上がったウルフだが、深々と刺さった自然の木の枝の槍が致命傷となったのか、追い掛ける3匹中の1匹がふらふらとした後に倒れる。



 しかしフォレストウルフの群れの一頭は、仲間がその状態でも餌にしか見えない僕を1頭は更に追いかけるが、もう一頭は野生の獣らしく倒れた仲間を貪っていた。



 枝がフォレスト・ウルフの追走を邪魔するような状況が何度か続き、致命打がないお陰で僕は走れていた………



 そうして僕が魔の森の奥へ逃げてる時、ロズがエクシアの元までたどり着き、エクシアとロズは2、3言葉を交わすだけで、すぐにリーダーとしてロズに指示を出す。



「ロズこの3人を頼む!」


「はい!キャンプは被害0です」



「わかった。あたしゃ必ずヒロを生きたまま連れ帰る!!」


 エクシアは颯爽とかけだし、森の中に消えて行った………

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