第4話「やっぱりここは異世界だ!ハーバリウムが魔物除けのチャームに大変身」


「ふぅぅぅう…生きた心地がしませんでした!もう無事と言う事で良いのですかな?」


 森から出てきたポッチャリした男はそう言うとエクシアを見て続け様に話す。


「エクシアさん!彼等は先程話してた商会の手の者なのですか?それとも盗賊の類なのですか?それにしても魔の森に入る事になるなんて!!万が一にも魔物が現れたかと思うと……今はもう入らなくても大丈夫ですよね?…ね?」



 興奮して、矢継ぎ早に質問をするポッチャリ男の口を塞ぐようにエクシアが説明する。



「マッコリーニさん大丈夫だよ。コイツ等は例の商会の者でも無いし、ましてや盗賊でも無いよ」


 エクシアと呼ばれた女性がそう言うと、僕の事を説明してくれる。


 親切な事に、全部でっち上げた内容だ。


「街と街の移動の合間に単に森に分け入って、薬草とかキノコの類を採取してたんだとさ。そんで出ようにも道が分からなくなって、彷徨った挙句に出てきたのが偶然ココだったって事らしい……魔の森を彷徨うってんだから、本当に馬鹿な奴らだよ!」



 そう言いながらエクシアは、僕にウインクして見せるので僕はそれに乗っからせて貰う。


「驚かせてすいません。実は珍しい草や花がないかと探してたんです。そしたら迷ってしまって……」


 僕はそう話すと、運良く関連したものをバイト先から貰ってきたのを思い出し、バックの中を漁ってハーバリウムを手に取って見せる。


「花や葉っぱを乾燥させて、こんな物を作るんです。なかなか手間がかかるのですけどね!」



 これはたまたまバイト先で廃棄予定の箱の中にあった物だ。


 どうせ捨てるなら貰って良いか責任者に聞いたら『好きなだけ何個でも持っていけば?』と言われたので、花材を含め妹にあげようと全種類貰ってきた物だった。


 僕はこれを大量にリュックにしまっていた。


 そして、今見せたものは廃棄箱にたまたま完成品見本が混じっていたので、それを元に休憩時間に幾つか作った物だ。


 元はと言えば、妹が喜びそうだったので貰ってきたものだが、異世界で意外と役に立った。


 因みにバイト先は様々な企業から荷物を請け負う倉庫だったのだが、僕が担当になった倉庫は物の出入りがとても激しくその分廃棄物も多く出ていた。


 倉庫を利用する企業側は『資源を無駄にしない運動の為』と言い、廃棄予定品の管理は全て倉庫に一任していた。


 裏を返せば実は廃棄料を安くする為だったのだが、届を出せば色々貰える為に働く僕等にとっては有り難かった。


 それに、企業の思惑などもどうでも良かったし……


 ちょくちょく廃棄する物を貰えたので役得だと思っていたが、その分他の倉庫担当よりも荷物を入れ替える割合が高く仲間内ではハズレの倉庫だった。


 倉庫で楽をしてたい友人や、先輩達には全く響かなかったらしい…。


 僕はそれを思い出しハーバリウムを相手に見せたが、驚いた事にハーバリウムの横に半透明の文字列が浮かんでいた…


 よくゲームで見かけるその状況が、なお一層ここが異世界だと告げていた。


 僕は突然浮いて出た文字を目で追うとこう書かれていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「魔物除けのチャーム」(異世界産品名 ハーバリウム)


      錬金/マジックアイテム 中級


    中級種までの魔物を遠ざける効果がある。

      ・次元収納袋の中からは効果無し

      ・収納時は効果無し


       継続効果 破損するまで


        効果範囲「50歩」


         錬金製作可能


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 マッコリーニと言う人はそれを見ると走り寄って来て、物珍しそうに……



「ちょ!ちょっと見せて頂いて良いですか。ハンス!すぐに鑑定の巻物を!」


 そう言うと、半ば強引に奪い取るように持っていく。


 ゲームの世界でお馴染みの鑑定の巻物を、従者に持ってこさせるようだ。



「これは!とんでもない物をお持ちですね。こんなのが作れれば、魔の森でも入っていけるわけですね……因みにこれは売り物ですか?これ程良い物であれば金貨1枚……いや継続効果でしたね!金貨3枚!お支払させて戴きます」



 アタフタしている僕に、エクシアは苦笑いしながらマッコリーニへ話しかける。



「おいおいマッコリーニさん。幾ら何でも今まで敵だと思ってた奴に商売持ちかけるなんて、腐っても商人なんだな?で……一体なんなんだそれは?良いものなのかい?」



 マッコリーニは興奮した様子でエクシアに話し出す。



「エクシアさん!私は性根どころか何処も腐って無い真っ当な商人です。良い物を仕入れて売るのは商人の本分ですから!それにですよ!これは良いも良い、格別な良品です!未だ嘗て見た事も、取り扱った事もない素晴らしい物です」



 鑑定スクロールは僕が見た物とほぼ同じ結果を出している……僕はその言葉で色々と考え込んでしまうが、マッコリーニは僕の事など気にせずに話をエクシアに続ける。



「中級種の魔物除けで、香や固定結界では無いのですよ!50歩もの距離に魔物を寄せないんです!一部解読できない文字があるのですが『錬金・マジックアイテム・中級』と書いてある以上、多分マジックアイテムの類ですな」



 と分析してエクシアに説明している。


 聞き手のエクシアは初めこそ適当だったが、効能を聴いたら身を乗り出して真面目に聴き始めた。


「ここのカッコで括られた(異世界産〜ハーバリウム)文字は私の知る文字では無いので、なんて書いてあるのか解りませんが……この読めない文字部分は推察するに『錬金文字か古代魔術文字』でしょう。魔法文字の方は何度か見たことがあるので、もしかすると錬金文字でしょうかね」



 そう言って、マッコリーニはチラチラ僕を見ながら鑑定の巻物に書かれた内容を皆に見せる。



「本当に!なんて書いてあるのでしょうか………気になりますね」



 説明が終わってもマッコリーニはとても鼻息を荒くしながらハーバリウムを色々な方向から眺めている。


 先ほどエクシアが話していた『流れ』の件は、マッコリーニに聴こえてなかったらしい。


 ちなみに異世界の品である事は、先ほどの『鑑定の巻物』では言葉の関係で現地の人には判らないようだ。


 僕が読む限りは全部読めるのだが、現地の人には『異世界産品名ハーバリウム』のカッコで括られた中の文字は何故か読めない様だ……もしかすると、括弧も一連の文字と思っているかもしれない。


 話を聴いてなければカッコの言葉がなんて書いてあるか説明していただろうから、現地人が読めない文字を『うっかり』話さないように気をつけねばならないと思った。



「なんだって!そんな物があればこの魔の森通り放題じゃないか!あたいの護衛と運搬業の拡張に大助かりだよ!ちょっとあたいにも見せとくれ!」


 そう言ってマッコリーニが持っていた、ハーバリウムと鑑定の巻物を受け取ると穴が開くかと思えるくらい鑑定結果にマジマジ見入っている。



「エクシアの姉さん!使用制限くらいあるんだろう?回数とか!」



「姉さん!どうなんすか?それが制限無しなら俺たちが買いたい位ですよ!」



 話を聞いた2人のマッチョが、目を血走らせ駆け寄って来ていた。


 それを聞かれたエクシアは……



「いや…見る限りデメリットは無いね。使用制限や回数は無いし唯一あるのは効果距離だけだね。一部読めないもんが書いてあるけど、わかる限りだと金貨出す価値はあるね……寧ろ買取が安すぎないか?マッコリーニさん?」



 そう言って、マッコリーニに買取価格について疑問を示すが、僕にとってはその『金貨3枚』の金額がわからない……比べ用もない。


 一緒に来た仲間を見るが、首を傾げているので同じように思っているだろう……


 買取価格にケチを付けたいわけではないエクシアは、更に自分なりの分析結果を仲間の2人に説明する。


「それも50歩って距離は異常だよ。普通は遠く迄届く香の類だと匂いの届く範囲だし、固定結界だったら香より狭い上に動かせないし。なんて言っても両方とも『使い切り』だしね……なんて物持ってんだい!」


 それを聞いた僕は、1歩がどのくらいの距離か気になった。


 以前、歴史だかの授業で面積を測る計測表記で見かけたことがある。


 うろ覚えだが1歩は6尺で1.8Mだったはず……


 それに照らし合わせると『100歩で180m』で、このアイテム『その半分』の距離に魔物を寄せ付けなくなると言うことになる。



 直径にして90mだ。その空間に魔物が寄ってこない事になるが距離感が分からない。


 エクシアが2人に説明してる間に、マッコリーニの質問責めに合う。



「これは良い物だと分かりますし、手放すのは難しいのもわかります。ですが万が一新しく売る物が出来た場合は、誰かを通す前に我々マッコリーニ商会を通していただけませんかね?価格は!応相談で!!」


 そんな話をしていると、マッコリーニの後ろで気分を悪そうにしていた女の子がドサっと倒れ……お付きの者たちが騒然とする……一難去ってまた一難だ。

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