第3話「威圧する悪漢と赤髪の女性」
僕等があの女性の言葉を聞いた直後、物凄い不快感に襲われ酷い目眩がする。
魔法陣が数回瞬き突然目の前が真っ暗になると、次に目に飛び込んで来たのは廃墟の様な壁では無く、辺り一面鬱蒼と茂る樹木だった。
「全員無事着いたようだし、あのサラリーマンが来る前に取り敢えずここから離れよう。あの女性には悪いが彼女が次に来るかもわからないし……」
冷たい言い方だけど、突き落とされた経験のある僕は皆にそう言った。
「あの言い方からして、この異世界で協力出来そうな人でも無さそうだし」
異世界に着いた僕が最初にした事は、その場から即座に離れる事だった。
あのサラリーマンは、ホームから僕を突き落とした事を反省さえしてなかった…
例えそれが不可抗力であっても、反省さえしていない人間と安全とは言えないこの異世界で、一緒にやっていく事は危険でしかない。
彼女には悪いが、一緒に来る事を選ばなかった彼女を待つ事で、それ以上の危険は増やせない。
命の保証さえ無いに等しい異世界の地で、人殺しと一緒に冒険なんてとても出来たもんじゃ無い。
その上、二人共最後に言ったのは先に移動する僕達への嫌味と自分勝手な言い分だった。
寧ろその時点で、彼等を待ってる理由は何もない。
あの場所を管理する女性は僕らに配慮してくれたのか、今いる場所からすぐの場所に未舗装の道の様なものが見えた。
僕たちは森から出て、未舗装の幅の広い道を行くあてもなく歩く。
砂利や泥で轍が出来ているので、馬車が走っているのは間違い無い筈だ。
人が少なからず舗装したと思われる簡易的な道だけに、何方に向かってもいつかは街か村には着くだろう。
取り敢えず暫くは、人の居そうな方に歩いてみるだけだ。
皆は、余りにも受け入れるのは難しい事ばかりで誰も話す気にならない。
なので僕は、さっきの夢の様な出来事を思い出しながら、考え事をする。
自己紹介位はやはり今のうちに……と考えながらも暫く歩くと未舗装の道の脇に馬車が、道の半分を塞ぐ様に止まっていた。
「馬車がありますよ!誰かいるかも知れませんし、困っていたら手助けれすればこの先まで同行させてもらえるかも知れません……ちょっと話を聞きに行きませんか?」
そう言って、無用心に馬車に近付こうとする看護師の女性の前に出て急いで僕は静止する。
「ちょっと待ってください!あからさまに怪しいです……!そもそも馬車が道の半分を塞いでいるのに、馬車に乗っていた人が外に誰も居ないのが変です。これは罠としか思えないです」
待ち伏せとして、あからさまに盗賊が使う手段である。
此方とすれば、身を守る武器も何も無い状態で盗賊などに出くわせば不味い。
そもそも僕ら4人は、まだお互いの名前さえ知らないのだ。
あのサラリーマンと居るのが危険だと判断して、取り敢えず一緒に移動しようとしているだけだ。
だから、これ以上危険な事に首を突っ込む訳にはいかない。
「取り敢えず、距離を取りながら話しかけるとかして、いつでも反対方向へ逃げる準備だけはしておきましょう!」
僕がそう言うと、一緒に来た男性が同意を示す
「そうだな!少年の言う通りだ。平和な世界で育った僕たちは、まだこの世界の危険を知らない……僕たちは絶対的に注意が足らない。いくら注意しても足らないくらいだ」
良かれと思い自分のやった事を咎められたと思ったのだろうか、看護師の女性がシュンとしながら、
「すいません……注意が足りませんでした。先程のは、心の何処かで異世界などではなくドッキリか何かだと思ってしまっていたので……」
彼女は、この本物の異世界を見て興奮していた様だ、
此方の世界は元の世界と違って安全では無い、それに映画に出て来そうな馬車など、リアルで見るのは初めてだった様で、舞い上がってしまった様だ。
一緒に来た優男さんが、女性をフォローするようにあのサラリーマンの事を話す。
「ここは安全に事を運ぼう!ただでさえ速くこの場を離れないと、あの危険思考のサラリーマンと鉢合わせする」
きっと元の世界にも、危険な奴が居ると思い出させたいのだろう。
「無理にこっちの道を行く必要はないから、反対側の道は安全かもしれない。馬車を確認して、状況次第では向こうに行こう!」
それに女の子も同意をして皆の意見が固まりかけたその時、後ろから突然声をかけられた…
「おっと!そうはいかない!」
「そうだぞ!此処から逃す訳にはいかない!」
鬱蒼と草木が茂る森の中から勢い良く男が飛び出して来て、目の前に辿り着く時には剣と斧で逃げ道を防ぐ様にする。
一人の男は、大刄の斧と盾を扱うスキンヘッドにガチムチの筋肉質の大柄の男で、もう一人は身長こそスキンヘッドより小さいが、全体的に同じような筋肉質で両手に半月状の武器を持って立っていた。
男たちの背後には距離があるため詳しい事は見て取れないが、一人は弓を構えて既にロックオンして逃がす気は毛頭ない様だ。
同じ位置にいるもう一人は、先端が明滅する棒状の武器を前に掲げている。
見てくれも言葉遣いも盗賊か山賊か……それらの類でしかなかった。
「それでお前たち、こんな所で一体何をしているんだ?」
「俺達に詳しく聴かせて貰おうか?」
スキンヘッドの男が先に話すと、続けて二刀流の男も話し出す。
異世界に来て早々、厄介ごとに巻き込まれたらしい。
それも特大級で絶体絶命だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「僕らはこっちの異世界に来て間もない者で、取り敢えず安全そうな場所が何処にあるのか捜そうとしていた所です」
僕は嘘を言ってもこの世界を知らない僕等はすぐバレると思い、本当の事を話しなんとか切り抜けようと皆が話すより先に話し始める。
五体満足に生き残る為に今は下手な小細工をするより、異世界から来たと言う事で少しでも隙を作るつもりだ。
何としても交渉のチャンスを捥ぎ取らないと、この先に繋がらないと思い話したのだが……
「はははは…異世界から来たって?じゃあ俺はお前の世界の神様だ!」
「全く…嘘を言うならもっとまともな事を言うんだな!」
二人はそう言うが……剣と魔法がある世界なのに、異世界の存在を知らないのだろうか?
悪漢風の二人はまともに取り合う様子はない。
年上の二人は何故か僕の後ろに隠れて話をしようともしない。
そして女の子は看護師に抱き抱えれる形で守られてる。
仮に後ろの3人に相談するにも、あの盗賊のような二人に筒抜けだ……万事休す。
全員死ぬぐらいだったらいっその事、僕が捕まっている間に最悪後ろの3人だけでも森へ逃す手段などはないか?と状況の打開を悩んでいた時だった。
「馬鹿はお前達だよ!そんなんだから銅級冒険者のままだし、他の奴らに脳みそが筋肉でできてるんじゃないかって馬鹿にされるんだ!」
そう言って紅い髪の毛の女性が、反対側の森からそう言いながら出てくる。
「そいつ等のナリを良く見な。そんな服は帝都では売ってないし、素材だって貴族のやつが持ってる物とは比べ物にならないよ!貴族にふっかければ金貨一枚、下手すれば金貨二枚位は行くかもしれない」
そう言った赤髪の女性は、僕たちの姿を見て既に何かを感じ取った様だ。
「そもそもこの魔物がうようよいる森の側で丸腰じゃないか?魔物だけじゃなく人間の盗賊だって山程居る場所だよ?仮に貴族の木偶の坊として、なんでその馬鹿貴族が護衛無しで出歩くんだい?」
彼女は僕たちの持ち物を価値のある物として金額換算するが、最後に言った言葉がヤバかった。
この森には『魔物』や『盗賊団』が居るようだ……それなのに僕達は呑気に歩いていた。
「その服装に見るからに怪しいその持ち物……今さっき異世界から来たって言ってたね。って事は本物の流れかい。実物を見るのは帝都で遠目に見たあの化け物冒険者以来だね」
そんな事を言いながらこっちの方に歩いてくるので、僕はついつい聞き返す。
「流れと言うのですか?それに異世界から来ている異世界の人は僕ら以外にもいるんですか?」
それを聞いた赤髪の女性は『フン!』と言いながらこう答える。
「だから言ってるだろう?注意力が足らないんだよ!そんなんじゃすぐに死ぬか、騙されて奴隷落ちして人生棒にふるよ!まったく!相手する脳の足らない馬鹿はあいつらだけで充分だよ!」
そう言うと、女性は自分の連れの2人の男に目を移すが……僕は『しまった!』と思ったが何もかもが既に遅い。
先程、一緒に来た女性に『注意すべきだ』と言ってた張本人が、一番取り返しのつかないミスをしていた。
「あたい達は、今あんたが思ってるような人間じゃ無いよ。それに普通は、自己紹介は自分からするもんなんだけどね。まぁ良いさ………」
そう言うと、彼女は不用意に距離を縮めて僕たちに、
「あたいは『紅蓮のエクシア』って呼ばれててね、これでもこの先の街で冒険者ギルドを運営してるもんさ」
そう言って、エクシアは仲間に武器を下ろすよな身振りをする。
彼女の説明では『ギルド・ファイアフォックス』のギルドマスターで、名前は『紅蓮のエクシア』と言い、街ではそこそこ有名らしい。
個人階級は『銀級2位』でギルド等級は『銀3級』らしい。
しかし、僕たちを異世界人とすぐに理解したエクシアは、笑いながら話す。
「って言ってもわっかんねーか……ギルドの仕組みも流れにゃ。って事で、今あんたが考えてる盗賊や山賊の類じゃ無いよ」
そう言い、馬車よりの森に向かって手をあげる……すると、ポッチャリ男を先頭に数人がゾロゾロ出てくる。
彼等は、僕らの事が相当怖かったのか顔色が相当悪い。
最後の方に出てきた女の子に至っては、顔色だけでなく足元までもがフラフラしていた……
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