第5話「日暮れの森で今更の自己紹介に大爆笑のエクシア」
「レイカ様!レイカお嬢様!大丈夫ですか!どうなさったのですか!しっかりして下さい!」
周りに居たお付きの人が一斉に駆け寄るが、レイカと呼ばれた娘から返事がない。
騒ぎを聞いて、振り返ったマッコリーニは女の子の名前を呼びながら駆け出している。
「レイカ!大丈夫か!!あああーー!だからあれほど言ったのだ……この旅は今の身体では無理だと!」
マッコリーニの慌て振りが尋常ではない……様子から察して娘なのだろう。
「すいません。ちょっと見せて下さい」
そう言って看護師の女性が駆け寄り脈をとったり、様子を調べている。
「どうやら熱中症ですね、凄い汗をかいてますので体温調節ができていないようです」
「あの馬車は使えますか?この状態で歩かせる事はできませんので、移動して少しでも涼しい所で休ませないと……せめて日陰へ、あと水はありますか?」
ガチムチ2人組が2人がかりで、そっと馬車まで運ぶと荷台に載せて横にさせる。
しかし馬車は簡素な造りで、幌がある馬車では無いので日差しが直接荷台に降り注ぐ。
優男はマッコリーニの積荷にあった槍4本を借り、荷台にあった冒険者達の寝袋を借りて即席の日傘を作り、槍のそれぞれをお付きに持たせてレイカが日陰の入れるようにした。
この優男は今まであまりにも話さないので完全に空気だった。
この機転は僕達は勿論、冒険者でさえもビックリである。
「いや、以前似たような事で日陰が必要になった事があったからさ、日除とか雨除けの作り方を知ってただけで。まぁ、咄嗟だったんだよ!」
皆に感心されてただけあってだいぶ照れ臭そうだ。
その後は、馬車を日陰になりそうな所まで移動させることになった。
横向きにしてあった馬車で隠れていたが、他にも2台程荷馬車が森の脇に置いてあり、馬は森の中のすごく浅い場所に繋いであった。
少しいくと日陰になりそうな岩場があり、ひとまずはレイカをそこで休ませる事になった。
しかし此処から町まではまだ結構あるらしく、この先は開けていて日差しも遮る場所が少ないらしい。
強い日差しの中、あまり移動させるとレイカさんも危険でもある。
移動して開けた場所で野宿も、今の状態では危険なので今日はここで移動をやめる様だ。
熱中症対策の為、水袋からレイカの身体に水をかけている看護師のもとへ行く。
「良ければコレをレイカさんに飲ませてあげて下さい。冷えてはいませんが、スポーツドリンクなので熱中症に少しは良いはずです」
そう言って鞄に入ってた、未開封のスポーツドリンクを心配そうに見守っているマッコリーニに手渡した。
実はコレも倉庫の廃棄品で、賞味期限は切れてないが予定より多くの在庫がダブついてしまい廃棄予定だった。
倉庫内は汗を沢山かくため社員のウケも良く皆飲んでいて、空になったボトルだけ『廃棄の為』返す事にしていた。
僕は翌日の学校に行く時の為に、毎日3本持って帰っては翌日水筒に入れ替えて学校に持っていく。
飲み物代の小遣いをケチる生活だ。
マッコリーニは不思議そうにそのペットボトルを見て、
「失礼ですが…コレはどうやって開けるのでしょうか?スポーツドリンクと言われましたが……錬金文字が沢山書いてあると言うことは、錬金術師に伝わる薬効の高いポーションの様なものなのでしょうか?」
などと言い始める……この状況で観察眼が鋭い。
「その割には量が多いですね?どの位飲ませれば良いのでしょう?」
その話を聞いたエクシアは、早速頭を抱えている。
慣れと言うのは本当に怖い。
「と……とりあえず、マッコリーニさん飲ませましょう!折角なのでね。んで、これはどう開けるんだい?」
エクシアが絶妙にフォローを入れてくれたので、キャップを捻って開けて見せる。
それを見ていたマッコリーニ商団員が『オオ!』と声を上げる。
レイカと呼ばれた女の子は、コクコクと一口含みスポーツドリンクを飲むと、びっくりした様に目を開けてスポーツドリンクを見ているので、更に飲む様に促す看護師にレイカがか細い声で、
「良いのですか?貴重な品ではないのですか?」
と心配そうにしているので、僕はバッグの中にまだ2本の未開封と自分の飲みかけのボトルが有る事を伝える。
未開封3本もあれば1.5リットルにもなるので、地味に重くて大変だった。
それに心配しなくても此処には冷蔵庫も無いので、結局は日持ちもしないと考えていた。
熱中症は本当に危険なので、少しでも役に立つのであれば飲んでくれて構わなかった。
普通の水を飲むよりは、この方が遥かに役に立つ。
「とりあえずそれは持っていて良いですよ、全部飲んでしまって構わないので。熱中症は本当に危険なので!それに飲み物は未開封でもいつかは痛んでしまうので、気にしないで大丈夫です」
気にしているレイカにそう伝える……しかし冷えていないスポーツドリンクはすごい美味しいわけではない。
「本当はもっと冷えてると美味しいんですが、常温ですいません」
と僕が謝ると、それを聞いた聞いた御付きの人が
「レイカ様ちょっと失礼いたします」
と預かると『アイス』と唱える。
するとペットボトルの表面が少し凍り、中が丁度良い冷たさになっている様だ。
程よく冷えたそれをレイカは受け取ると、一口飲んで『ふえぇぇぇぇ』と喜び更にコクコクと飲む姿が可愛らしかった。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
日も暮れ始め、冒険者も商団も僅かばかり忙しくなる。
必要なのは野営の準備に夕食の準備だった様で、現地では獲れる食材やら夜営や料理の薪を集めたり、周囲の安全を確認する必要もある様だった。
しかし今回は、僕が持っているハーバリウムが何故か魔物を阻む効果があるらしいので、周囲の罠は上級モンスター対策に済ます様だ。
折角なので僕等は、その方法を見学させてもらうことにした。
エクシアが色々と質問を兼ねて同行させてくれるらしい。
因みにスキンヘッドさんも一緒だ。
「アイツらにあんた達の事は、あたしが口止めしとくから安心しな。」
エクシアがそう言うと、スキンヘッドの男も乗っかってくる。
「ああ!姐御の言う事は絶対だからな!お前らの事は口が裂けても言わないぜ!」
「ロズ?あんた相変わらず調子いいな……さっきまであれだけ威圧してたのに……」
「エク姉さん!森から女連れで出てくれば、大概は人攫いだと思っても仕方ないっすよ!まさか本物の『流れ』な上に、途絶えて久しい錬金術を使えるとはおもわねぇっすよ!」
エクシアとロズと呼ばれたスキンヘッドの男は、コントの様に小気味良く話をする。
「自己紹介が遅くなってすいません!冒険者の端くれで、銅3級で名前はロズっす。アニキ!今後とも、よろしくおねげーします!」
ロズの自己紹介を皮切りに僕らも始める……今の今までお互いの素性さえ知らない程に慌ただしかったからだ。
「初めまして!僕は『野口 洋』と言います。向こうでは学生でした。よろしくお願いします」
「あ!あ……私は『石川 美香』と言います。同じく向こうでは学生でした。よろしくお願いします」
「此方こそ遅くなってすいません。俺は『黒鉄 そうま』と言います。向こうでは消防士やってました。よろしくお願いします」
「本当に色々ありすぎて、自己紹介もまだでしたね『伊澤 結菜』と言います。看護師やってました。よろしくお願いします」
一通り自己紹介を終えるとエクシアは笑い出す。
「なんだい!あんた達……お互い名前も知らなかったのかい!呆れたわ……本当によくあれだけ大立ち回りしたもんだ!異世界の人間は皆肝が座ってるみたいだね!」
魔の森の中なのに、エクシアは僕達の自己紹介を見て大爆笑だった。
第一声で、自分たちの身の上について秘密にしてくれると言ってくれるエクシアは、本当に面倒見の良い姐御なのだろう。
会話の口調からも、そう感じ取れる。
今まで自己紹介をする機会もないぐらい大変な1日だったので、皆揃って自己紹介が気恥ずかしい感じになっていた。
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