婚姻届の押印欄

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。一昨年から今年にかけて、各種書類の押印欄が次々と廃止されています」

「いい流れだよな。今まで、せっかく市役所へ出向いたのに、ハンコがなくて手続できないことがあったから」

「変な話ですよね。本人がその場にいることが何よりの証明なのに、誰でも買えるハンコの方が大事なのでしょうか?」

「そうそう、100円ショップでも買えるのに」

「ちなみに議論が続いていた婚姻届と離婚届も、今年の9月1日から押印不要になりましたぞ」

「へえー、ついに」

「新様式を確認したところ、押印欄は残っているものの、押印は任意という注意書きが追加されておりました」

「押したきゃ押してもいい、ってことか」

「何しろ一生の記念ですからね。離婚しなければ」

「しかし押印不要だと、不正な届出が心配じゃないか?」

「そう感じる方は、不受理申出をなさると良いでしょう」

「不受理申出?」

「『自分が出頭しない限り届出を受理しないでください』という申請です。離婚届については以前紹介しましたが、婚姻届についても申請できるので、知らないうちに結婚させられていたという事態を防げます」

「離婚はともかく、結婚でその制度を使う奴っているのか?」

「あるとすれば、望まない政略結婚を防ぐとか? 実際、聞いたことはありませんけど」

「俺はむしろ、知らないうちに結婚したいけどな」

「それでは、勝手に提出するよう乙姫に伝えておきますね」

「やめろ」

「不受理申出はこの他に、縁組や認知でも申請できます。まあ圧倒的に需要があるのは、やはり離婚なのですが」

「トラブルになりやすい問題だからな……」

「ともかく、印鑑メーカーには申し訳ないですが、昨今の押印廃止は良い流れだと思います。次は婚姻届のオンライン化に期待したいですね」

「1ポチで結婚できる時代」

「Amazonのように手軽。以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

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