2021年12月の講義

玉手箱の理由

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。浦島太郎は有名なお伽話ですが、亀を救った主人公が呪われて死ぬのは、勧善懲悪的におかしいのでは? そこで今回は、乙姫が玉手箱を渡した理由について考えてみます」

「どうせ俺が嫌いなんだろ? ふん」

「それならそれで、嫌われる理由があるはずです。仮説1、長い間居座られて迷惑だった説」

「まあ確かに、かなり長い間いたけど」

「ほら見なさい。乙姫側は、昼ご飯1回おごるくらいの予定だったのに、浦島殿はすっかりくつろいで何年も竜宮城に居座ったのです。ぶぶ漬け出されませんでした?」

「毎日出されたよ」

「やっぱり」

「しかしそれなら、帰れって言えばいいじゃないか」

「亀の恩人にそんな失礼なことは言えません」

「玉手箱を渡す方が失礼では」

「仮説2、タイやヒラメに嫉妬した説」

「なんだそりゃ」

「ひどいわ! 私が横にいるのにヒラメばっかり見て!」

「いやだって、ヒラメを踊らせたのは乙姫だろ」

「そこはほら、複雑な女心ですよ。たまにいるじゃないですか。わざと彼氏と可愛い女の子を会わせて、反応を見る感じ? この子より私を選んでくれるよね? みたいな?」

「つまり俺は、ヒラメそっちのけで、ひたすら乙姫を口説くべきだったのか」

「そういうことです」

「でも、せっかく用意してくれた出し物を見ないのも失礼だよな」

「仮説3、お土産箱と玉手箱をうっかり間違えた説」

「その説だと、俺は乙姫のうっかりミスで死んだのか」

「ですが、性格はともかく、あれだけ美人の乙姫がドジっ娘だったらギャップ萌えでしょう? 性格はともかく」

「2回言ったな」

「でも実際、小さなドジってかわいいですよね」

「開けたら老化して死ぬ玉手箱を渡すのは小さなドジじゃないだろ。訴訟レベルの過失だろ」

「ともかく、わたくしの見立てでは、仮説1~3のどれかだと思います。以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

「どの理由でも救われないな……」

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