丑の刻参り

「どうも、浦島太郎です」

「わたくしは講師の亀でございます。恋愛は楽しいものですが、残念ながら、すべてが実るとは限りません。そこで今回は、手酷く失恋してしまった時に備えて、丑の刻参りの練習をしたいと思います」

「もはや突っ込むのが面倒くさい」

「まず、時刻は丑の刻です。だいたい深夜1時から3時頃ですが、2時がピークタイムでございますな。この時間に確実に釘を打てるよう、当日は余裕をもって出掛けましょう。遅刻は厳禁ですぞ?」

「わかりました(棒読み)」

「場所は神社の御神木の前です。持ち物は五寸釘と藁人形。できれば市販品で済ませたりせず、相手の顔を思い浮かべながら、気持ちを込めて自作するのがよろしいでしょう。そうです、手作りこそ正義です」

「そもそも市販品ってあるんだろうか」

「藁人形の中には相手の髪を入れましょう。もし同居しているのであれば、髪を入手するのは簡単です。風呂場の排水溝に詰まっているはずですからな。そして衣装ですが、鉄輪を逆にかぶって、ロウソクを3本立てます。くれぐれも火傷に注意してくだされよ? この行為を、誰にも見られないように7日間続けましょう」

「もし見られた場合はどうなるんだ?」

「ドン引きされて友達を失います」

「そりゃそうだ」

「あと、人に見られると、呪いの効力が消えてしまいます。というわけで、満願はかなり難しいですが、だからこそ挑む価値があるとも言えるでしょう。そこに山があるから登る。そこに藁人形があるから釘を刺す。人とはそういうものでございます」

「あのさ、そろそろ真面目に指摘していいか?」

「はい」

「これ、明らかに恋愛講座でやる内容じゃないだろ! そもそも失恋したからって人を呪うのは良くないし、仮に振られても、相手の幸せを願うのが道理じゃないか?」

「その通り! 実は、浦島殿からその言葉を聞きたくて、わたくし今回の講座を用意しました!」

「俺は試されていたのか(汗)」

「はい、今回は満点を差し上げます。丑の刻参りをするようなパワーがあるなら、その労力を、次の恋愛に向けた方がよろしいでしょうな。以上、亀と浦島の恋愛講座でした」

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