第47話:反刺客

 今回の襲撃は、ウェストウッド男爵家のローガンとハリーが、極悪尻軽悪臭王女のオリビアに命じられてやった事だった。

 最初から予想していた通りなので全く驚きはない。

 だが後ろで聞いていたエラは烈火の如く怒っている。

 俺に向けられた怒りではないのだが、それでも肌がぴりつくくらい怖い。


「さて、今回の件は大陸連合魔術学院理事長として正式にカンリフ王国に抗議させてもらうが、問題はお前達の処分だ」


「殺してしまいましょう、ノアお兄様。

 ノアお兄様の刃を向けるようなモノは拷問にかけて殺すべきですわ」


 エラが眉一つ動かさずに恐ろしい事を言う。

 普段は慈愛に満ちていて、小鳥や小動物、不幸な事情を抱えた人に優しいエラが、拷問しろと口にするほど怒ってる。


「「ヒィヒイヒヒ」」

「お許しください、エラ様」

「しかたなかったのございます」

「私はやりたくなかったんですが、オリビア殿下の命令で仕方なかったのです」

「そうです、私もローガンもオリビア殿下の命令で仕方なくやったのです」


 見苦しい連中だ。

 最下級とはいえ貴族なのに、王家を売って自分達だけ助かろうとする。

 そもそも金と権力を女色に眼がくらんで俺を殺そうとしたんだろうが。

 今さら何を言っても無駄なのだよ。


「貴族にあるまじき見苦しい振舞いです。

 これ以上は見るのも聞くのも穢れになってしまいます。

 サイモン、ダニエル。

 傭兵団なら自白させるための拷問を心得ているでしょ。

 ノアお兄様を狙った報いです、徹底的に拷問してください」


「「はい」」


 二人はそう返事をしながらもちらりと俺の方を見る。

 彼らはエラの命令よりも俺の命令を優先する。

 まあ、金を払っている雇い主は俺だから当然と言えば当然だな。

 だが当然のことでも、二人ほどの強者に主として認められているようでうれしい。

 

「ローガンとハリーは手先も含めて大切な証人だ。

 殺すわけにはいかないが、逃げようとしたらめんどうだ。

 なにより裁判の場で偽証されては困る。

 絶対に嘘偽りを口にしないように、きちっと体に叩き込んでおいてくれ」


 大切なエラに拷問をさせたという悪評をつけるわけにはいかない。

 偽証させないために俺が拷問させたことにしておかないといけない。

 拷問する事の正統性もアピールしておく必要がある。

 まあ極悪尻軽悪臭王女は、自分は関係ないのに俺が王女に冤罪を着せるために、ローガンとハリーを拷問して偽証させたというだろう。


 ふむ、どうせやらせたやらせていないでもめるのなら、もう殺してしまうか。

 いいかげん実害がなくても面倒になってきた。

 殺すにしても、極悪尻軽悪臭王女に相応しい死に方は何だろう。

 俺を殺せと命じた元愛人に殺されるのが一番相応しい死だろうか。

 成功するかしないかは分からないが、怖い思いくらいはさせておこう。

 あ、今度は少し歯ごたえのある刺客が来たようだ。

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