第45話:収穫と襲撃

 目の前の麦が驚くほどすくすくと成長している。

 しかも以前強引に促成栽培させた時の二十分の一の魔力ですんでいる。

 新たに覚えた術式を複合利用する事で劇的な魔力節約になることが分かった。

 これなら何度やって魔力器官に蓄えた魔力を使わなくてもいい。

 今までは命の危険を感じたことは一度もなかったが、これからもないとは言い切れないから、蓄えた魔力はできるだけ使わないようにしたいのだ。


「凄いですわ、ノアお兄様。

 畑一面が黄金色に光り輝いておりますわ」


 エラがたわわに実る小麦畑の美しさに見とれてうっとりとしている。

 畑仕事などした事にないエラには分からないだろうが、問題は美しさではない。

 問題なのは実っている小麦の大きさと数だ。

 通常の小麦の実よりも大粒で数も3倍はある。

 単純に今までの4倍の収穫量を1日で手に入れたのだ。


「本当は何度か同じ実験をやりたいところだけど、学院で行われる実験を見学したいから、後は城壁を造って学院に戻ろう」


 この畑は辺縁部とはいえ魔境の中に作っている。

 このまま放置していると必ず魔獣や魔蟲に荒らされてしまう。

 肥料にするから魔獣や魔蟲が集まる事は悪いことではない。

 だが魔境の外にある家臣用の砦が襲われるのはいやだから、それなりの城壁を作って防御しておく必要があるのだ。


「分かっておりますわ、ノアお兄様。

 ノアお兄様が家臣達を見殺しにされるはずありませんもの。

 きっと竜であろうと入れないような立派な城壁を造られると思っておりました」


 いや、そこまで頑丈な城壁を造る気はなかったのだが、エラがそう言うのなら仕方がない、砦を竜の襲撃に耐えられるように強化するだけではなく、城壁自体を竜の攻撃に耐えられるくらいに強くしよう。


「はっはっはっは、当然だよ、任せておきなさい。

 相手が火竜であろうと破壊できない強力な城壁を造って見せるよ」


 さて、だが問題は空からの攻撃をどうするかだ。

 城壁自体は圧縮強化岩盤を使えば簡単に強固なモノを創り出すことができる。

 だが畑である以上、日差しを遮るような天井を創るわけにはいかない。

 常時防御魔術を展開していてはいくら魔力があっても足らなくなる。

 空からの攻撃は砦に籠る事で対処してもらおう。


「すごい、すごい、凄いですわノアお兄様。

 私の知るどの国の城壁よりも厚く高いですわ。

 これなら本当に火竜のブレスも跳ね返してくれますわ」


 エラが喜色満面で褒め称えてくれる。

 だが護衛の戦闘侍女や女傭兵は眼をむき口を開けて呆然としている。

 まあ、それも仕方がない事だろう。

 誰も何もしていないのに目の前で城壁が造られているのだ。

 いや、城壁だけでなく深く広い空堀まで造られているのだ。

 これでは噂を広めたくなくても広まってしまうだろうな。

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