第44話:農地開拓

 朝から晩まで学院内の実験を見学して十日経った。

 まだ幾つかの実験は続けられているが、俺が素材提供料を絞ったので数が減った。

 理由は俺が術式を盗み取った魔術を試す時間が必要だったからだ。

 俺は慈善事業で素材を提供したわけではなく、自分の役に立てる魔術を会得するために貴重で高価な素材を提供したのだ。


 まだま盗みたい魔術はあるが、今まで覚えた魔術だけで当初の目的は達成できる。

 魔境の一部を農地化して穀物の促成栽培実験を行うには十分なのだ。

 促成栽培を実際に行うにはそれなりの時間が必要になる。

 その間は学院で行われる実験を見学できない。

 俺が見学できない実験に素材を提供する気はないので、実験数が減っている。


「この実験が成功すればノアお兄様の功績は大陸中に広まりますわね」


 エラが手放しで褒め称えてくれる。

 俺が失敗するとは全く考えていないのだ。

 あまりの信頼に苦笑いを浮かべそうになるが、グッとこらえた。

 兄たる者、常にて弟妹の手本とならなければいけない。

 その為の努力を怠った事は一度もないし、これからも怠る気はない。


「そうかもしれないが、俺は成功してもその事を広める気はないよ。

 俺は平穏に暮らしたいのだよ。

 何よりエラたちが欲深い連中に狙われるのは嫌だからね。

 だからエラも噂を広めるのは止めてくれ。

 エラも俺と穏やかにゆったりと暮らしたいだろう」


 俺が手柄を誇りたくないといっても、エラは噂を広めようとするだろう。

 エラたちの安全のためだと言っても聞いてくれないだろう。

 だけど、一緒に平和に暮らしたいと言えば、多分聞き分けてくれると思う。

 絶対と言い切れないのがつらい所だが、これは仕方がない。

 俺がエラを大切に思っているように、エラも俺を慕ってくれているからな。


「まあ、それは残念ですわ。

 私はノアお兄様の素晴らしさを大陸中に広めるべきだと思いますわ。

 でも、確かに、ノアお兄様と私の穏やかな暮らしを邪魔されたくはないですわね。

 ノアお兄様が私との生活を一番に考えてくださっているのなら、仕方ありませんわね、今回は大陸にノアお兄様の素晴らしさを伝えるのは諦めますわ」


 エラが理解してくれてよかった。

 エラが俺に広めないと言い切った以上守ってくれるだろう。

 エラが俺との約束を破った事は一度もないからな。

 まあ、俺もエラとの約束を破った事は一度もないしな。

 さて、ではさっさと促成栽培を始めようか。


「エラ、、危ないからそこにゆったりと座っているんだよ。

 まずは新たの覚えた土魔術と風魔術を複合させて樹木を根こそぎ引き抜く。

 樹木と一緒に空中に投げ出された動物や虫も、樹木と一緒に魔法袋に入れる」


「まあ、凄い光景ですわ。

 これほどのことができるのは、大陸広しといってもノアお兄様だけですわ」

 

 エラが手放しで褒めてくれるが、間違いではない。

 エラは歓喜の表情を浮かべて俺の魔術を見てくれているが、護衛の連中は腰を抜かさんばかりの驚愕の表情を浮かべている。


「まだまだこれからだよ。

 土と落葉を燃やして肥料にしつつ消毒しなければいけないし、穀物を促成栽培しなければいけないからね」


 さて、一日で土壌整備から収穫までできるかな。

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