第43話:魔術研究

 別に欲しくもなかった理事長代理という役職だが、あればいろいろ役に立つ。

 もちろん役職以上に属性竜素材と金が役に立っているのだが。

 今日も遠慮する事も自重する事もなく役職と経済力を利用している。

 命懸けの戦いの可能性も考えて、知識と戦闘力は高めておきたいのだ。

 隠さなければいけなのは実力であって、権力でも実力でもない。


「では実験を始めさせていただきます、理事長代理」


 目の前にいる執行導師と助手たちには権力と経済力を使っている。

 実験に必要な属性竜などの素材を提供する条件で、本来なら外部に漏らしてはいけない特別な魔術を俺に見せてくれる。

 だがこれもただの生徒では素材を提供しても許されなかった。

 学院の最高権力者の一角である理事長代理だから許される事だ。


「はい、はじめてください」


 今日教えてもらうのは植物や生物を異常成長させる魔術だ。

 古代魔術皇国時代に発見され使われていた魔術なのだが、現在では大陸連合魔術学院以外には伝わっていない。

 昔は穀物を促成栽培するのに普通に使われていたのだが、今では必要な素材を手に入れるのが困難過ぎて実用性に欠けている。


「呪文を合わせるんだぞ」


 執行導師が助手たちに厳しく命じている。

 滅多に手に入らない属性竜素材を使っているのに、助手たちのミスで実験を失敗させたくないのだろう。


「大丈夫だよ、成功するまでいくらでも素材は提供する。

 だから肩の力を抜いて、いつも通りやればいい」


 明らかに過剰に緊張している助手に言葉をかけてやった。

 このままでは確実に失敗するのが目に見えている。

 執行導師は感謝と恨みの半ばする複雑な視線を送ってくるが、知ったことか。

 俺は執行導師のために素材を提供したわけではない。

 何かあった時のために、穀物を大量に促成栽培する術を学びたいのだ。


「ありがとうございます、理事長代理」


 執行導師は助手に対する優位性よりも素材の確保を優先したようだ。

 俺はこの執行導師が少し好きになった。

 俺は目的のためなら下げたくない相手にも頭を下げられる人間が好きだ。

 自分の面目よりも目標を優先する人間が好きだ。

 

「気にしなくていいですよ執行導師殿。

 魔術の探求と復活のために資金を集めるのが理事長代理の役目です。

 私ができる範囲の資金援助は惜しみませんよ」


 特にこの術式は俺にはどうしても必要だ。

 今でも穀物の大量促成栽培ができないわけではない。

 だがそれは有り余る莫大な魔力を想像力に注ぎ込んだ力技だ。

 西洋医学の解剖学と生理学、東洋医学の五行論と経絡経穴、インド医学のアーユルヴェーダを組み合わせて手に入れた莫大な魔力量に頼っている。


 こちらから仕掛ける気は全くないのだが、王家が実家に戦争を仕掛けてきたら、国をまきこんだ大戦争になりかねない。

 そんなことになったら農業にも悪影響が出てしまい、飢える民が大量にでる。

 民に十分な食糧を与えられる方法を確保しておきたいのだ。

 今でもやれない訳ではないが、王家との国内戦争が始まれば、隣国が攻め込んでくる可能性もあるから、魔力を節約する方法があるのなら手に入れておきたいのだ。


「ありがとうございます、理事長代理。

 理事長代理が望まれる術式は全て再現させていただきます」

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