第41話:海水浴再び

「今度はなかなか属性竜が襲ってきませんわね、ノアお兄様」


 本気で怒っているエラを宥めるにはこれしかなかった。

 エラがもう一度来たがっていた海水浴に連れてくるしかなかった。

 もう二百も三百も属性竜を狩れれば、学院に百くらい渡しても気にしなくなる。

 だけどワインの会をやった翌日に来なければいけないとはな。

 前回の海水浴がよほど楽しかったのだろう。

 これほど楽しみにしてくれるのなら、定期的に海水浴に来るべきだな。


「そうだね、前回狩りつくしてしまったのかもしれないね」


 今回もエラの水着は普段着とそれほど変わらない。

 周りには女傭兵と戦闘侍女や侍女しかいないとはいえ、公爵家の令嬢が肌も露な水着を着るわけがない。

 俺が前世のビキニなどを作れば喜んで着てくれるだろうが、大切なエラに悪評がつくような事は絶対にやらない。


「それはとても残念ですわ。

 ノアお兄様の雄々しい姿をまたみたかったですのに」


「まあこんな時もあるさ。

 それよりも今日はゆっくりと景色と料理を楽しもうじゃないか。

 昨日は他人が多くいたから心から楽しめなかったからね。

 今日はエラと2人きりだっから、心おきなく楽しめるよ」


 こんな言い方をすると、護衛やお世話をしてくれている者達に失礼なのだが、この世界では身分が絶対に近いからな。

 王侯貴族から見れば家臣使用人は人扱いしないのが常識だ。


「そうですわね、ノアお兄様。

 あなた、白のお替りを入れてくださる」


 エラが侍女の1人に古代魔術皇国時代の白ワインのお替りを要求する。

 まあ、俺が作り出した偽物なのだけれどね。

 今日のために昨日の飲み比べ会の後で急いで作ったワインのなかの一本だ。

 エラのためなら少々寝不足になっても平気だ。

 いや、むしろ喜びをかんじる。


「その白にあうチーズとハムを用意してあるから、よかったら食べてみてくれ」


「まあ、私のために用意してくださったのですか。

 とても感激ですわノアお兄様」


 エラが手放しで喜んでくれる。

 目がキラキラと輝いている。

 こんな表情をして喜んでくれるのなら、今日も寝不足をおしてワインとオードブルを作りたくなってしまう。


「よかった、エラに喜んでもらうために作ったのだよ。

 そんなに喜んでくれるのならまた作ってあげたくなるよ」


「ほんとうですのノアお兄様。

 あ、でも、無理はなされないでくださいね。

 私が一番大切に想っているのはノアお兄様の健康ですの。

 ノアお兄様に負担をおかけする気は全くありませんの。

 ですから料理は料理人に任せてくださってね」


 本気で俺の健康を気にしてくれているのが伝わってくる。

 だからこそ心を込めてワインと料理を作ってあげたくなる。

 こんな幸せな時間は宝石のように貴重なのに、ジャマする無粋者は絶対に許さん。


「エラ、また属性竜が襲ってくるようだから、ここで待っていなさい」

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