第40話:大陸連合魔術学院知事長代理

「いやいやいや、それはいくらなんでも無理ですよ、エラ嬢。

 ノア殿は理事の経験すらないのですよ。

 それをいきなり理事長にするわけにはいきませんよ。

 長年理事をしていた者にも誇りや面目があります。

 常任理事として実績を積み上げてもらってから、周りに推戴してもらう形で理事長になられるのが一番ですよ」


 学院長がエラを宥めようとしているが、もう無理だな。

 エラが本気で怒ってしまっている。

 別に無理に理事長になりたいわけではない。

 理事や常任理事にだって何の興味もない。

 だけど役職がある事で両親や弟妹の安全が高まるのなら、くれるというモノを断る必要もない。


「別に他の理事に嫌われようが刺客を送られようが構いませんよ。 

 学院長も私が王女の刺客を返り討ちにしている事は知っておられますね。

 ベネディクトとオーランドを追い込んだのも知っておられますね。

 必要なら理事であろうと執行導師であろうと殺すだけですよ」


「まあ、それでこそノアお兄様ですわ。

 身勝手な事を言うモノは皆殺しにしてください。

 別に学院に拘る事はないではありませんか。

 誘ってくださった国立魔術学園に転学いたしましょうよ。

 学院長が言っていた属性竜六頭を寄付すれば、簡単に理事長にしてくれますわ」


 エラが本気で俺を説得しようとする。

 ここまで怒っているとなだめるのも難しい。

 一国の魔術学園だと母国への影響力が小さいから、家族の安全確保にはあまり役に立たないのだが、エラの嫌がる事をする気はないからそれでもいいか。


「待っていただきたい、この通り、私が悪かった。

 だから今一度話を聞いていただきたい」


 学院長がエラに完全降伏したな。

 大陸連合魔術学院の理事長職が一番王侯貴族にはアピールできるから、くれると言うのならエラを宥めてでももらうが、本当に俺を理事長にする心算なのか。

 それとも何か別のモノを用意する心算なのか。

 下手なものだとエラが納得しないぞ。


「聞く必要など何もありませんわ。

 どこかの国の王立魔法学園の理事長に就任して、没落した貴族の爵位を買い集めれば、ノアお兄様は百でも二百でも爵位を手に入れられますわ。

 百頭以上の属性竜を売ればそれくらい簡単ですわよね、ノアお兄様。

 それに今日のような古代魔術皇国時代のワインを楽しむ会を定期的に開催すれば、多くの貴族が味方をしてくれますわ」


「分かりました、分かりました、十分思い知りましたからもう許してください。

 私達よりもノア様とエラ嬢の方が強い立場なのは十分わかりました。

 ノア様には理事長になっていただきます。

 ただいきなりは流石に事を荒立ててしまい無用の犠牲を出してしまいます。

 一年、いえ、半年だけ理事長代理の地位でガマンしてください。

 理事長職は空席ですし、半年後には必ず理事長に就任していただきます。

 必要ならここにいる全員で誓約書を書かせていただきます。

 ノア様もエラ嬢も人殺しがしたいわけではないのですよね。

 どうかこれで辛抱してください」


 まあ、この辺で許してやろう。

 思っていたよりも少ない出費で理事長になれた。

 問題はどうやってエラを宥めるかだな。

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