第37話:交渉

「なんでしょうか学院長。

 そんなに改まって話されると身構えてしまいますね」


 少し牽制を入れてみたが、どう反応してくれるのかな、学院長。


「いや、いや、そんなに身構えてくださらないでください。

 酔いにまかせて無理なお願いをしているだけなのですよ

 楽しい時間の雑談として聞き流していただければありがたいのです。

 まあ、聞き届けていただけたら恩に着ます。

 学院長としてできる限りの恩返しをさせていただきます。

 なあ、みんな」


「ええ、そうですとも」

「はい、恩に着させていただきます」

「私も恩に着ます、約束します」

「執行導師会としても恩返しさせていただきますよ、なあみんな」

「当然です」


 学院長が連れてきた執行導師はこのために選ばれた派閥なのだな。

 最初からこの機会を利用して何か頼みごとをする心算だったのだ。

 ただ頼むだけでなくちゃんと見返りを与えると証明するための人選だ。

 学院長個人の私欲ではなく、学院として必要だと表明している。

 総意とまでは言い切れなくても、少なくともこのにいる者は、執行導師会で俺の利益になるように投票してくれるという事だ。

 まあ、大体何を頼みたいのかは想像できているがな。


「そう言われるのなら美味しいワインと料理のスパイスになるお話にしてください」


「はっはっはっはっは、座興の雑談をさせていただきますよ。

 何といっても属性竜のシードラゴンとウォータードラゴンを、単独で百頭以上も狩られるノア殿相手にスパイスになるようなお話はできませんよ」


 やはりそう来たか。

 学院としては属性竜の素材は喉から手が出るほど欲しいだろうな。

 古代魔術皇国時代の魔術を再現して研究をするには、当時使われていた魔術触媒が必要になる魔術もあると聞いている。


「ああ、あれですか。

 あれは妹のエラが魅力的過ぎたようで、エラの水着姿につられて大挙して襲ってきたのですよ。

 ただ百頭以上もいたので、素材の状態を考えずに殺してしまいました。

 だから学院が欲しがられるような良質の素材はありませんよ」


「まあ、そのように褒めていただけると照れてしまいますわ。

 でもノアお兄様、本当に属性竜は私の魅力に集まったのでしょうか。

 私には、ノアお兄様の桁外れた強さに恐れをなして、属性竜たちが暴走したように思えてなりません」


 エラが手放しで俺を賛美してくれる。

 表情や態度からも本気で賛美してくれているのが分かる。

 タロン殿とキーラ夫人が驚愕の表情をしている。

 どうやら俺の武勇伝を知らなかったようだ。

 直ぐに安堵の表情を浮かべるが、俺の暗殺を実行しなくてよかったと思っているのがありありと分かる。


「その両方なのではありませんかな、エラ嬢。

 エラ嬢も魅力的だったし、ノア殿も属性竜にとてつもない恐怖感を与えた。

 実際にたった一人で属性竜を百頭以上も殺されたのですからね」


 学院長がエラに狙いを定めやがった。

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