第34話:閑話・海水浴とドラゴン漁

「青い海と青い空は気持ちいいですわね、ノアお兄様」


 エラにも困ったものである。

 毒使いの貴級暗殺者の所為で屋敷も自分も汚れたと言い張って、清浄な海水で身を清めたいと俺におねだりするのだ。


「そうだね、確かに砂浜で陽を浴びるのは気持ちいいね。

 だが公爵令嬢のエラは陽に焼けるといけないからね」


「分かっていますわ。

 それよりも私の海水浴着はいかがですか」


 男性に極力素肌を見せないのがこの世界の令嬢のたしなみだから、エラの海水浴着は明治時代の女性が着ていたような水着だ。

 だから俺が見とれる事などなく、むしろ残念な想いしか浮かばない。


 だがこの世界の一般男性にとってはあまりにも煽情的過ぎるから、性犯罪を引き起こしかねない破壊力がある。

 まあ、それ以前に愛する妹の海水浴着を護衛とは言え男に見せる気は全くない。

 だから今日の護衛は戦闘侍女か女傭兵に限られている。

 まあ、10キロ四方の海岸線を借り切っているから、エラを絶対に見れない距離には男性傭兵を配置してはいるけどね。


「とても魅力的だよ、これほど魅力的な令嬢は大陸中を探してもエラ1人だけだよ」


「まあ、そのように言っていただけると照れてしまいますわ」


 ダサい海水浴着を着たエラが魅力的な笑顔を浮かべてくれる。

 だがその笑顔は俺だけではなくモンスターまで魅了してしまったようだ。


「エラ、君が魅力的過ぎてモンスターが海から大挙してやってきたしまったようだ。

 何かあってはいけないから海から離れていなさい」


「まあ、そのような恐ろしい事は言わないでください、ノアお兄様。

 どれほど強いモンスターハンターが多数いようとも、ノアお兄様が近くで護ってくださる方が安心ですわ」


 エラにそう言われると体の奥底から力がわいてくる。

 例え相手が属性竜のシードラゴンとウォータードラゴンで、しかも大挙して襲ってきていようと、エラにかすり傷1つ付けさせはしない。


「そうか、エラにそう言ってもらえるのならがんばらないといけないな。

 地の力よ、我に協力せよ、アース・スピアー」


 俺は自重という言葉を投げ捨てて犬の餌にすることにした。

 膨大な魔力を惜しむことなく使って一瞬で海底の岩を超高質化させた。

 シードラゴンとウォータードラゴンの鱗や皮を簡単に貫けるほど硬い槍先を創りだし、顎下から脳を突き貫いた。


 素材として利用するのなら一頭ずつ丁寧に殺さなければいけない。

 だが素材の良し悪しなどよりもエラの安全の方が大切だ。

 一瞬一撃で百近いドラゴンの群れを殺すのに品質など気にしていられないのだ。


「エラ、鮮度のいいドラゴンの肉が手に入ったら今日はドラゴンステーキにしよう」

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