第33話:貴級暗殺者3

 俺はダニエルが毒で死んでしまわないように急いだ。

 普通なら使わない転移魔術でその場に出現した。


「大丈夫だ、ダニエル。

 もう毒は中和したから死ぬ事はない」


「な、いつの間にここに?」


「ダニエルの戦いぶりを見たくて後をつけたのだよ」


 大嘘だが猛毒で死にかけていたダニエルには嘘か本当か分からない。

 だがこの貴級暗殺者は別だ。

 こいつは俺の転移に気がついている。

 だからこそ逃げずにこの場に留まっている。

 逃げきれないと悟ってイチかバチか戦う気でいるのだろう。


「直ぐにここから逃げてください。

 俺にも感じられない毒虫を使ってきます」


 ダニエルはよほど錯乱しているようだな。

 毒を中和できたという事は、毒を特定できているという事なのに。

 もしかしたら完全に毒を中和しきれていないのかもしれない。

 だとするとハァイド・ポイズン・スパイダーでも奇形種なのか。


「調べていた以上に規格外の存在のようだな。

 だが俺にも暗殺者としてのプライドがある。

 暗殺に失敗したという噂が広まれば、もう裏世界では生きてけなくなる。

 だからこの命に代えてもお前は殺す」


「暗殺者なのに随分とおしゃべりなのだな。

 それともハァイド・ポイズン・スパイダーやデス・ポイズン・ポーネットを俺に気付かせないように陽動しているのかな。

 だったら全部ムダだぞ」


 俺はそう言いながら、地をはって俺に近づくハァイド・ポイズン・スパイダーと、うるさい羽音をたてながら近づくデス・ポイズン・ホーネットを叩き落とした。

 言葉と羽音で俺を騙そうとしているのだろうな。


「もしかして、サイレント・ポイズン・ホーネットなら俺を騙し討ちにできると思っていたのか。

 それはあまりにも俺を舐めているぞ。

 それと、ポイズン・センティピードを地中から近づけようとしているが、全部魔術で確認しているから無駄だぞ」


「……俺の毒虫を全てはねのけたのはお前が初めてだよ。

 逃げられるものなら逃げたいが、逃がしてくれそうにないな。

 だったらお前を道連れに死んでやるよ。

 ポイズン・スーサイド」


 ボン!


 くぐもった音と一緒に貴級暗殺者の身体が弾け飛んだ。


「この世にある全ての毒を無害にしろ」


 俺は魔力任せに周囲に広がる毒を無効化しようと念じた。


「息を止めろ!

 毒だ、毒がまき散らされたぞ。

 直ぐに毒に備えろ。

 息を止めろ、目をつむれ」


 とんでもない奴だ。

 身体の中にまで毒虫を飼っていやがった。

 魔術で爆発させた自分の体、血にも肉片にも毒が含まれている。

 空気を吸い込んだだけで即死するほどの猛毒を周辺に撒きちらかしやがった。


 自分が知っている全ての毒を中和するように莫大な魔力に任せて念じたが、暗殺者が飼っていた毒虫の毒を全部中和できただろうか?

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