第32話:貴級暗殺者2

 敵は入念に準備をする慎重な性格のようだ。

 まあ、熟練の暗殺者が慎重な性格なのはあたりまえだけどな。


「暗殺者は1人ではない。

 確かに貴級は1つだが、特級が1つ、中級が7つ、下級は42個。

 他にも下級にも数えられないようなモノが474個もある」


「なんですって、まるで傭兵団のようではありませんか。

 暗殺者がそんな目立つやり方をするとは、信じられません」


 サイモンは黙っていたが、今日の当番護衛が驚きの声をあげている。


「黙っていろ、未熟者。

 熟練の暗殺者だ、この布陣を見れば陽動くらい使ってくる」


 サイモンが当番護衛を叱りつけている。


「雑魚は外側の者達に迎撃させる。

 ノア様、強敵に味方を誘導させていただけますか」


「分かった、エラの護衛以外に迎撃させよう」


「お願いします」


 敵の強さを測りつつ、勝てそうな護衛に迎え討たせる。

 微妙な相手には連携の取れた二人組三人組の護衛を送り込む。

 俺の使い魔も一緒に送り込んで敵の姿を確認しておく。


「サイモン、敵のなかにテイマーがいるようだ。

 下級や下級以下はテイマーが集めた動物達だ。

 屋敷に入れないような動物は、斃しきれないのなら放置しろ」


「分かりました、大声で伝えさせていただきます」


 さて、貴級の暗殺者は外郭の更に外側でタイミングを計っているな。

 今のうちにめぼしい敵を殺しておくか。


「ノア様、動くのは止めてくださいよ。

 貴級なら私やダニエルでも殺せます。

 特級なら配下の者達でも殺せます」


 しかたないな、敵が間近に迫っていない状態で傭兵達の面目を潰すのはまずい。

 傭兵達にはこれからもエラを護ってもらわなければいけないからな。


「ではダニエルに貴級暗殺者を斃してもらおう。

 貴級は西の外郭の外れにいる。

 ダニエルはそこに行ってくれ」


「はっ」


 サイモンと双璧の強さを誇るダニエルが貴級に向かってくれた。

 傭兵団ドラゴンクロー団長で、個人の強さだけでなく組織を纏める力も、軍隊を縦横無尽に指揮する能力もある。

 王家や領主の軍隊や騎士団で将軍や団長を務められるだけの人材だ。

 面目は大切だが、こんな所で死なせるわけにはいかないのだよ。


★★★★★★


「逃がさんぞ暗殺者」


「……」


「そんな毒蜘蛛にやられる俺ではないわ、死ね」


 ダニエルは伏兵や罠を見逃して危機に陥るような無能ではない。

 だが今回は相手が悪すぎた。

 この暗殺者は俺を殺すにあたって入念な調査をしたのだろう。


 レッド・バック・スカル・スパイダーを使って暗殺を謀っていると見せかけて、人間の眼から姿を隠すハァイド・ポイズン・スパイダーを使って暗殺を謀っている。


「ウッギャア」


 ハァイド・ポイズン・スパイダーの毒はよほど強い痛みを発するのだろう。

 泣き言など口にしそうにないダニエルがうめき声をあげている。

 面目を潰さないように助けてやらないといけないな。

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