第31話:貴級暗殺者1

「ノア様、傭兵ギルドから緊急の情報が届きました」


「真剣な顔をして、何が起きたんだい、サイモン」


「フィップス大公家が貴級の暗殺者を雇ったそうでございます」


「フィップス大公家と言えば、一カ月前にぶちのめした奴の実家だったな」


「はい、あの影響で、あの馬鹿の兄が次期国王競争に敗れたそうです」


「その逆恨みで俺を殺そうというのかい、殺すなら馬鹿な弟の方だろ」


「弟はあの時のケガが原因で死んだそうですが、恐らく兄が殺したのでしょう」


「そうだろうな、死ねずに苦しみ続けるように加減したのに死ぬはずがない。

 それにしても随分と短い間に手を打ったのだな。

 元気な者でもここからフィップス大公家のあるコンプトン連合王国まで、馬車で三カ月はかかるぞ。

 そんな事を可能にするには、馬鹿がやった事を逸早く領地に知らせて、死にかけの馬鹿を領地まで戻して殺し、貴級の暗殺者を探し出して雇うしかない。

 よほど強力な魔術師が味方にいなければ不可能だろう」


「はい、恐らくですが、王位競争で使うはずだった魔術師と暗殺者でしょう。

 自分の王位争いの邪魔にならないように馬鹿な弟を監視させていたと思われます」


「いや、それはちょっと違うだろうな。

 兄とやらは王位争いに金と人を使いたかったはずだ。。

 弟の監視と連絡をできるだけ安くしようとしたら、学院の講師か導師に頼む。

 だとしたら魔術師の役割はそれほど重要ではなかっただろう」


「なるほど、確かにその通りですね。

 学院に馬鹿を入れる時にそれなりの寄付金と裏金を支払っているはずです。

 その時に頼った人間に監視を頼んでいたのでしょう」


「問題はその講師か導師が俺と戦う気があるかどうかだな。

 俺が潰したベネディクト理事長の一派なら復讐の機会を待っているかもしれない」


「はい、それに並の暗殺者でも厄介なのに、相手は貴級です。

 慎重過ぎるくらい慎重に対処すべきです」


「俺は別に相手が貴級であろうと王級であろうと気にしないが、エラを不安にさせたくないからな」


「常にノア様がエラ様に側におられれば大丈夫でしょうが、兄君とはいえ入浴の時などは側にいる訳にはいかないでしょう」


「そうだな、どうしても側にいられない時があるな。

 以前に使って見せた、敵を強さで判断する索敵魔術があるから、近づけば直ぐに対処できるが、敵が入浴している時に複数で別方向から襲ってきたら厄介だな」


「はい、ですから今回は遠くにいるうちに迎え討ちたいのです。

 今ならまだ暗殺者をコンプトン連合王国内で殺せるかもしれません。

 少し費用はかかりますが、向こうの傭兵ギルドに殺害依頼を出していいですか」


「費用などは気にしなくていいのだが、残念ながらもう来てしまったようだ。

 その貴級暗殺者というやつが」


 仕事が早い暗殺者だったのだな。

 索敵できたから後は殺してしまうだけでいい。

 問題は学院の魔術師が一緒に攻撃を仕掛けてくるかどうかだ。

 連携されると護衛に被害が出るかもしれないな。

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