第29話:ジェイコブ大公子

「おい、お前がカンリフ王国を追放されたというノアか」


 いきなり教室に入ってきて大声を出しやがって、エラが怖がったらどうするんだ。


「まあ、ノアお兄様に喧嘩を売ってくる馬鹿がいますわ」


 ああ、エラはこの程度では怖がらないのだな。

 少しは令嬢らしく怯えた表情を浮かべて欲しいのだが、無理な願いのようだ。

 でもせめてそんな楽しそうに期待を込めた表情をするのは止めえくれ。

 明らかに俺がこの馬鹿をぶちのめすのを期待しているのが分かってしまう。

 俺は穏やかに暮らしたいんだよ、でもエラに期待されたらやるしかないよな。


「なんだと、誰が馬鹿だ。

 俺様はコンプトン連合王国七公爵家の一つ、フィップス大公家の第三大公子ジェイコブ様だぞ、そんな言葉を吐いてただですむと思っているのか」


 そんな説明しなくていいよ、馬鹿公子。


「誰もそんな事は聞いておりませんわ。

 学院に来たという事は、本国にいられないくらいの愚か者か犯罪者でしょ。

 そんなクズがノアお兄様に軽々しく話しかけないでくださいませ」


 挑発して俺に戦わせる気なんだねエラ。

 相手が大公家の公子だと、護衛に叩きのめさせるわけにはいかないし。


「このメス豚が、俺様を馬鹿にしやがったな」


 ジェイコブの糞ボケがエラの悪口を吐きやがった。

 それどころか、ジェイコブの馬鹿はエラに殴りかかろうとした。

 これが俺に殴りかかってきたのなら、暴力の証拠を残すためにわざと殴らせていただろうが、エラに殴りかかったのなら話は違ってくる。

 証拠が残らなくてもいい、少しでもエラの遠くでぶちのめす。

 正確に言えば、暴力を振るおうとした時点で半殺しだ。。


 グッワッチャ。


 俺は即死させてやるほど優しい人間じゃない。

 頭を潰したり心臓を貫いたり内臓を破壊したりはしない。

 まず最初に脳を破壊しないようにしながら下顎骨を粉砕する。

 当然だが歯が吹き飛び顔の下半分は熟し柿のようになる。


 ゴキボキゴキボキゴキボキ。


 次に両膝と両肘を粉砕して二度とまともに動かせないようにする。

 よほど高位の回復魔術使いでないと絶対に元通りに治せないくらい破壊する。

 だがこれくらいでは俺の怒りは収まらない。

 俺の可愛いエラを襲う奴は絶対に許さない。

 それに卑怯下劣なエセ貴族に生きる価値はない。

 殺さない事が最大の温情であり罰でもある。

 

「や、やめろ、やめるんだ、これ以上やったら戦争になるぞ。

 コンプトン連合王国とカンリフ王国の戦争になってもいいのか」


 護衛が主人を助けもせずに情けない事を言う。

 俺の強さだけではなく、俺とエラの護衛が放つ殺気を恐れてその場から一歩も動けなくなる護衛なんて、何の意味もない。

 まあ、俺が本気で怒っていたから、動けなくなるのも仕方がないのだけれどね。

 この状態で口をきけることが、ある意味強さの証明ともいえるか。


「戦争だと、やれるものならやってもらおうか。

 だがその時は覚悟しろよ。

 俺が全力でフィップス大公家を潰してやるからな」

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