第26話:閑話・苦学院生リリー視点
「敵が二十三人で周囲を取り囲んでいるぞ」
不意にノア様がサイモン団長に話しかけられました。
私達に護られているはずのノア様が先に敵の襲撃を察知されます。
「こいつらに対人戦を経験させようと思います。
はっきり言えば人殺しを経験させおきます」
ころす、私が人を殺す。
生きていくのが大変なのは、貧しい生まれの私が誰よりもよく分かっています。
生き延びるために人を殺す必要がある事も頭では分かっています。
でも今までは父と兄がやってくれていたので、まだ人を殺した事がないのです。
「おっと、どうやら精霊使いがいたようだ。
敵が精霊を召喚したみたいだ。
だが相手は特級くらいだから十分対応できるぞ」
ノア様がとんでもない事を言いだされます。
確かに団長は貴級なので勝てるでしょう。
幹部の人達は特級なので互角に戦えるでしょう。
でもアミーアントで苦戦するような私達では絶対に無理です。
「うぉー、やってやる、やってやるぞ。
精霊を殺せたら魔力が高まる事があるんだ。
こんなチャンスを見逃せるか」
他の学院生達もやる気に満ちた表情をしています。
確かにこんなチャンスはめったにありません。
ですが、負けて死んでしまったら何の意味もないです。
「ギャアアアアア、いたい、いたい、痛い」
学院生の一人が右腕を破裂させられて痛みにのたうちまわっています。
「あつい、痛い、熱い、助けてくれ」
もう一人の学院生の身体が燃え上がっています。
私は何とか防御しましたが、精霊の火炎攻撃をまともに受けてしまったのです。
「情けなさ過ぎるぞ、それでも貴級の候補か。
そんな情けない戦い方では傭兵団から追放するぞ」
「まあ、追放されては可哀想ですわ。
助けて差し上げてくださいな、ノアお兄様」
「エラがそう言うのならしかたないね。
手本を見せるから魔力の操作に集中しなさい。
リリーはなかなか上手いな」
ノア様が私の事をほめてくださいました。
顔が赤面するのが自分でも分かります。
だってしかたないではありませんか。
相手は物語に出てくるような美男子で、公爵家の令息なのです。
貧民の娘が憧れて当然です。
「すごい、すごい、凄すぎます」
ノア様のあまりに凄さ強さに無意識に声に出してしまいました。
夢のような事を考えてしまっていた私の前で、ノア様が次々と手本になる魔力の使い方を実践してみせてくれています。
中級の魔力しか使っていないのに、圧縮して的確な場所に使う事で、精霊の火炎魔術を全て味方に当たらない方向に誘導されています。
あのような使い方ができれば、わずかな魔力でも強い敵と戦えます。
「エラ、精霊を動けなくしているから、殺して魔力を高めなさい」
ノア様が愛おしそうな視線をエラ様に向けておられます。
ああ、ノア様はエラ様がとても大切なのですね。
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