第25話:圧倒

「嘘だろ、いくら何でも強すぎるぜ」


「何を言っているの、ニコラス。

 ノアお兄様ですよ、これくらい簡単な事ですわ」


 エラがうれしそうに俺の事をほめてくれる。

 少々照れ臭いが、慕われているのが分かってホッとする。

 満面の笑みを浮かべてくれているのがうれしくもある。


「すげぇぇえええ、凄すぎるぜ」

「五千だぜ、五千」

「だけどもたいないよな。

 五千狩っても全部は回収できないぜ」


 苦学院生たちが口々に話し始めている。

 死の危険から解放された事で安心したのだろう。

 

「何を言っているの、貴男たちわ。

 ノアお兄様の魔法袋なら五千が五万でも収納できますわ」


 エラ、あまり俺の能力を言いふらすのは止めてくれ。

 俺は目立つことなく自由に生きたいのだ。

 力があると思われたら多くの所からちょっかいをだされてしまう。

 でも、エラの期待を裏切るわけにはいかないよな。


「そうだぞ、エラの言う通りだぞ。

 五千のアーミーアントを狩れるのだから、五千くらい簡単に魔法袋に納められる。

 だけどそれではさっきニコラスの言っていた事に反するからな。

 お前達も収納できるだけのアーミーアントを魔法袋に入れておけ」


「ああ、お前ら、信じなくていいぞ、ノア様は俺の言った事の常識外だぞ。

 こんなに強い人が俺達より先に死ぬはずがないからな。

 本当なら全部ノア様に収納したもらう方が安心なんだが、お前達も回収しろ。

 命令通り回収しないと怒られるからな。

 なんといってもノア様は俺達が護衛するべき主人だからな。

 それと絶対に忘れるなよ、ノア様やエラ様より先に死ぬのが俺達の仕事だからな」


 俺の言葉をニコラスがぶち壊しやがった

 でも嘘を言っていないので文句が言えない。

 苦学院生達を雇ったのはエラを護ってもらうためだ。

 自分の事は自分で護れるが、エラの事がどうしても心配なのだ。


「ノアお兄様、この者達にアーミーアントを振舞ってあげてはいかがですか。

 先程の話では随分と苦労しているようですし、ノアお兄様や私はアーミーアントを食べたりはしませんし、そもそも量が多過ぎますもの」


 言い方は貴族令嬢そのもので上から目線だけど、根は優しいんだよな。

 

「そうしてやっていただけると助かります。

 もっと数多く狩らせるつもりだったのですが、街に被害が出ないようにノア様が一気に狩ってくださったので、こいつらに渡す予定の数よりも少なすぎるんです」


「では必要なだけ持っていけばいいわ。

 私がノアお兄様にお願いして下げ渡してあげます。

 私達に仕えるサイモンの傭兵団で雇っているのですから、温情を施すのは当然ですわ、ねえ、ノアお兄様」


「ああ、そうだね、必要なら全部下げ渡しても構わないよ」


「それはお止めください、ノア様、エラ様。

 それではこの者達の実力が伸びません。

 一人前になるまでは必要最低限の援助にとどめてください」

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