第16話:目玉焼き

 結構長い旅をして母国から大陸連合魔術学院に辿り着いた。

 徒歩の人間がいない、騎馬と馬車での旅なのに四カ月もかかった。

 通過した国が三カ国もある事でその遠さが分かるだろう。

 執念深いオリビア王女が放ったのであろう刺客には何度も襲われた。

 山賊や盗賊、猛獣や魔獣にも襲われた。

 時にエラを招待した貴族に襲われた事もあったが、全部返り討ちにした。


「とても楽しい旅でしたわね、ノアお兄様。

 いっそこのまま地の果てまで旅をしませんか」


 エラが突拍子もない事を言いだす。

 確かに旅を始める前には冒険者になりたいと言っていた。

 その時には野営や自炊を楽しむつもりでいたのだ。

 だが実際に傭兵や冒険者と一緒に旅をしていて考えが変わった。

 俺自身は魔力魔術無双だから、一人なら風呂も料理の準備も困らないのだが、人目があるとそれが使えないのだ。


「いや、エラを風呂もトイレもろくにない田舎に行かせるわけにはいかないよ。

 公爵令嬢に相応しい生活を保障しなければ、父上と母上に顔向けできないからね。

 最初は野営で自炊するのも面白いけれど、毎日毎食では大変だよ。

 料理は専門のシェフに任せた方が美味しいし、時間も自由に使えるよ。

 狩りがしたければ学院領の魔境に行けばいいし、旅行ならここから日帰りできる場所に行けばいいよ」


 俺のように前世で田舎育った老人なら汲み取り式の外便所を使った事がある。

 だが都市部に育った若い人が横死して転生したケースだと、水洗便所しか使った事にない人もいるだろう。

 そんな人にはオマルに排便して平気で道に捨てるような異世界転生は、とても苦痛に満ちていると思う。


 公爵令嬢として育ったエラも同じなのだが、それでも旅をしたり狩りをしていると、野糞をしなければいけなくなってしまう。

 冒険者や護衛が見守る前でエラに野糞をさせるなど、絶対に許容できない。

 どうしても旅や狩りが必要ならば、簡易式のトイレやお風呂を魔法袋に入れて持ち歩く必要がある。

 うん、そうしよう、エラの為に簡易式の小屋を造っておこう。


「私、とても残念ですわ。

 またノアお兄様の作った料理を食べたかったですのに」


「そうなのかい、だったら明日にでも何か作ってあげるよ。

 エラは何か食べたい料理があるのかい」


「私、ノアお兄様が作られたオムレツが食べたいですわ。

 刻んだチキンとオニオンをキツネ色に炒めた具材も美味しいですし、ふわふわの卵で包まれているのも美しく、同じ食感の食べ物が他にありませんもの。

 あら、卵が美味しいのならプレーンオムレツも捨てがたいですわね。

 黄身の美味しいのはポーチドエッグのほうでしょうか、それともサニーサイドアップの目玉焼きのほうがいいでしょうか、それとも両面焼のオーバーイージーにしていただいた方が美味しいでしょうか」


「ああ、大丈夫、全部作ってあげるから」

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