第15話:圧勝

 最悪の可能性を考えて傭兵と冒険者に喝を入れたが、今回は本当に大当たりの人材に恵まれていたようで、慢心している愚か者は三人だけだった。

 傭兵と護衛を纏めている冒険者のリーダーは、その三人の事は把握していたようで、眼に見える巨大な毒蜘蛛を迎撃する役目を与えていた。

 皆の命を危険に晒す馬鹿はこの機会に取り除こうという事らしい。

 非情な考えだが、俺も賛成なのでここで死んでもらうことにした。


「エラ、目に見えているのは左翼の巨大毒蜘蛛だけど、本当に危険なのは右翼の極小毒蜘蛛なんだよ。

 巨大毒蜘蛛に注意を引いている間に、俺を殺そうとしている。

 あまりにも小さいから、護衛も見逃してしまうほどだ。

 多分だけど、裏の世界では有名な暗殺者なんだろうね」


 オリビア王女は本当にしつこすぎるし、国王も甘すぎる。

 こんな暗殺者を雇おうと思ったら、結構な依頼料が必要になる。

 オリビア王女に与えられた台所領だけではとても賄えないはずだ。

 どうせ金を無心された国王が何に使うか分かっているのに与えたのだろう。

 本当に困った父娘だ。


 いや、金を与えたのが国王とは限らないな。

 愚かなオリビア王女を擁立して王国を意のままにしたいと考える貴族は多い。

 ハザートン公爵家を邪魔だと考えている貴族も同じように多い。

 そんな連中が一石二鳥を考えて暗殺資金を援助した可能性もあるな。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、もうドロドロの権力闘争はごめんだ。

 運よく公爵家を継がなくてもよくなったのだ、自由にのんびりと暮らすさ。


「何を考えておられるのですか、ノアお兄様。

 極小の毒蜘蛛は退治されないのですか」


「もう直ぐだよ、今あの冒険者の右側と、あっちの冒険者の左側を通過したよ。

 もう少し近づいて来たら叩き潰すからね」


「まあ、捕まえて護衛達に見せないのですか。

 護衛達にノアお兄様の正しさを示して欲しいですわ」


 ふむ、確かに今後の事を考えれば、傭兵や冒険者に俺の正しさを示しておいた方がいいかもしれないな。


「そうだね、エラの言う通りだね。

 じゃあ捕獲用の魔術を使って毒蜘蛛を確保しよう」


 やる事が決まれば後は簡単だ。

 希少で高価な魔獣を生きたまま捕獲するために開発された魔術で極小毒蜘蛛を捕獲して、その後直ぐに巨人を斃した時と同じ風魔法で巨大毒蜘蛛を斃す。

 素材として売れば高値がつくが、巨大毒蜘蛛は上手く料理をすれば美味なのだ。


「なんだこれは、レッド・バック・スカル・スパイダーじゃないか。

 解毒薬も治癒魔術も効かないこんな奴に噛まれたら死んでいたぞ」


 冒険者の中に毒蜘蛛に詳し奴がいて助かった。

 今回始末し損ねた三人が露骨に視線を外しているが、エラが俺の雄姿を喜んでくれているのなら、まあいいか。

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