第14話:毒蜘蛛使い

 悩みに悩んで心が引き裂かれそうだった。

 エラの願いをかなえてやりたい思いと、毛ほどの危険も許容できない気持ち。

 全く危険などないという自負が浮かぶたびに自分の慢心に吐き気をもよおす。

 結局、ごくごくありきたりの事しか決められなかった。

 外周部を護衛の傭兵や冒険者に任せて、俺はエラと一緒に馬車で刺客を迎え討つ。

 平凡過ぎる上に、子供を溺愛して判断を誤る国王や両親の姿が今の自分と重なってしまい、内心自分自身を嘲笑ってしまった。


「分かったよ、だけど愛するエラを危険に巻き込むことはできない。

 一番安全な迎撃戦を行うから、俺の側を離れてはいけないよ」


「ありがとうございます、ノアお兄様。

 ノアお兄様の雄姿が見られるのでしたらどこでも構いませんわ」


 エラが納得してくれたので即座に行動に移した。


「馬車を止めろ、左の森から刺客が迫って来ている」


 魔術で馬車の中から御者と護衛に指示をだし、護衛隊長が前衛の騎士をはじめとした全部隊に命じて、百人を超える部隊が停止した。

 家臣達には俺の言葉を疑う者など一人もいないのだが、自分の力で生き延びてきた百戦錬磨の傭兵と冒険者の中には俺の言葉を疑う者もいる。

 自分達が全く殺気を感じていないのに、ボンボン育ちだと思っている公爵家の元公子に刺客が来たと言われても、信じられなくて当然だ。

 依頼者の戯言を信じて行動していたら、犬死にしなければいけないのだから。


「もし俺の言葉に間違いがあったら、全員に金貨一枚ずつ払おう。

 だから本気で見えない敵が襲ってくる覚悟で備えろ。

 油断や蔑みにかかっているのはお前達の命だぞ」


 俺は自分達の経験と実力に慢心している連中に喝を入れた。

 命を賭けて戦い生き延びてきた歴戦の彼らに偉そうにする気は毛頭ないが、それが慢心につながる事がある。

 この世界には人の常識では測れない強さがある。

 魔術や呪術などは元の世界の常識で言えば反則以外の何物でもない。


 俺は運がいい事に前世の知識と記憶を持ったままとんでもない魔力を授かったが、普通の人はコツコツと鍛えて強くなっているのだ。

 だからこそなのかもしれないが、一定以上の強さを超えた人間は慢心してしまう。

 初心を忘れて警戒心を失い、油断しなければ死なずにすむ状況で死んでしまう。


「蜘蛛だ、大型の毒蜘蛛が左翼正面からやってくる。

 だがそれは陽動だ、単なる囮だ。

 本命は右翼からくる超小型の毒蜘蛛だ。

 大きさは小指の先ほどだが、毒の強さは大型よりも強いぞ。

 五匹もいるぞ、それぞれの能力に合わせて陣を組みなおせ」


 残念だったな、毒蜘蛛使い。

 俺には魔力だけでなく危険度で相手を測る魔術があるんだよ。

 どれほど小さくても見逃す事はないのだ。

 だが問題は、エラに俺の雄姿を見せるのなら危険な超小型ではなく、大型と戦わなければいけない事なのだが、どうしようか。

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