第12話:誘惑
「そうだね、あの時はとても楽しかったね。
ふむ、だったらもう一度飲み比べをやろうか、エラ。
大陸連合魔術学院に到着したら、旅の無事を祝うパーティーを開こう」
「まあ、本当ですか、ノアお兄様。
私、とても楽しみですわ」
エラが手放しで喜んでくれている。
こんなに古代魔術皇国時代のワインが好きだとは思っていなかった。
これなら定期的に飲み比べをやってあげようか。
それとも毎週と言わずに毎日料理に合ったワインを作ってあげようか。
ああ、駄目だ、今はまず伯爵を味方につける事だ。
「ロング伯爵もどうですか、一緒に飲み比べされませんか。
今日初めて会う私達のために、こんなに貴重なワインを開けてくださったのです。
そのお礼といえば、同じワインを開けるしかありませんからね。
ただ私の個人的な理由で申し訳ないのですが、もうこの国に留まることができないので、飲み比べは大陸連合魔術学院領で行うことになってしまうのです。
余りにも遠い場所なので、無理にとは申しませんが、もしよろしければ……」
「行きます、行かせてもらいます、いえ、どうか行かせてください。
どれほど遠い場所であろうと、いえ、地獄であろうと行かせていただきます」
嘘、ではないな、本気で地獄に行ってでも飲みたいのだろうな。
もしかしたら、以前に飲まされた古代魔術皇国時代のワインには、魅了の古代魔術がかけられていたのかもしれないな。
あの時代のワイン営業が極悪非道だった事を想わせる事が色々とある。
その一つがワインに魅了の魔術をかける事だが、中には常習性のある薬物を混入させているワインすらあるのだ。
そういう事が色々あるから、俺は現物を買わずに模造ワインを造っているのだ。
「それはよかった、愛好家同士仲良くしたいですからね。
あ、そうだ、旅の途中なので一本しか持ってこなかったのですが、もしかしたら古代魔術皇国時代のワインかもしれないモノがあるのですよ。
秘蔵したい人間が、中身を戦国時代のワイン瓶に入れ替えたようなのですが、瓶から見える色合いと雰囲気が古代魔術皇国時代を彷彿させるのですよ」
「え、そんなモノが本当にあるのですか。
噂には聞いた事がありますが、詐欺師の嘘だと思っていました。
失礼なようですが、ノア様は本当に瓶の上から中身が分かるのですか」
ノア殿からノア様に呼び方が変わっているぞ。
だいぶこちらに引き込めたようだな。
「まあ、それは開けてみれば分かる事ですよ。
私が妄想癖のある変人なのか、詐欺師の嘘でしかないのか、全部ワインを開けて試飲してみれば分かる事ですよ」
それと、伯爵の舌が本物かどうかと、どれくらいの量の古代魔術皇国時代のワインを飲んできたかもね。
★★★★★★
「すごい、すごい、凄い。
本物だ、本物の古代魔術皇国時代のワインだ。
しかも当たり年のワインだ、今までたった一度だけ飲ませてもらった事のある、幻の当たり年ワインだ」
へえ、伯爵のワインに対する情熱は本物だったんだ。
形振り構わず恥に耐えながらワインを探し求めていたのだろうな。
旅先で何本か造って贈ってあげようかな。
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