第9話:招待

「お初にお目にかかります、私はロング伯爵家に仕える者でございます。

 突然の事ではございますが、今宵ロング伯爵タロンが主催します舞踏会に、ハザートン公爵家のエラ嬢をご招待させていただきに参りました」


 また明らかに胡散臭い奴がやってきた。

 俺が追放されたのは公式に知られているが、エラが俺と一緒に国外に出ようとしている事は、公式には全く発表されていないのだ。

 それなのに俺ではなくエラを舞踏会の招待する。

 背後に誰かがいると大声で言っているも同然なのだ。


 ロング伯爵はあまり賢いとは言えない敵のようだ。

 こう言う敵ほど突拍子もない事をしでかすので怖い。

 俺一人ならどうとでもできるのだが、今回はエラがいる。

 そしてエラだけを招待しているのなら、俺に対する人質に使う心算だ。

 もしエラを力尽くで連行しようとしたら、ロング家を滅ぼしてやる。


「せっかくのご招待なのですが、私はノアお兄様との旅を楽しんでいますの。

 ノアお兄様と離れ離れになるようなご招待をお受けする気はありませんの。

 その点をロング伯爵に間違いなくお伝えしてくださいな」


 俺は前世から揉め事が嫌いなんで、最初からこんな招待を受ける気はないのだが、どうやらエラは内心では舞踏会に参加したいようだ。

 いくら快適とはいえ馬車の中で過ごす事が多いのは、よく言えば自由闊達、悪く言えば自由奔放なエラには辛いのだろう。

 エラが踊りたいというのなら邪魔するわけにはいかない。

 だが何も貴族の主催する舞踏会にこだわる必要はない。

 野営時にキャンプファイアーをして踊るのも面白いと思う。


「それは大丈夫でございます、エラ嬢。

 ノア様を公爵公子として遇する事はできませんが、エラ嬢の兄君として遇すると主人が申しておりましたので、決してノア様に恥をかかせるような事はございません」


 これは、最初から俺も一緒に招待する心算だったのだろうか。

 そうだとしたら、エラを人質に取ることなく、俺を直接暗殺する心算だろう。

 それとも、俺やエラが断った時のために用意していた次善の策なのだろうか。

 最初から俺を殺すつもりなら、事前に俺の事を調べているはずだ。


 当然俺がオリビア王女の近衛騎士達をたった一人でぶちのめしているのを知っているはずだから、俺を殺すなら一瞬一撃で殺そうとするだろう。

 だったらこんな招待の段階で俺を怒らせはしないだろうな。

 オリビア王女の八つ当たりは、命を失う可能性がある怖い事だから、まずは何があっても俺を城におびき寄せようとするはずだ。

 エラが舞踏会を愉しみにしているのなら仕方がない。

 罠と分かっていても行くしかないな。


「そうなの、だったら喜んで行かせてもらうわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る