第8話:刺客

 音も震動も全くない快適な馬車の旅だ。

 この世界この時代では考えられない快適な馬車だ。

 この世界の高級素材を前世の知識を応用して製作した特別製の馬車なのだ。

 ハザートン公爵家の馬車でしか得られない快適さだ。

 だがそんな快適な旅に水を差す不届き者がいる。


「ノア様、冒険者が報告があるそうなのですが、よろしいでしょうか」


「ああ、刺客の事なら任せると返事をしてくれ」


 悪戯心で冒険者達が刺客の存在を報告する前に返事をしておく。

 常時発動している探査魔術に殺意を持った人間達が引っかかっている。

 大当たりの冒険者達だから、金や権力で俺達を裏切るような事はないとは思うが、要所で力を誇示しておく方が未然に裏切りを防ぐことができる。

 俺やエラの為ではなく、冒険者達のためにね。


 万が一自分達の命や誇り以上に大切なモノを人質にとられてしまって、仕方なく裏切る可能性も皆無ではないからだ。

 そんな時でも、裏切っても無駄死するだけだと理解してくれていたら、裏切るのではなく相談してくれる可能性が出てくるからな。

 誇り高く有能な人間を悪人の為に死なせたくはないのだ。


「怖いですわ、ノアお兄様。

 どこの誰が刺客を放ってきたのでしょうか」


 全然怖がっているように見えないエラが話しかけてくる。

 俺を信頼してくれているのだろうが、少しは危機感を持った方がいい。

 だが、俺が対応できないような刺客なら、エラがどれほど気をつけても無駄というのも厳然たる事実だから、余計な事は言わない方がいいだろう。

 説教臭い事を言ってエラに嫌われるのだけは絶対に嫌だからな。


「そうだな、可能性としたら、オリビア王女に媚を売りたい連中の誰かだね」


「まあ、身勝手な欲が強すぎて怖いですわ。

 どうか私を護ってくださいね、ノアお兄様」


 全然怖そうには見えないぞ、エラ。


「ですが本当にオリビア王女の取り巻きなのでしょうか。

 オリビア王女本人が刺客を送ってきたという事はないでしょうか」


「全くないとは言えないだろうね。

 国王陛下の愛情ある決定を自分の面目を潰されたと考えかねない人だからね。

 でもそれを家臣や冒険者達の前で口にしてはいけないよ。

 万が一にもエラがそんな事を口にしていると噂になってしまったら、恥をかかされたと思ったオリビア王女が形振り構わず刺客を送ってくるからね。

 本当にオリビア王女が刺客を送ってきたとしても、側近が独断で送ったと口にし続けないと、国に残っている父上や母上、弟妹達が狙われるからね」


 こう言っておけば、家族愛の強いエラが暴走する事はないだろう。

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