第3話:妹エラと両親

 ジョージ国王とオリビア第一王女との話し合いがついたので、俺は屋敷に帰って家族に事情を話すことにした。

 国王や王女から難癖をつけられないようにはしたが、ちゃんと事情を話しておかないと、誰がハザートン公爵家に罠を仕掛けるか分かったモノではないのだ。

 公爵家という高位貴族は大きな権力を持ってはいるが、同時に多くの敵もいて、常に引きずり落とそうとする連中に狙われているのだから。


「嫌です、絶対に嫌です、私はノアお兄様の側から離れません」


 俺が国外追放になったと聞いた長妹エラが駄々をこねてしまう。

 長弟レオの一歳年下、俺の二歳年下の妹だ。

 父上と母上は高位貴族にしては珍しく仲がよいので、上四人の兄弟は全員年子で、俺を含めて上からノア、レオ、エラ、テオという名前だ。

 家督継承争いが激しくなりがちで、時に殺し合いまで起こる貴族の兄弟としては例外的にとても仲がいいのだが、特にエラは俺の事を慕ってくれている。


「いや、俺はこの国から追放になったから、エラがついて来たら色々問題がある。

 それに俺はこれを機会に冒険者になろうかとも思っているんだ。

 愛するエラに危険な冒険者なんてさせられないよ」


「まあ、そんな危険な事をされるお兄様をお一人にはできませんわ。

 私も一緒に冒険者をさせていただきます」


「いや、いや、いや、男だってとても危険なのが冒険者という仕事だよ。

 女性には更に男にはない危険までつきまとうんだ。

 公爵令嬢が冒険者を始めるなんて、野卑な連中に襲ってくれと言っているようなものだよ、絶対に連れて行くわけにはいかないよ」


 俺は父上と母上に視線を送って一緒に止めてくれるように合図した。

 それでなくてもエラは父上や母上が選んだ婚約者候補をことごとく拒絶していまい、未だに婚約者が決まらないという異常事態になっているのだ。

 公爵令嬢が十六歳にもなって婚約者がいないなんて、普通ではありえないのだが、父上も母上もエラにはとても甘くて、それを許してしまっているのだ。


 だがいくら何でも冒険者になるという我儘は許さないだろう。

 そんな事をしてしまったら、ハザートン公爵家を貶めたい連中が、エラの名誉を穢し貶めるような嘘八百を広めようとするのは間違いない。

 ここは家族で一致団結して止めるべきだ。


「まあ、そんなにかたくなに決めてしまう事はないわ、ノア」


 はあ、何を言っているのだ母上は。

 俺の考えている危険性くらい、長年社交界で権謀術数をめぐらしてこられた母上ならば、一瞬で考えつかれているだろうに。


「そうだな、冒険者になると言うのは流石に認められないが、ノアと一緒に他国に留学するというのなら認めてもいいと思うぞ。

 そうなったらノアも冒険者になるというような危険な事はできないだろう」


 ああ、我が両親もジョージ国王の事も非難できないくらい子供を溺愛している。

 エラの言う事を認めた上に、俺の冒険者志望を潰そうとしている。

 過保護は子供のためにならないのですよ、父上、母上。

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