第12話 ペルデマキナ回収任務・再び


 出勤して早々、支部長室に呼び出された俺とエミリエは、妖しげな笑みを浮かべる幼い少女の前で二人並んで立っていた。


「さて、君たちを呼び出したのは他でも……なにしているんだい?」


 本題に入ろうとしたであろう支部長が、俺たちを見て不思議そうにしている。その顔は年相応で、珍しくも子供っぽい。

 対して、俺は唇を結んで不機嫌全開。態度が悪いとわかってはいても改めることができずにいた。

 そして、いつもせんぱいせんぱいとうっとうしく絡んでくるエミリエは、珍しくしおらしい態度で、恥ずかしそうに俯いていた。

 俺の機嫌の悪さはともかく、まず見ないであろうエミリエの態度。支部長が不思議がるのも無理はない。

 と、思っていたのだが、支部長は直ぐに納得したように頷くと、呆れたとばかりに首を左右に振った。


「やれやれ。あれだけ毎日好意を全面に出しているんだ。たかだか下着一枚見られた程度で恥ずかしがるものではないよ?」

「なんで知ってるんですか!?」


 この幼女は本当に怖い。人の弱みを握るために、毎日監視していると言われても信じてしまいそうなほどだ。エミリエも驚いている。首筋まで赤い。

 そもそも、どうやって知ったのか。あのクソったれな、思い出すのも苦痛な出来事は誰にも話していない。当然、当事者であるエミリエもいわずもがな。それを知っているとか、通信を傍受したとしか考えられないのだが……。それとも、俺たちの行動から推測したとでもいうのか? 確かに、挙動不審であったが、そこまでできたらそれこそ魔女だ。

 魔女疑惑浮上中の幼女は、なにが面白いのか声を上げて笑う。


「はっはっは。私に隠しごとができると思わないことだね」

「~~っ!? だいたいですね!? 下着を! 男性に! 買ってきてもらった女の子の! 気持ちがわかりますか!? しかも女子トイレまで!!」

「女性物の下着を男一人で買って、女子トイレまで届けた男の気持ちは?」

「ほっとうに申し訳ありませんでしたぁっ!!」


 不機嫌を隠すさず、ドスの効いた声で言うと、土下座しそうな勢いで頭を下げてきた。

 今回の件については、エミリエも相当反省しているらしく、珍しくしょぼんと落ち込んでいる。少し可哀想ではあるうが、良い薬ではあるし、しばらくはこのままでいいだろう。……どうせ、直ぐに元のうざい自称後輩テンションに戻るに決まっている。

 束の間の安らぎだと黙している俺とは対照的に、支部長はエミリエ《おもちゃ》で遊びたくてしかたないようだ。


「ふふ。そんな面白おかしいことは、今度お酒のつまみにして、だ」

「しませんけどね!? 後、その見た目でお酒を飲むのは犯罪です!」

「安心したまえ。成人済みの十歳だとも」

「っんとうにこの人はぁ~~っ」

「仕事の話に戻してください」


 話が脱線し過ぎだ。強引に話題を切り替える。

 相変わらず、引き際は見事というか、人の感情の動きをよく理解している。今にも爆発しそうなエミリエを見て、話題の転換に乗ってきた。爆発処理班もビックリの手際である。


「そうだね。名残惜しいが我々は公務員。国民の血税で養われているんだ。国民が納得する程度には、働かなければね?」

「……支部長」


 この人は、どれだけ遊んでいたいんだ。

 しかも、サボっているように見せて、仕事はキッチリこなしているのだから怒るに怒れない。自身の仕事をこなしたうえで、時間が余ったから遊んでいるんだ、この支部長は。

 そんな優秀で怠惰な支部長の下で働くことになって喜べばいいのか、嘆けばいいのか、判断に困るところである。


「君たちを呼んだ理由だが、当然、任務だ。ただし、再任務といったほうが正しいかな? それとも、リベンジ?」


 支部長の言わんとすることを察して、勢いよく顔を上げてしまう。

 俺がこの支部に所属してから、再任務と呼ばれるような仕事で思い付く任務はたった一つしかない。

 知らず固くなった声で、俺は確認する。


「それは、前回俺が回収に失敗したペルデマキナの反応があったということですか?」

「その通り。素晴らしい理解力だ。熱烈なちゅーをしてあげようか?」

「いりません」

「ふふふ。では、本当にしたい時は、勝手にするとしよう」


 その時は見た目の幼さなど構わず、正当防衛で叩き斬ろう。


「察しの通り、前回君たちから報告を受けた小瓶型のペルデマキナで間違いないだろう。一度観測しているからね、起動さえすれば反応を追うのは容易かったよ」

「では、それを回収してこいという任務ですね?」

「そうなのだがね……」


 言い淀む支部長。

 ただ、言い淀んだ理由は言いづらいとか、ためらったわけはないと直ぐに察せられた。なぜなら、支部長の顔には明らかに挑発的な感情が乗っていたからだ。


「湊斗君、それにエミリエ君。君たちは前回のこの任務を失敗しているね?」


 そう……なる、か。

 予想していたことではあるが、直接言われると堪えるものがある。


「そうですけど。それは邪魔が入ったからじゃないですかぁ」

「その通り。だが、今回は邪魔が入らないとでも? あの白い仮面を被った何者とかね」


 エミリエの返答に、同意しつつも支部長は切って捨てる。

 エミリエとてそう言われるのはわかっていただろうが、精一杯の援護といったところだろう。申し訳なさそうに俺を見上げてくる。ただ、こればかりはどうしようもない。

 既に任務の結果は出ており、失敗を成功に変えられはしない。

 俺は重くなった口をどうにか動かす。


「それは……ないでしょう」

「ふふ。ここで否定しようものなら、湊斗君の評価を改めなくてはいけなかった。まあ、当然の反応だ。なにせ、小瓶型のペルデマキナを回収したのは白い仮面の何某、そうだね、ライリー・トレジャーの銃を使っているのであれば、仮称、ライリー・ファントムとしておこうか」

「ライリー・ファントム……!」


 エミリエが目を輝かせる。ペルデマキナマニアの彼女には琴線に触れたらしい。傍から見てもその仮称を気に入っているのが見て取れる。

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