第4話 捕獲任務完了

 ペルデマキナを起動させると、男の心臓部分に薄い黄色の水晶玉が吸い込まれていく。

 二度、三度、身体が震えたかと思うと、バチバチと身体中から青い火花が散る。男の身体から発生している青白い火花は――電気。

 俺はすっと目を細める。心が冷めていくのが理性ですら理解できる。

 こいつ、人が大勢いるこんな街中で、どんな性能かも理解していないペルデマキナを起動させやがったな……?

 血が滲みそうなほど、拳に力が入る。けれど、努めて冷静に男へ話し掛ける。その声は、あまりにも冷たくなっていたけれど。


「静電気体質か? 服の相性考えて着る物選べ」

「っ、こいつはどこまでも……! 見ろ! 今、このペルデマキナの力でオレの身体は電気になった! それがどういう意味か分かるか!?」

「マスコットにもなれねぇ醜いおっさんが静電気をバチバチさせて近寄りたくなくなった」

「ちげぇ!? オレに攻撃ができなくなったという意味だ!」


 攻撃できなくなった、ねぇ?

 勝ち誇る塵屑。高揚しているのか、よく滑る口は止まらない。


「もうオレは誰にも触れられねぇ! 攻撃されても電気の身体を通り抜けるだけ! 捕まえるなんてもってのほかだ! この力さえあればオレはなんだってできる! 最強だ! 金を奪い、女を襲い、目障りなお前らをぶっ殺したとしてもオレは――」

「――舐めるな下衆ゲスが」


 俺は一瞬で下衆野郎に詰め寄ると、背負っていた蛍光灯に良く似た剣をどてっぱらに突き刺す。

 動きが速すぎて見えなかったのか、下衆にはよく似合う間抜けな声を上げている。


「な……あ?」

「俺は、お前らみたいなペルデマキナを自分勝手に使う犯罪者が一番嫌いなんだよ。殺したいほどになぁっ!!」


 お前みたいのがいるから俺の……っ!!

 感情が昂る。目の前の男を殺したい、どす黒い衝動が心の奥底から湧き上がって止まらない。

 けれど、電気が弾けるだけでなにも起こらない。血すら流れない。

 そのことにようやく気が付いたのか、男は顔を青褪めさせながらも、乾いた笑い声をあげる。


「は、はは……効かねぇよ! 死ぬのはお前だ! い、いつ刺したのかは分からなかったが、どうあれオレに攻撃は」

「低能に教育してやろう」


 下衆野郎の言葉を待つつもりはない。こいつの耳障りな声など聞きたくもない。

 俺は努めて冷静を装いながら、バカにも分かるように淡々と説明していく。


「今のお前は電気だ。全うな攻撃が効かないというのはその通り。剣で刺そうが銃弾が身体を突き抜けようが、ダメージにはならん」

「あ、当たり前だ!」

「だが、お前に電化製品のコンセントを刺したらどうなる? 例えば、ドライヤーのコンセントを突き刺したら? 熱エネルギーに変換されたお前の身体はどうなるのか」


 実際には、なんの調整もされていない電気に突き刺したところでドライヤー本体が持たないだろうが、今重要なのはそこではない。


「さて、問題だ。今、お前の腹に刺さってるのは電気を吸収して光に変えるレナントマキナ――つまり、お前の古代文明の遺物と違って、これはただの現代機械、それこそ極論を言えばドライヤーなんかの家電製品と変わらないわけだが、この状態で起動したらどうなるか……分かるか? 低能」

「や、やめっ!?」

「さっきも言ったが、俺はお前らみたいなペルデマキナを悪用する塵屑ごみくずを殺すのに、なんの躊躇いもねぇ。――じゃあな、人類の汚点。来世では真っ当に生きるんだな。≪OPEN ELECTRO」

「ひ、ひぃいっ!?」


 腹に突き刺さった剣を起動させようとすると、俺の言葉でどうなるかを想像した男が慌てて後退する。

 その拍子にこけてしまうが、そのおかげで腹から剣が抜ける。


「しゃ、≪CUBAREクバーレ TONITRUSトリトルス≫!!」

「腰抜けが」


 ペルデマキナを停止させた男の頭を、俺は躊躇なく剣で殴りつける。当然、電気じゃなくなった生身の男に攻撃は当たり、恐れもあってか簡単に気絶した。

 惜しむらくは、俺の持っているこの見た目蛍光灯の剣に刃はなく、起動していなければちょっと丈夫な鈍器を逸脱しないことか。下衆野郎をあっさり殺せるような類の武器ではない。


『うっわ。情けないですね~。運が良ければ、即死しないでせんぱいに攻撃できたでしょうに。ま! 今日、先輩が着ている制服は絶縁加工を施した私の自信作ですから、なにをしたところで無意味でしたけどね!!』


 また、鬱陶しいのが映像通信でっ!


「黙ってろ」

『も~、せんぱいダメですよ~? 今のは、頑張った私を褒めて下さいっていういじらしい後輩のアピールじゃないですか~。そういうとこ、汲み取って欲しいんですけど~』

「それが仕事だ」

『あ、ダメですよそういうの。仕事だからって褒めないのは。ブラック体質の始まりです。私は先輩がブラック気質でも、どこまでも付いていきますけどね!』

「仕事しろ。報告。犯人確保。連行のための車両を回せ」

『了解で~す! 可憐でかわいい仕事ができるタイプの後輩エミリエちゃんは、せんぱいのためにお仕事がんばっちゃいますよ~』

「アピールがうっとうしい」


 今度はあっさりと映像が消えた。というか、さっき通信をオフにしたはずなんだが、どうやって繋いできた? ハッキングか? 国家所属の警察組織がハッキングか?

 耳に残る甘い声を振り払いながら、白目を剥いて気絶する容疑者を拘束しようとして、止まる。

 意識のない、無防備な下衆野郎をじっと見つめる。


「……あくまで捕まえるための脅し。殺す気はなかった、か」


 俺は溜め込んだ感情を吐き出すようにため息を付くと、今度こそ男を拘束していった。

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