第339話 禁断の果実

 本日ハ晴天ナリ。


 ええ、絶好のハイキング日和ですね。では、参りましょうか。行きますよ、ヘカさん、ワラさん。


 はい! という訳でー今日はヘカトンくん&ワラビwithシアンでハイキングがてら山の実りの採取クエストに来ています!


『眠い......』

『何探すの?』


 皆が起きる前の出発なので、いつも早起きして頑張ってくれているヘカトンくんは元気だけどワラビがフラフラしている。お前野性味が皆無になったな。

 皆のご飯はちゃんと準備してきたから、きっと誰かが配膳してくれるだろう。


 さて......今日は何故この珍しいメンバー構成で行動しているかというと、本日の採取クエストは、とある桃の納品だから......ね? 誘惑に負けない自制心のありそうなメンツで挑まなければならないのだ。もうあんなあんこ見たくないねん俺は。


「んとねー、色々とアブナイ桃が欲しいのよ。前にあんこがそれを見つけた時はヤバい事になっちゃってねぇ......だから万が一のなさそうなしっかり者のヘカトンくんとワラビに着いてきてもらったのよ」


『......わかった』

『任せて!』


 目が覚めてきてシャンとしてきたワラビと楽しそうなヘカトンくんが元気よくお返事をくれた。このメンツでお出かけとか少ないからねー......なかなか一緒に居られなくてごめんよ。


 とまぁ、何故今俺があの憎きシャブ桃を欲しているのかと言うと......アレだよ。この前のくそむかつく探索隊へ嫌がらせする為である。

 無事に桃が確保出来たら、草野ダンジョンに行って宝箱を貰ってきてそれに詰めて、ひとつなぎの大秘宝爆弾(笑)が眠っている場所に納品する予定となっている。一応高級品らしいし。


 ......ふむ、でもアレだ。なんか鑑定阻害するアイテムとか無いかな? 鑑定で仙桃とかレアなモンが表示されれば欲の皮が突っ張ったゴミ共が穴の中で殺し合いとかなって面白そう。勝者は鑑定結果を疑わず食って......ガンギマる。うん、一粒で二度美味しい。

 ふふふふ、見つけたら草野に聞いみよう。んでそれっぽいのがあるんなら徴収。


「てなワケでなんか桃っぽいイイ匂いがしてきたら教えてねー。その匂いにホイホイつられちゃだめだからねー」


 ワラビは俺よりも嗅覚鋭そうだから頼む。人間はね嗅覚を鋭敏にしたらいけない生き物だから俺はやらない。山の中とかで嗅覚強化したら絶対にヤバい事になるのがわかるもん。あ、ホイホイされたら葉っぱか劇物を直食いしてもらう予定デス。


『んー?』


 いつもやらない行為をしているのが可愛い。ワラビはお鼻をヒクヒクさせて周囲の匂いを嗅いでいる。

 そのワラビの首にしがみつきながらヘカトンくんもクンクンしていてホッコリする。


 そのままクンクンしながら進む二人を慈愛溢れる眼差しで見詰めながら歩いていく。これは......なんだろ? 公園デビュー当日の子どもがおっかなびっくり遊具に近付いていくのを見守る親の様な心境なんだろうか。うんうん、とっても微笑ましいぞ。


『ん? ......多分こっち』


 未婚のままの癖にパパ気分に浸っているとワラビからオコエ......お声が掛かる。どうやらそれっぽいオイニーを見つけたらしい。

 ヘカトンくんには全然感じられないらしく悔しそうにしながらクンクンするのを強めた。可愛い。


 さてさて、見つかればいいし見つからなければまだまだこの様子を見てられる。どっちになるんだろーなー。ふふふふふ。




 ◇◇◇




「くぅん......」

『居ない......』


「きゅぅぅぅぅ」ビタンビタン

「メェェェェ」ペチンペチン


『はぁ......ダイフク手伝って。あの人の事だからご飯は準備してあるだろうし』

『眠いぃぃ......わかった......』


 目を覚ましてすぐシアンが居ない事に気付いた従魔ズ。その反応は様々だった。

 朝イチから甘えたかったであろう甘えんぼたちはしょんぼりし、シアンが居ないのでご飯はどーなるの? とお気持ち表明している腹ペコツインズ、こういう時に率先して準備に取り掛かるヘカトンくんまでも居ない事に気付いたホワイトコンビは自分らがやらないといけないと悟り重い足取りで動き出す。


『アイツらは......使いもんにならないか。まぁ新人だからしょうがない』


 どうしていいかわからず、部屋の隅でオロオロしている新人は放っておいてピノはテキパキと朝食を並べていく。彼らはつい先日まで結構賢い程度の普通の動物だったのだ、物凄く強くて頼りになるパイセンたちが織り成すカオスフィールドに困惑してしまうのはは仕方ないだろう。それに収納袋とかも使い方がわからないし準備の役には立てそうにない。


『はいはい、アレが帰ってきたら甘えればいいでしょ。腹ペコ姉妹が限界だからご飯食べようよ』

『ふぁぁぁ......ほら、サトウとモミジも準備出来たからこっち来な』


「くぅ」

「きゅいぃ」


 いいの? 本当にいいの? 行って大丈夫? と潤んだ瞳で訴えながらも、ダイフクの招きが止まらないので恐る恐る用意された席に着く新人コンビ。特に上下関係も仕来りも無い、有るのは長女がその頂であるだけのシアンファミリーだが、信じられないくらいの格上ばかりでその事を未だに信じられない新人ちゃん。胃を強く持つんだ!!


 そんなストマックにメイクアホールな心境でも、ご飯が美味しいから何故か食べれちゃう不思議な体験をしながらシアン不在の朝食は進む。


『むぅ......』


 今日は特別甘えたかった気分なのだろう。長女の周りの空気が冷たい。


『落ち着いて。気持ちはわかるけど新人ちゃんたちが冷えちゃう』


 同じく甘えたかったツキミが必死に長女を宥める。

 忘れてはいけない。ラ〇ィッツと農民以上に力の差がある事を。


「くぅ......」

「きゅい......」


『あ、ごめんね......』


 早く人外魔境に慣れるんだ!! 頑張れ新人!!




 ◇◇◇




「ふぅ......意外と時間が掛かっちゃったな」


 シャブ桃の回収を終えた俺は地面に座ってワラビとヘカトンくんを労う。いやー大変だったわー。




 ワラビの先導で向かった先にあったのはシャブ桃の群生地だった。

 その近辺にはガンギマってパッキパキになった野生の動物や魔物が跋扈していて......それはもう地獄のような光景だった。


「ね? アブナイでしょ? 誘惑に負けたらああなるから本当に心を強く持ってほしい」


『う、うん......』

『大丈夫』


 現場に近付くにつれて段々とソワソワが強くなっていたワラビだったが、シャブ桃中毒者共を見るとスンッと冷静になった。流石っす!!

 ヘカトンくんは全くシャブ桃のテンプテーションが効いていない様で一安心。さすが元ダンジョンボス! 状態異常耐性バッチリだね!!


 とまぁ、ここまでだったらシャブ桃やヤク漬け共の夢の跡で済んだんだけどねぇ......ジャンキーの執念をちょっとばかし甘くみていたんだよ。


「とっとと回収してこの場から離れよう。はい、この袋に桃を詰め込んでってねー」


『わかった』

『任せて』


 この時点では木は残そうと思っていた。あとジャンキー共も放置しようと思っていたんだよ。


「ギャ......ギャハァ......ッ!? ギャァッ!!」

「ウぺぺぺぺぺぺ」

「ヌッハァァァァン」

「ぇはんっ」


 んでそんな死屍累々を放置してシャブ桃を回収しようとしたらむっくり起き上がって奇声を撒き散らしながら襲ってきたのよ。常識で考えられない存在って怖いよねほんと。

 んで、ソイツらの奇声にはイャン〇ック先生のような効果があったらしくて、来るわ来るわの大連続狩猟クエストに発展。んで、虐殺を経てシャブ桃を木ごと回収して今に至る。


 最初見つけた時何もいなかったのが奇跡だったんだろう。ほんとマジでヤク、ダメゼッタイ。シャブは売っても打たれるな。いや売るのもダメだけど。


「シャブ桃のエキスを抽出して劇物汁を混ぜて葉っぱを添えたらDCSなんかよりもよっぽど悪どいもん出来そうだなぁ......今度敵が来たら血管に直接注入してたべさせてあげよう」


『ねーねー、コレどうする?』


 物騒な事を考えていたらワラビにジャンキーの処分をどうするか聞かれてしまう。どうしようかこの山のようなゴミ......


「......んー、一応聞くけど食おうと思う?」


『いらない』

『いらない』


 ですよねー。知ってた。


「燃やして帰ろっか......もう疲れちゃったよ」


 二人は無言で頷く。ヘカトンくんが石のドームを魔法であっという間に作り、俺がそこへ油をぶっかけ、ワラビが落雷を落として着火。


『お疲れ』


「うん......今度また普通にハイキング行こうね......」


 そのまま口数少なく家へ直帰すると、寂しかったらしい天使たちにもみくちゃにされた。ありがとう、ちょっと気が晴れたよ......


 みんなーヤク、ダメゼッタイ。犬のお兄さんとの約束だよ。

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