第337話 タカとウサギ

「かわいいなぁ......人懐っこい動物って」


 しみじみ思う。いくら外見が愛らしくとも人懐っこくなければ宝の持ち腐れである。こう考えてしまうのは人の傲慢さ故だろうが、それでも愛嬌が無いのは無理。

 例えばだが、諸君らは性格がクッソ悪くて生命を狙ってくるレベルの暴力性を兼ね備えた超美人と一生を共に過ごせるかい? ......俺は否だ。断じて否だ。一発ヤって即サヨナラならばまだ......ってレベル。そんなんが触れあいも無く愛想も無いなんてもう、ね?


 という訳で異世界でも俺はネコ科と袂を分かつ運命らしい。......クソッタレぇぇぇぇ!!


 強がってみたモノの悲しいモノは悲しい。表面では無表情を貫きつつ内面で滂沱の如く涙を流しながら目の前の二匹に語り掛ける。

 動物は感情の機微に敏いと言う。それは本当なようで、まだこの子らと触れ合うのは二回目だというのに俺のポーカーフェイスを看破したらしく、俺の声に耳を傾けながら心配そうなお顔で俺を見詰めてきている。しゅき。


「俺の話してる事はわかるかい? しっかり理解出来てるのなら首を縦に、ある程度理解してるのなら横に、わからないなら......それ以外の行動になるか。さぁどうかな?」


 フルフル。


 俺の問いかけにウサギとタカは横に首を振る。なるほど、ある程度でもわかってるならいい。わかっていなくても後で誰かに通訳を頼めばいいんだけど、わかっているならこの後の工程が省かれて楽になる。


「キミたちはあのハシビロコウとウサギに忠誠を誓ってたりする? イエスなら縦に、ノーなら横に、それ以外ならそのままで」


 ............ジィッ。


 ウサギとタカは俺の目をジッと見続ける。首を動かす気配は無い、と。なるほど? 群れの長とは認めつつも忠誠心はない......的な感じか?

 くっ、それにしてもコイツらくっそかわいいやんけこのやろーめ。


「......ふぅ。なら群れごと取り込まれていて仕方なく配下にって感じ? まぁいいか、ねぇ君たちウチの子にならない? 大事にするよ?」


 コクン。


 まぁっ!! 考える素振りもなく即答で了承して貰えましたよ皆さん!! ひゃっほい!!

 はぅぅぅぅ~かぁいいよぉぉぉぉ!! お持ち帰りぃぃぃぃ!!


「じゃあこれからよろしくね。タカくんは......サトウ、ウサギちゃんは......モミジね」


 魔力を吸わせてパスが繋がる。うんうん、いいね。家族が増えたよ!!

 ウサギは真っ白だからまんじゅうにしたかったけど女の子だからモミジにした。もみじ饅頭おいしいよね。タカはサトウ。サトウ・タカ。

 さて、無事にうちの子になった現地生物なこの子たちだけど魔力を上げても進化しなかった......残念。でも使えるようになってすぐの辿々しい念話で伝えてきたのは、これから時間をかけて変わっていくとの事なのでこの子たちは今後に期待。このまま進化しなくてもいいけど、その場合寿命が気になる。

 ............五年待って現地生物のままならばちょっとだけ介入劇物させてもらおう。うん。


「クルルルルッ」


 ウチの子ってオスはツンデレ、メスはデレデレになる傾向があるんだけど、このサトウは珍しく物凄いデレデレな子。

 ツキミちゃんでわかってたけど、懐いてくれる鳥ってすっごい可愛い!! もう一度言う、すっっっっごい可愛いっ!!


「ここか、ここがええんか?」


 頭を指で搔くようにコリコリしてあげると気持ち良さそうに目を細めて「もっともっと」と頭を押し付けてくる。甘える猛禽類って見た目とのギャップが凄くて萌える。

 モミジちゃんはというと、幸せそうにピスピスと鼻を鳴らして寝ていた。夜明け間際な今、眠い中一生懸命駆け付けて運ばれてきてくれた疲れが出ちゃったんだろう。可愛い。




 ◆◆◆




 まだ薄らとも陽光の差し込んでいない彼は誰時――


 真っ暗な山中を一頭の獣が疾走していた。




 今宵も又、人身御供として捧げられた人を甚振り、追い詰め、弱りきった贄を食す至高の一時を優雅に味わう筈だった。


 いつものように我が神域の中に放った贄を一夜掛けてじっくりと調理し、いざ実食――というタイミングで我は召喚された。


 神である我を、愚物が召喚した。許されざる行いだろう。


 別世界から我を喚ぶ――それも、我に一切抵抗させる事の無い程のエネルギーはどうやって捻出したのか。そんな事の為に何人もの人間を贄とするくらいなら我に捧げろと言いたかったが、驚く事に我が喚ばれた先には人間が一匹居るのみで、ただの真っ暗な山か森の中、大規模な術式を行使した儀式の形跡も無い。


 何だこれは、よもや神の一柱である我を人間如きが奇跡的とも言える偶然で召喚する事にに成功したと言うのか......? 不敬だぞ、人間がァ!!





 ―――な、何が起きた!? まさか、人間だと思っていたアレは......我よりも神格の高い神とかなのか!?


 素の力では全く歯が立たず、己の神域では無い為に全力を出せてはいないが、それでも人間相手には過剰とも言える力を行使して相手をした......だがそれでも結果は変わらず。逆に恐怖する程の力の奔流を感じてみっともなく逃げてしまっている。力の奔流というか死そのものというか......とにかくヤバかった。


 屈辱だっ!! だがしかし、死ぬ訳にはいかない。悔しいが背に腹はかえられぬ!! そう思いながら逃げ出したのだ。生まれて初めての、全力逃走。


 臨戦態勢のこちらを事も無げに遇い、剰え捕らえて死を覚悟させられた。


 アレは言った。死か恭順か、と。

 プライドも何もかも取っ払って恭順を示そうと思っても、本能が全力で邪魔をしてそれは破談となった。あの心の底から湧き出る嫌悪感のようなモノは何だったのだろう......今も解らない。



 どれくらい駆けたか解らないが、今でも背後に感じる濃密な“死”そのものから逃げる為、脚を止めずにただ駆ける。

 振り返って確認する時間すら勿体ない。一定の距離を保ちながら追う“死”がただただ怖い......


 山を抜け、草原に出る―――まだ追ってくる。

 草原を越え、森に入る―――まだ追ってくる。

 駆けてダメなら翔べば......と、神性を解放して飛翔―――が、ダメッ。まだ追ってきている。


 シアン山から脱走し幾星霜約一時間、空が白んできたタイミングで猫とシアン玉の均衡が崩れる。


「はぁっ!?」


 突如前脚が笑いカクンッと崩れ体勢が崩れる。全力疾走中に膝が笑えばどうなるか......そうだね、転ぶね。


 普段から全力を出して行動する事など無い。それ故の、加減を知らないからこそこれ程早い消耗をしてしまった。早い話、ガス欠を起こしてしまったのだ。


 惨劇を回避する為に己の持つ力の全てを使い駆け続けたのだから、如何に神だろうが仕方ない事だろう。これまで送られてきた贄相手にしていた事、そっくりそのまま同じ事をされているのだが......それに神は気付かない。


「巫山戯るな!! 巫山戯るな!! 巫山戯るな!!」


 狩る側が狩られる側に回った。攻めるしかしてこなかった。守る事など考えないから、脆い。


 全力を出して漸く均衡が保てていた。


 全力を出す事が不可能になれば―――


「巫山戯ッ―――」




 この日、神の一柱がこの世から完全に消滅した。




 ◇◇◇




「じゃーん!! 紹介します!! 新しくウチの子になったサトウくんとモミジちゃんです!! みんなー仲良くしてあげてねー!!」


 なんかあの後は寝られそうもなかったので新人ちゃんたちをシアン邸(結界内)にご案内し、新人ちゃんたちがなかなか野性的なスメルをしていた事もあり一緒に朝風呂をする事に。


 初めての(赤い)お湯、初めてのお風呂(温泉)に怯え戸惑うタカとウサギだったが、桶にお湯を汲んで浸けると一気に蕩けた。見た目怖いもんね、湯気が立つ真っ赤な泉だもの。


 もっと水を怖がるかなって思ったけど、すんなりと虜になり簡単に丸洗い出来た。そして完成したのはイケホークと美ウサギ。うん、いい仕事したぜ俺!


『わぁ、早かったねー! よろしくー』


 ウチの子一人一人が順々に挨拶していくハートフルな光景にだらしなく顔が緩む。可愛い。

 でも早かったってなに? 予測出来てたの?


「何にせよ、これからよろしくね!」


 すんなり迎えられてほっこりした所で歓迎会を兼ねた朝食作りへ。おじちゃん頑張ってご飯作るからね!! あんなヤツらの所に居るよりも此処に居る事が幸せだって事を骨の髄まで教えこんであげるから!!




 ──────────────────────────────


 こっちでもギフト頂けました! わーい!! 本当にありがとうございますぅ!! いつも読んで下さる読者様もいつもありがとうございます!!


 さて、関東が慣れない雪でアレなので関東住まいの方は帰り道は十分にお気を付けください。もちろん慣れている都市にお住まいの方もお気を付けください。帰れるかなぁ今日......明日の朝、凍結とかで混乱しないといいなぁ。それと来週から暖かくなるようなので、既にキている花粉が本格的に飛びやがりますね......憂鬱だわぁ......花粉滅ぶべし......

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