第336話 シアンの野望

 落ち着いた。


 アニマルセラピーってしゅごい。いやほんとマジで。


 やっぱり可愛いは正義。もふもふも正義。


「きゃうんっ!」


 あんこが渾身のドヤ顔をキメた後、揉みくちゃにされて地面に寝そべる俺のシャツの隙間へ腹側から侵入し、胸の所から顔を出して鳴く。

 最近そんなに入れてなかったね、そういえば。懐かしいなぁこのスタイル。しゅき。


「ぃよっこいしょぉ」


 世界一有名なマイケルさんもビックリな、仰向けから直立への滑らかな移行。なんとなーく今思い付きで試してみたんだけど、これを余裕で出来ちゃう俺ってなんなんだろ......重力や人体構造を完全に無視した動きを出来るようになったんだなぁ......いやぁ成長したんだなぁすごいなぁ感慨深いぜー。


「まぁいいや、ベッチョベチョになった事だし風呂に浸かりたいから風呂行こう風呂。入りたい子いたら着いてきてー」


 精神疾患を患った人から引率の先生にジョブチェンジ。後ろをちょこちょこ着いてくる子、俺に乗っかって楽をする子、自分の定位置に収まる子と色々居て可愛い。




 ............十数歩くらい歩いたらちょこちょこ着いてくる子がワラビしか居なくなった。いや、まぁそれは別にいいんだけどね幸せだから。

 ただちょーっとだけ歩きにくいかなーって思うだけさ......HAHAHA。




 ◇◇◇




 ――その日の深夜、皆が寝静まった頃......動き出す影が一つ。寝ている者を起こさぬよう慎重に寝床を抜け出し、家を出て更に外へと歩を進める......



「ふぅ、ここまで離れればいいだろう......さてやるぞぉ!!」


 山中にある森の中、出来るだけ異世界初日に見た景色に近い所で実験開始。



「猫、俺によく懐く猫......そして俺に優しい猫......俺と共に生きられる猫......あんよが短い猫......名前は覚えてないけどイメージは動画で見たからしっかりと出来ている......あんよが短くて動画でバズるような猫でお願いします......人懐っこい猫が都市伝説じゃない所を俺に見せてくれ......さぁ、かもーんぬ!!」



 俺の未練を断ち切る意味を込めた召喚。

 懐く猫という都市伝説の確認......誰にでも懐く大人しい猫という評価を受けている猫が俺には近付きもせず、その猫の飼い主が初めてこんなんなってるこの子を見たと言った程のガチ拒絶を俺にカマした。そう、俺にとって懐く猫というのはハイファンタジー小説よりも余程ファンタジーなのである。

 なればこそ、このガチファンタジーの世界に実際に来た俺ならばそのファンタジーな猫がファンタジーじゃない証明を出来るかもしれない。......まぁあの説明を読む限り無理なんじゃないかなーって思ってる。

 でも例えハズレが出る確率が九割九分九厘九毛九糸九忽九微九織九沙九塵九挨九渺九漠のクソガチャでも、試して見て実際にダメと確認出来れば、スッパリ諦められる。


 そんな重い思いを込めた一世一代の大博打。伸るか反るか、丁が半か、表か裏か......



 骨喰さんを召喚した時よりも禍々しい召喚演出が目の前で起きている――うん、もうダメっぽい。


 漆黒の稲光と深紅の稲光が召喚陣を囲うように踊り狂い、混ざり合い、黒いスモークを発生させた。

 周囲の木々は騒めき、軋み、葉を舞い散らせ、野の草は揺れ、花は散り、砂塵は巻き上げられ、それらは闇夜に溶けていく。


「......アレだな、悪魔召喚や邪神召喚って雰囲気だなぁ。何かの生首とか死体とか......贄的なのがあれば完璧やな......」


 確信を持って言える。あっ、こりゃダメだ、と。

 ネコ科のモンスターってどんなのが出てくるのかなぁ......はぁ、不幸だ......


 やがて、演出が収まってくると次第にその姿が顕になってくる。

 このタイミングで俺は右手にブラックホール、左手にもブラックホールを発生させた。この時の俺は迷っていた......某ツンツン頭の不幸さんのように全てを打ち消そうか、某ラーメン忍者さんのように玉と玉を掛け合わせてヤバい玉を作成しようかと。


 この俺が迷って考え込んでいた時間の所為で、喚び出してしまったヤバいネコは完全に顕現し、ネコ科特有の猜疑心警戒心の高さ&危機感知能力で瞬時にその身を闇に溶け込ませたのだ。


「フシュルルルルルルルル......」


 慌てて追おうとするも、ヤツは逃げてはいなかった。

 俺をぶち殺して自由になろうとしているのか、ヤツの発する殺気がヒシヒシと伝わってくる。


 強いんだろう、生き物の中では。


 でも残念だけどね、これくらいの雰囲気ならいくら俺に攻撃を加えようとライフが0になる事はないんだよ......


 このまま待っていても俺が気を抜くまで何も仕掛けてこない雰囲気が出てきていたので、ここは思い切って全身隙だらけになってやろうと思う。どうせなら可愛くじゃれてほしい......最後の思い出に......


「あ、あー......魔力使いすぎて眠くなっちゃった......あんな演出出たのに何も喚べてなかったのは残念だよ......はぁ、悲しいなぁー......今日はもうダルすぎてこのまま寝るしかないわぁー」


 一気に空気を弛緩させるやる気のない声、瞬時にその場に仰向けで倒れるこのダメオ力、本当に後はこのまま寝入るだけにしか見えない演技力の合わせ技。これはもう合わせて一本だろう。


「.....................」


 本当に目を閉じ、寝たフリをしながらネコ科の気配を探っていく。

 俺が本当に寝落ちるまで待機するつもりなのか、右斜め後ろの樹上から俺を狙っているのがわかる。


 ふむ、大きさは大型犬あんこ以上ワラビ未満、体毛は多分黒、なんていうか......俺が想像していたあんよが短い猫とはかけ離れた姿形。


 なんというかナルガ〇ルガからブレードを抜いたようなフォルムをしている。怒らせたら目が赤く光るのかしら......

 ナル〇クルガって当時結構好きだったなぁ。ケル〇を襲って食べている所を生暖かく見守った事は数え切れない。ただし、尻尾ビターンはだけは嫌い。アレは可愛くないし慣れていない頃何度か殺られたから。


 っと、ちょっとずつ近付いてきたな。

 ポンコツ鑑定さん、よろしくお願いします。また先生って呼ばれるように頑張って欲しいんですよオラァ!!


 ▼ブバスティス


 ゆうて いみや おうきむ

 こうほ りいゆ うじとり

 やまあ きらぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ▼


 そっかー......そっかぁ......

 コイツぁおでれぇたぞ。名前だけはわかった。能力や生態、備考とかはふっかつのじゅもんなのかぁ......


【急募】鑑定さんを有能にする方法


 さて、とりあえずコイツはウチの鑑定野郎よりも上位存在という事か。ダンマスのクソジジイは一応神っぽい名前を冠していたけど読めたし......


 んー......まぁいいか。


 鑑定結果諸々に対して思考を巡らせていると、これを好機と見たもょもとが動き俺の横へ音も無く着地。流れるような動きから頸動脈へと爪を振り下ろした。


「......!!??」


 そんな驚かなくてもいいと思う。てかなんだろうか、ネコ科は頸動脈を狙うのが習性なのかな......前にじゃれついてきていたと思っていたネコ科の何かもそういえばずっと頸動脈辺りをガジガジしてたし。後に天使たちから『アレ、あんたを殺そうとしてたよ』って真実を告げられたし......


 はぁ......

 驚いて隙だらけになっているもょもとの首を掴んで捕獲。さぁ、お前の今後を左右する時間だ。


「これで、逃げられないね。さて、君には二つの選択肢がある......いや、三つの選択肢がある。さぁこの中から好きに選んでいいよ。

 一、このまま死ぬ

 二、家畜になる

 三、ガッツリ俺にモフられてから送還される

 ......さぁ、五秒以内に選んでくれ」


 殺ろうとしてきた時点で穏便な送還及びウチの子になる選択肢は消えた。勝手に喚び出しといて理不尽とかは思わない。コミュニケーションを取ろうともせずに殺りにきたのならば仕方ないだろう。

 俺だって前に召喚された時は一応事情を理解しようとしたりしたし......うん。


「ごーっ」


 グルグル唸っているもょもと。言葉は理解出来ているのか......まぁ鑑定バグらせるくらいだし理解しているだろう......


「よぉーん」


 俺の肘辺りで爪を研ぐもょもと。逃がすわけないだろう?


「サァン」


 爪研ぎ継続ちう。


「にーぃ」


 爪研ぎがより一層激しくなる。

 しかしこうかがないみたいだ......▽


「いーち」


「グルルルルルァッ!!」


 口から黒いビームが飛んできた。なんだそれお前!! カッコイイやんけクソがっ!! だが残念、それ闇っぽいから全く効かないんだよ。


「ゼロ〜」


 ここまでやって、断念したのか抵抗が無くなる。家畜ルートを選んだのかな? 手を離すとそのまま地に落ち、項垂れるもょもとへ一つ命令を下す。


「伏せ」


「ガァァァァァッ!!!」


 一瞬伏せたかと思ったら、それはネコ科特有の飛び掛かる寸前のポーズで......


「......おいおい」


 こちらへ飛び掛かると見せかけて宙空を蹴り一目散に逃げていった。


「............はぁ」


 瞬時に迎撃しようと手に出したこのブラックホールの行き場が無く悲しい。


「アレを追って、吸い込め」


 なんとなく悲しそうなブラックホールへ命令を下して射出した。......帰ろう。






 お家の敷地方面へトボトボと歩いていると、鷹さんがウサギを脚で掴みながら俺の方へ飛んできた。魔力使ったのを察知して急いで飛んできてくれたんだろうけど、ウサギが脱力してぶら下がってるので獲物を捕まえて巣に運んでる最中に見えてしまう。


「キュルルルルル」

「ピィーーッ」


 目的地に着いた事で鷹からパージされたウサギが俺の足元にお座りして鳴く。エセウサギよりもこっちの方が断然可愛い。鷹もその横にチョコンと着地。上目遣いがエグい可愛い......


「抱っこしてあげる。一緒に帰ろう」


 この子たち、大罪を裏切れるかな? 忠誠心があっちに向いてなければウチの子にしたいわぁ......

 猫にヤられたメンタルが回復していく。癒しって大事。アニマルセラピーって偉大。





 ──────────────────────────────


 コロナが急に軽視されるようになったお陰でイベントが開催されるようになり、住んでる地域の人手が足りないとかの理由でやっすいギャラで金、土と何故か動員されてしまいました。

 日曜日はその反動か爆睡してしまい、起きた時にはあと数分で日曜日が終わる寸前で......はい、昨日更新出来ませんでした。ごめんなさい。


 一日ズレましたが楽しんで頂ければ幸いです。

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