第335話 召喚士とは

 さて、腹は膨れて心も潤った。機は熟した。

 それでは本日のメインイベントを始めるとしましょうか。


 使い方は知らない。見たい物の前にコレを持ってって魔力でも流してみようと思う。

 これでダメなら一度人里に降りて過去の文献でも漁って来ようと思う。さぁどうだ?


 ▼召喚士

 魔力を消費して召喚する

 召喚されたものは任意で送還できる

 消費魔力は召喚したものの強さや難易度に比例する


 NEW→知っているモノならば理解していなくても召喚可能

 例外は存在し召喚士が潜在意識下で苦手なモノはどう足掻いても召喚不可能

 別世界のモノならば理を捻じ曲げ、召喚されるモノは魔力で作成された同じモノが召喚される

 同世界のモノならば本物が召喚される

 生き物も召喚可能、だが召喚士の手に余るモノが召喚される恐れ有り

 曖昧な設定で召喚を行うと召喚時に自動で最適化されたモノになる時もある▼




 ......あのさぁ。うんほんと、マジで......はぁ。


「あのさぁ!! おいクソボケカス!! 己の持つ能力くらい最初から全部表示させとけや!! クソボケコラ何の為のにあるんだよ鑑定お前だよボケアホコラ!! シ〇ト!! フ〇ァァァァァッック!!」


 思わず叫んでしまったではないか。

 いやこれさぁ......ホントさぁ......最初にわんこを願ったからよかったモノの、最初ににゃんこを願って試していたら......その後の俺は確実に自暴自棄になってガチのワールドエネミー一直線だったやんけ!!


 あんこたん相手になら使う必要はないけど、もしクソみたいのが出てきちゃった時の為に隷属機能くらい付けとけやド畜生ッ!!


 異世界なら......ッッ!! 異世界ならばッッ!! にゃんこも俺に懐くのではないのか......ッッ!! ってザワザワしながら試して......数分後にはソウルジェムが真っ黒になっているなんて事が起きるのは間違いないだろう。いやー乱世乱世。

 他ならぬ俺の事だもの、きっと......というか確実にそうなっていたわな。間違いなく今のハートフルな人生とは真逆だった。


 ......ハッ!? そういえばラーメンスープとか、アチアチの料理とか出来たてホヤホヤの焼き鳥とかが出てこなかったのって......まさか、俺が猫舌でアチアチの物が苦手だったからなのか!? 蒸かしたてのあんまんとか焼きたてのたこ焼きとか、大好きだけど不倶戴天の敵かと思うくらいに俺特効付いてたし......

 めっちゃフーフーしてほんのり暖かい程度まで冷まさないと食えない俺への当て付けかぁぁぁぁ!!


 オノレェッ!!! ここでも猫かッ!! 猫が俺の幸せを悉く邪魔し腐りやがってたのかッッ!!


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」


 掌で砂になっていく宝玉を握り潰しながら思わず叫んでしまった。異世界の山中で何かを叫んだ。

 とりあえずこれさぁ......本当にさぁ......やっぱりさぁ自分の能力くらいは完璧な解析を出しやがれよ畜生っ......ふっっざけんなよ!!

 本ッ当に神っぽいナニかよォ......数ヶ月、下手したら年単位にも及ぶ休載を経て連載を再開するも清書しないで週刊誌に載せちゃったみたいな悲しみを俺は感じたぞ。謝罪と賠償を要求したいぜ......今回のこの件では面白い話を生み出してくれた作者への感謝やリスペクト、単行本では綺麗に修正されていたなどのアレは無いからダイレクトに元凶へと俺の怨念は向かうんだぜ......へへへ。


 ......そうだ、召喚で元凶を喚べたりすんのかなぁ?

 もし喚べるようなら......顕現した瞬間に即、殺す。ウチの子はもし敵を瞬殺できなかった時、俺の不甲斐なさであの子たちを危険に晒す羽目になってしまう危険があるから......コレは俺一人でやるべき案件だろう。

 ......っし、早速今夜にでもるか――いや、殺ってやる!!!


「くぅん......」


「......へぁ!?」


 あまりの腹立たしさに闇堕ち寸前、覚悟を決めた俺の前に現れたのはマイエンジェルあんこお嬢様。やっぱりアレよね、最初にあんこちゃんを願った俺、マジでグッジョブすぎりゅ。あの場面がガチの分水嶺だったんだなぁ......


 あんこたんだいしゅき。ふふふ、あと十数時間の辛抱だよ、俺が後腐れなく安心安全な異世界生活にしてあげるからね......


『どうしたの? 嫌なことあったの?』


 俺のふくらはぎをカリカリしながら超絶上目遣いで俺を心配そうに見てくるガチ天使。涙目は止めて欲しい......罪悪感で死んでしまいそうだ。

 ありがとう、沸騰していた頭が急速冷凍されたわ......


「あのね、俺と一緒になってくれてありがとう。心配してくれてありがとう。ずっとずっと大好きだよ」


 あんこのちょっと後ろで心配そうにしながら待機している天使たちもしゅき。しゅきしゅき。

 年功序列か順番待ちか知らないけどやっぱりあんこたんがトップバッター。これが正妻の貫禄か......なんちゃって。

 でもね、これはあかんすよ。もうゴールインしてもいいくらい好き。種族の壁? ンなもん知らん。


 ......チッ、命拾いしたなァ!! 名も姿形も知らないナニかよォ!! マイエンジェルの可愛さに感謝するんだなダボがぁ!!


『えへへー』


 子犬フォルムで甘えてくるのヤバすぎて生きるのが苦痛にならない! 幸せ! 手が止まらない!!


 あはぁぁぁぁぁぁん! 他の子も雪崩込んで来たのほぉぉぉぉぉ!! 時折り角がある子の角が刺さるけど幸せぇぇぇぇ!!




 ◇◇◇




 今日も朝起きて、ご主人の作る美味しいご飯を皆でおなかいっぱいになるまで食べて、苦しいのが無くなるまでゴロゴロしてからお外に出たの。


 ピノが畑にお水を撒いて欲しい、後お水を貯める場所にわたしの出すお水を追加して欲しいって言うから、それをやり終わって暇だったからピノの作るお野菜のお世話を手伝っていたの。


 ご主人と行ったお店とかで出てきた生のお野菜は本当は苦手だったの。残さず食べたけど......

 これまでご主人が出してくれたのは美味しいからパクパク食べてたから、それ以外のお野菜は苦手なんだって思わないよね。気付いて欲しかったなぁ。

 だから最初にピノが出してきた時も、その時の思い出が蘇ってきて食べたくなかったけど......可愛い弟の作ったモノだからと食べてみたら、ご主人の出してくれるモノと全然変わらなくてびっくりしたのを覚えてる。それ以来、わたしは暇な時にピノがお野菜作りをお手伝いしている。


 それで......えと、お手伝いの最中に、ご主人の声が聞こえてきたの......それも、本気で怒っている声が。

 怒っている時の声はわたしたちでも何回か聞いた事があるけど、ここまで色んな感情が籠った声は初めてで......


 とにかくすぐにご主人の所に行かなきゃってなって全力で駆け出しちゃった。畑のお野菜には悪い事をしちゃったからそこは後でピノに謝らないとだね。


 そして聞こえてきた二度目の叫び声。他の子たちにも聞こえたみたいでご主人の方に向かってくる気配がしてきた。ふふん、一番はわたしなの。


 そんなこんなで......ご主人の所へ駆けつけたんだけど......そこで見たご主人はこれまでわたしたちに見せた事のない怖い顔をしてボソボソと何かを呟いていたの。


 この時ご主人を初めて、怖いと思った。

 いつもわたしたちに向けてくる優しい顔じゃなかった。

 顔だけじゃなくて、抑えているつもりなんだろうけどご主人から漏れ出ている魔力も怖かった。自分でもしっぽが自然と丸まって垂れ下がるのがわかるくらいに。


 このままだと、ご主人が壊れちゃう。そんな気がした。


 ニコニコして抱きしめてくれるご主人。

 わたしの名前を呼びながら撫でてくれるご主人。

 大好きなピノたちとじゃれてるご主人。

 それと今のこの生活全て......ご主人が居て、わたしが居て、ピノが居て、ダイフクが居て、ツキミが居て、ヘカトンくんが居て、ワラビが居て、ウイが居て、しるこが居て、蜘蛛のお姉ちゃん、牛、ポロリも居る大好きな場所が全部無くなる気がしたの。


 だから......怖かったけど頑張った。


 ピノやダイフクがご主人に言う事を聞かせるための方法って笑いながら言っていた事を試したの。

 効くなんて思っていなくて話半分で聞き流していたソレ。


『信じてないなー、なら今度今言った事をツキミと一緒に試してみればいいよ。通じなかったら僕らの負け、通じたら僕らの勝ちね』


 うん、ご主人は瞬殺でピノたちの勝ちだった。凄いね、ピノとダイフク。


『目を潤ませながらやると凄い効くよ』


 これも思い出したから水魔法で潤いを増したら、いつものご主人が戻ってきてくれた。

 ごめんねって言いながら撫でてくれた。抱きしめてくれた。それでわたしもいっぱい甘えられて嬉しかったの。


 後ろに皆が居るのはわかるけど、これは一番最初に着いたわたしの特権だから待っててね。えへへ。

 まぁわたしのことを羨ましそうにしてた皆がその後すぐにご主人に突撃してきてめちゃくちゃになっちったけど......独り占めの時間は短かったけど嬉しかった。


『ね、言った通りだったでしょ』


 むぅ......勝ち誇ってるピノとダイフクにちょっとだけイラッとした。悔しいけどその通りだった。


『いいもん。今度ピノとダイフクが構ってほしいけど素直になれないって事をご主人に言うから』


『えっ!?』

『ちょっ......』


 幸せな時間を邪魔したからお仕置き。今更焦っても遅いんだから!!


 でも......ご主人が元に戻ってくれて本当によかった。もう怖いご主人は嫌だからやめてね!!

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