第333話 人間って......
......あー、思い出した。居たわ、居た。そんなん。
なるほど、コイツらがそうなんか......なるほどー。
「七大罪を自称する自称魔王ねぇ......ゴキとカメムシは殺した覚えあるよ、うん。ソイツらは後継者が正式に跡を継いだ......と」
事情を聞いてみるとまぁアレだ。俺が人間界でドデカく動いた事を眷属経由で知ったコイツら。
俺らに殺された馬鹿共の所為で争う気の無いコイツらは立場がクソ危ういと気付き、不可侵条約or軍門に下りたい事を伝える為にすっ飛んできたらしい。
んで、結界前で勢いで来たモノの日も昇ってないし結界が意味わからんしで右往左往していたら、外敵襲来と思ったヘカトンくんが牛を連れて襲撃し今に至る。
ヘカトンくん曰く、久しぶりに俺と一緒の空間で寝れていたのにソレを邪魔すると思しきヤツらが来たからとりあえず制圧した......らしい。
んもう、可愛い!! そんで、アレだ。この子はなんかもう色々と優秀すぎる!! ウチの子はやっぱり皆凄いわ。
「野生のカエルやウサギ、鳥やネズミらを使役して情報伝達手段として使っていた。敵意も悪意も微塵も無いけど世界の脅威となり得る存在だから無視は出来ないので逐一行動を報告させていた。気を悪くさせたのなら申し訳ない」
こう答えたのはジェラシーのダークエルフさん。ジェラりたくないから人心掌握や使役・隷属に全てを懸けた戦闘能力皆無な人。いつの間にか嫉妬の大罪にどーのこーので今に至るらしい。
「本当に争う意思は無いですね、戦うとか本当に面倒で面倒で......部下に金を稼がせてアガリをせしめて生活している今が最高だから......」
立ち姿で微動だにしないイメージのあるハシビロコウが正座している意味わからん光景に吹き出しそうになるが我慢だ。ちなみにウサギもカエルもネズミもちゃんと正座している。異世界の生き物の身体がどういう構造をしているかわからんけど......一つ言える事がある。ファンタジーってしゅごい。
ちなみにハシビロコウは怠惰らしい。生まれつき戦意喪失、やる気消失させる何かを発する事が出来て、やたらめったら撒き散らしていたらいつの間にかこの地位に居たそうだ。不労所得で生活する今が大好きだから出来ればこのままがいいそうだ。要するに地位のあるニート。地位があるのにニート......社内ニートみたいなモンか。
「まぁ実害なさそうだし、暴れたら即殺せばいいからもう牛くんたちは退いていいよ。ありがとね、後でお礼の品持ってくよ」
牛たちは何も言わずに大罪たちから退き、俺の指示に従い牧場の方へ歩いていった。脱走を試みようとする牛が一頭もいないのは驚きだった。
「さて、椅子とか御座とかは何も用意する気はないけど普通に座っていいよ。んで何? 君たちは恭順の意を示しに来た訳かな?」
「ゲゲッ、ゲコゲコッ」
なるほど、わからん。喋れないのもおるんかい!!
このカエルはなんだっけ......あ、確か傲慢か。偉そうな事ほざいてたら活き造りにしてやろうか。
ちなみに誰も正座を崩そうとしない。部下っポイ後ろのは自由になってからずっと土下座している。
「......通訳誰かしてくんない?」
「争う気はない。全面降伏......って言ってる。我らとしては安全を保証してほしい」
ウサギが話し出した。正座だからすっごい視界に入ってくるんだが、なんでコイツは最初見た時からずっと陰茎をオッ勃てているんだろうか。気持ち悪いくらいにデカいし......
ウサギの性欲と大罪の色欲がフュージョンした結果、ずっとギンギンになるスキルになったのか? ......もしウチの子に欲情する素振りを見せでもしたら、その反り立ったブツを切り落としてやる。
「......話はわかった。んで俺がそれを受け入れる事に対してのメリットは? ぶっちゃけカメムシとゴキの所為と夜明け前の侵攻で印象最悪だからなお前たち」
「......本当に申し訳ありません。先ずはこちらをお納めください」
ネズミが......口の中に手を突っ込み頬巾着袋みたいなモノを取り出し渡してきた。暴食......だっけか? 頬袋がインベントリみたいになっているんだろうけど、口から出たもんを受け取りたくねぇっす......
「すいません、取り出した時の見た目は最悪かも知れないっすが、あの......別空間になっているんで汚くはないっす......」
ちょっとでもヌメってたらお支払い魔力マシマシの殺鼠剤ぶち込んでやる。
「......コレは?」
巾着袋の中には極彩色の占い師が持つサイズの水晶玉が一つ、丁寧な梱包が施された状態で入っていた。他にも宝石みたいのも入っていたが、それらは普通の宝石でなんの力も無いっぽい。
「使い切りですが、同アイテム以外なら鑑定したい事柄を完全に鑑定してくれる宝玉になります。どういった素材が使用されているか、精製方法は何か、複製出来るのか、等が全て謎に包まれている極めて貴重な品です。こちらをお納め頂きたい」
ジェラシーエルフさんが手に持つ宝玉について説明してくれた。俺も鑑定を掛けてみたが――
▼叡智のお裾分け
一度鑑定すると壊れ砂になるが、調べたい事柄を完全に鑑定する▼
大体説明と合っていた。聞いたのは俺の鑑定よりも上位の鑑定を持っている人が鑑定した結果なんだろう。
かなり厳かな名前だから......あの玉はきっとゲームなんかで見る神話級とか幻想級とか、そういった区分のアイテムなんだろう。
そりゃあ口ん中のインベントリに隠しておかないと怖くて持ち運べないわな。意図的に壊せるモンか知らないけど壊したらヤバそうだし、こんなモンが頭だけはキレる小狡い悪党とかに渡ったとしたら目も当てられない。
それに、多分俺のお取り寄せやダンマス権限のアイテム精製を出来る草野でも複製的なのは不可能だろう。根拠は無いけど絶対に試そうとしない方がいいと心の中のリトルシアンが警告してきている。
ガチの神造物なんだろうね、コレ。お裾分けって書いてあるし。ファンタジーで出てくるような神アイテムならば余裕でイケるだろうけど、コレは無理だ。
こういう予感には素直に従っておくのが長生きするコツだ......寿命は無いけど、死はあるだろうし。
うん、これはイイもん貰った。予想以上のモノを貰ったし、コイツらはガチで敵対する気は無さそう。ならば友好的にいこうか。だがゴキとカメムシは別。
「なるほど......十分だ。そちらから手出しして来ない限り、こちらから手を出す事はしない。間接的にこちらに迷惑が掛かる事案があれば警告を出す......これでいいかな? だが正直君たちと別勢力の生き物の区別は付かないし、この山の中や移動先で邪魔に思った君たち似の生物の安全は保証しない。あーそれと、ゴキブリとカメムシは問答無用で殺るけど許してね......」
コレは今俺が思い付く最大限の条約を提示したつもりと思うけど......どうだろうか。
「私らも全て掌握している訳では無いのでそれは構いません。今ここに居ない種族についても我らから離反しているので構いません。
ですが緊急時の連絡要員として......こちら......こちらの二羽を置くのは許して貰えないでしょうか」
ジェラエルフがコイツらの代表なのかずっと喋っている。そして紹介されたのがウサギとタカの二羽。
タカの方は社内ニートの為に頑張っている子なのだろう。ウサギは......うん、ウチのなんちゃってウサギより可愛い。最近はコンプライアンスやセンシティブなのに厳しいからポロリしない子っていいな。
「わかった。けど間違って殺っちゃわないよう他と見分けがつくように何かしら目印を付けておいて」
「わかりました」
指示に従ったジェラエルフさんが何かスカーフみたいのを二羽に巻いていく。よし、これでこの近辺だけになるがとりあえずの敵らしい敵は居なくなった。もう昨日まででかなり完成していたが、これで本当に落ち着いたスローライフの完成である。
「改めまして、この度は急がなければという思いが先行し非常識な時間に訪問してしまった事をお詫び申し上げます。にも関わらず寛大な御心で我らの願いを叶えてくださった事に感謝の念が耐えません」
そう言って深々と頭を下げるジェラエルフ、それに続いて大罪一派も。なによもう、人間なんかよりも余程礼儀正しいやんか......やっぱ人間ってクソだわ。
「こっちもやりすぎてごめんね。色々あってピリピリしてたから......うん」
これにて一件落着かな? ボロボロな手下たちは一匹ずつポーションをぶっ掛けてから解放。ペコペコしながら自身の持つ領地へと帰って行った。
「さて......と、お前らは......んー、よし」
全員が去ったのを確認した後、この場に残ったウサギとタカに目を向ける。アイツらの配下から急な異動で俺の配下的な扱いになった不憫な子たち。
ウサギはザ・ウサギ! って感じの真っ白な体毛とピンとした耳、真っ赤なクリクリお目目のメスのウサちゃん。だけど日本で見るようなのよりもデカく、中型犬より少し小さいかなってサイズ。
タカもザ・タカ! って感じの凛々しいタカさん。全体的に茶色で羽先とアンヨは真っ白、お目目は真っ黒でシャープのオスのタカ。こちらもサイズは日本のよりも一回り以上デカい。
「とりあえず君らは結界外で活動しておいて。この中に入れるかはもう少し様子を見てからかな。
家は......そうだね、コレを使ってよ。緊急で連絡したい時はコイツのこのボタンを押せば誰かしら出てくるから」
名前とかは愛着が湧いてから......って思ったけど結構この時点で危うい。家としてウサギ小屋と鳥用の巣箱をあげたら感激したのかすりすりしてくるんだもの。まだだ、まだ絆されんぞ!!
緊急時のアレとしてトランシーバーっぽいのを渡し、やり方を説明。とりあえず家に置いてある子機が作動したら外に出ればいいかなって感じ。
「付き合ってくれてありがとツキミちゃん。一緒にお昼寝でもしよっか」
『うん!』
ハンモックをササッと吊るして乗っかり、お腹をポンポンってするとツキミちゃんが飛び込んでくる。やぱ可愛いわ。
『今日はワタシが独り占めっ!!』
こういうダダ甘な時間が好き。癒しって大事。
さぁツキミちゃん!!
皆が戻ってくるまでイチャつこうじゃないか!!
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